Pirates Xmas (前編)




航海を続け、様々な国を見て回った。
来年の春には青の国へ戻る。
それまでにまだ行ったことのない航路へ足を伸ばそうと海の果てを目指した。
北へ、北へと針路を取って、数週間目のある日、雪が降った。
「雪だ、雪!オレ、本物見たの初めて!」
英二が甲板で手を広げ、空を見上げる。
灰色の雲から、白い雪がとめどなく落ちてくる光景は、英二にとって異世界に来たような感動だった。
「英二、薄着でいると風邪引くぞ」
甲板で自らも雪のようにくるくると回りながら喜んでいる英二に大石が上着を着せ掛ける。
中にたっぷりと羽毛が入った上着は、冬の長い青の国では必需品だった物だ。
「ね、大石、このまま雪が降ってたら雪だるま作れるかな」
「船が停泊しているならともかく、走ってる状態じゃ積もることはないだろうな」
「じゃあさ、バケツ持って降ってくる雪を集めたら?」
「うーん、もっと降らないと無理だろうな」
「ダメかぁ・・・」
がっかりと顔に書いた英二に大石も眉を寄せる。
英二の望みであれば叶えてやりたい。
丁度甲板へ出てきた柳にその話をすると、それなら、と柳が手にしていた海図を開いた。
「もう少し北へ行くとクリスマス島がある。一年中雪が降っているそこなら、雪だるまでも雪の彫像でも作れるぞ」
「クリスマス島か。どんな所なんだ?」
「人口はおよそ300人程度の小さな島で、漁業で生計を立てている。この界隈にしか生息していない小型の海獣なども獲れるから、牙や皮の加工品も生産している。あと、有名なのは祭りだな」
「お祭り?どんな?」
英二の目が輝いたのに柳が笑う。
「信仰から発祥したもので12月25日を聖なる日として祝う。島を挙げての祭りで観光客なども訪れるらしい」
「25日って明後日じゃん!それまでにその島に着けるの?」
「特に問題が発生しなければ25日の15時前後に到着できる」
「おーいし!行こ?行きたい!」
英二が船長である大石に向かって力説する。
完全におねだりモードの英二に大石が否やと言うはずも無く、それどころか恋人の願いなら何をおいても叶えようとする大石によって、クリスマス島に寄港と決まった。



天候に大きな乱れもなく、25日の昼過ぎにはクリスマス島が肉眼で見えるところまで近づいた。
昼とはいえ雪を振らせる雲は厚く垂れ籠め、陽の光を遮った空は薄暗い。
その代わりとでもいうように、雪の積もった島は中央にある小さな山と共に、一面の銀世界で眩い光を放っている。
遠目から見ると真っ白な島が淡く輝いているようにさえ見えた。
「あれがクリスマス島?」
「そのようだな」
「すごい、なんか幻の島みたい」
英二がうっとりと呟くのに大石も頷く。
「まだ祭りは始まっていないな」
柳が言うのに、え?と英二が聞き返す。
「こんな遠くからでも、お祭りしてるかしてないかわかんの?」
英二が疑問を口にした時、島に変化が起こった。
それまで白く光っていた島が突然色鮮やかに姿を変える。
赤、緑、黄色、青、ピンク、紫、オレンジ、金、この世の色という色がいっせいに弾けたように瞬いた。
「うわっ!なに、あれ!」
「祭りが始まったようだ」
きらびやかな光の洪水に英二が感嘆の声を漏らす。
島に近づくにつれ、光と共に軽快な音楽も聞こえ出した。
「おお、賑やかなもんじゃのう。まさに祭りちぅ感じじゃ」
「すっげ―!すっげー!」
甲板にいた他の者たちも一様にその光景に釘付けになる。
慈郎などは興奮して船縁から落ちそうになり、慌てた黒羽が襟首を掴んで引っ張り上げた。



船を島の港に接岸すると、摩訶不思議な格好の島民たちに出迎えられた。
頭に星が付いていたり、飾り立てたツリーの着ぐるみだったりと他所ではあまり見ない服を着ている。
「いらっしゃいませ〜クリスマス島へようこそ〜」
にこやかな島民にあっという間に囲まれた大石たちは、大きな木箱から出された衣装を次々に合わせられた。
「はい、あんたはトナカイや」
「こちらさんは聖夜の精霊って感じやん?」
「自分、ピエロ似合うわ」
島民たちはそれぞれ好き勝手なことを言いながら衣装を配る。
雪の妖精だと渡された服や小物を手に英二がぽかんとしていると、柳が「そういえば」 と思い出したように呟いた。
「祭りに参加する条件として仮装とあったな」
「仮装・・・オレがこれを着るってこと?雪の妖精?」
「どの役を割り当てられるかは島民の感性によるらしい。ちなみに祭りに参加したいなら拒否権はないぞ」
笑う柳が手にしている衣装は聖夜の精霊で、黒の長いローブに銀の飾りが随所に散りばめられている。
英二のは白い羽飾りやリボンがふんだんに使われた衣装で、雪の結晶をあしらった帽子が付いていた。
周りを見るとすでにそれぞれが衣装を手渡され、広げて自分に合わせたり笑いが起こったりしている。
「うん、なんか面白そうかも!大石は何になるんだろ?」
一緒に船から降りてきたはずの大石を探すと、ひときわ珍妙な衣装を着た島民2人に捕まっているところだった。
片方はゆうに1mはありそうな頭周りのカツラをかぶり、胸には真っ赤なハートマーク、背には天使の小さな羽根を付けている。
もう片方は目元を赤いマスクで覆い、青のぴったりとした上下に緑のパンツ、黄色いマントという恰好だ。
「このお兄さん素敵!ロックオーン!」
「浮気か?!」
大きな頭の島民が困惑した大石の腕を取って組み、もう1人の島民がそれを邪魔している。
くねくねと妖しい動きをしているが、大石にべったりとくっついているのはどう見ても男だ。
「あのさ、柳。・・・もしかして大石ピンチ?」
「とりあえず生命の危機はなさそうだが」
「貞操の危機はどうかのぅ・・・」
楽しげに嫌なことを言う仁王を一睨みして英二は再び大石の方を見た。
ただふざけてるようにしか見えず、助けにいくべきかどうかの判断に迷う。
大きな頭を押し付けている島民が、不気味な流し目を大石に向けた。
「知ってるでぇ、青の王子様。王族辞典の肖像画で見るより全然イケてるやないの〜。決まり!今日の主役はあ・な・た・よ!」
言うなり大石は止める間もなく連れて行かれてしまった。
「あ、大石が・・・」
「主役ということはサンタクロースか。確かプレゼントを参加者に配る役目だったな。終われば戻ってくるだろう」
連れ去られた方角を呆然と見ている英二の肩を慰めるように柳が叩く。
「大石が連れて行かれるのを黙って見とるとは珍しいのう。怒って取り返しに行かんの?」
ニヤニヤ笑っている仁王に英二が困ったように顔をしかめる。
「・・・だって、アレにヤキモチ妬いたら、さすがに大石が可哀想かな、って」
「あー、・・・なるほど」
納得したといふうに仁王が苦笑う。
「とりあえず俺たちも着替えよう。もうみんな行ったようだ」
柳が差す方向には数人で使う着替え用の小屋がいくつか並んでいた。
慈郎や黒羽が小屋へ入っていくのが見える。
「そだね、まずは着替えてお祭りに行こ。大石もあとから来るんだし。ところで柳、大石がやる役のタンスクロークって何?」
「サンタクロースだ。簡単に言えば子供たちにプレゼントを配る聖人だな」
「子供にプレゼントあげる聖人?」
「王子は貰えるから心配しなさんな」
「それってオレが子供だってことー?!」
怒る英二と大笑いしている仁王を諫めて柳は仮設小屋へ入る。
賑やかな音楽が島中に響き渡り、柳ですら気分が浮き立ってくるのを感じていた。



赤の上下と同色の帽子、おまけに真っ白な付け髭まで渡されて大石は戸惑った。
「さ、早く着て見・せ・て」
小春と名乗った頭の大きな島民は、ほらほらと手を伸ばしてくる。
油断すると服を脱がそうとしてくる小春をさりげなくかわしながら、大石は主役って何をするんだ?と訪ねた。
「みんなに夢を与える役。アタシにもいい夢見させてぇ〜」
「っと、・・・具体的には?」
抱き付こうとした小春を機敏に避けて大石は質問を続ける。
油断も隙もない相手だが、腹が立つというよりはどうにもおかしくて笑ってしまう。
幼い頃から女性には優しくするよう教えられてきた大石は、男だとわかっていても女性のような喋り方をしてくねくねとシナを作る小春を邪険にできない。
逃げ回る大石に小春が諦めたように溜息をついた。
「いけずやわぁ、この兄ちゃん。ま、格好ええから許したるけど。主役はな、みんなにプレゼントを配るんや」
「わかった。着替えるから、部屋から出てもらえるとありがたいな」
「目の保養くらいさしてくれてもバチ当たらへんでぇ」
「やれやれ・・・」
一向に部屋を出て行く気配の無い小春に観念して大石は着替え始める。
絡みつくような視線に多少の気味悪さを感じたが、同じ男なんだし、と気にしないことにした。
襟と裾に白いボアが付いた赤い上下は着てみると暖かく、これなら外に出ても寒さは問題ないと思える。
仕上げに赤い帽子をかぶって白い髭を付け、大石の仮装が完了した。
「はぁ〜、鼻血吹きそうやったわぁ・・・し・あ・わ・せ・v」
「配るプレゼントというのは?」
「こっちよ。来てv」
またもや大石の腕を取り、寄り添うようにくっついてくる小春に大石は苦笑う。
早いとこプレゼント配りという役目を終えて小春から逃げるしかないようだ。




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