Pirates Xmas (後編)




着替え用の仮説小屋から出た英二たちが島民に案内されたのは、島の中央広場だった。
楽団がテンポのいい音楽を演奏し、色も姿も様々な扮装をした島民や観光客たちが思い思いに踊ったり歌ったりしている。
広場には多くの屋台が並び、食べ物や飲み物を振舞う。
辺りにはロウソクと共に金銀のモールや色鮮やかに明滅する電飾が飾られ、舞う雪と積雪に反射して御伽の国に迷い込んだかのようだった。
その広場の中でも一際目立つのは中央の巨木。
枝々に雪を乗せ、さらに飾りやロウソクが溢れんばかりに付けられた木は、見上げても1番上が見えないほどの高さがある。
「これって木だったんだ。オレ、船から見た時、山だと思ってた」
「これ程の巨木だと樹齢はどのくらいになるんだろうな」
祭りの喧騒を背に木を見上げている英二と柳に仁王が呆れたように声をかけた。
「・・・お前さんたち、どこを向いとるんじゃ」
「だって、こんなでっかい木って初めて見たんだもん」
「確かに珍しいがの、せっかく祭りに来たんじゃ、木なんて見ちょらんと、ほれ!」
道化師の扮装をした仁王に押されて英二が踊りの輪に飛び込む。
「あー!王子だー!」
トナカイの着ぐるみを来た慈郎に手を引かれ、英二は輪の中央で一緒に踊る。
「慈郎はトナカイなんだ、すっごい似合ってる!」
「王子も可愛いーよ!それ何の衣装ー?」
「オレは雪の妖精だって」
「そうなんだー。あのね、黒羽は、ノームなんだよー」
慈郎が笑いを噛み殺すようにして指差す方を見ると、丈の短い緑の上下に先が尖った皮靴を履いた森の妖精、ノーム黒羽がいた。
頭には緑のとんがり帽子をかぶって、島民の老人に変な踊りを指南されている。
「ぷぷっ、なに、あれ。黒羽、なにしてんの?」
「ノームの踊りっていうんだってー。でもトナカイの踊りは無いんだぁ、つまんないCー」
「面白い踊りだね、ノーム」
合間にノームの振り付けを真似て笑いながら慈郎と英二が踊る。
テンポが速くなった曲に合わせて、やけになった黒羽が勢いよくノーム踊りを繰り広げ、周りから爆笑が起こった。

「せっかく祭りに来たんじゃ。見てるだけちゅうんはつまらなかろ?」
「俺はここで、」
飲み物を片手に祭りを傍観していた柳を仁王が強引に踊りの輪に引っ張って行く。
輪の中央まで進むと仁王は胸に手を当てて恭しく一礼してみせた。
仁王の意図に気づいた柳が逃げ出そうとするのを英二と慈郎が遮り、仁王の方へと押し出す。
周りからは拍手が起こり、逃げられなくなった柳は天を仰いだ。
「諦めが肝心ぜよ、柳」
「・・・覚えてろ」
睨む柳の手を仁王が取り、人々の輪の中で曲に合わせて宮廷で踊るようなダンスを始めた。
動きに合わせて柳の長いローブが翻り、仁王の衣装に付いた鈴が軽やかな音を立てる。
「・・・なぜ俺が女性役なのか聞きたいものだな」
「俺は男役の方しか踊れないんよ。お前さんはどっちも踊れるじゃろ?」
「そんな理由で納得いくか」
憮然とした顔をしていても、子供の頃から教養の一環としてダンスを習っている2人の動きは、流れるような優雅さと目を引く華やかさがある。
周りの者たちも踊る足を止めて魅入り、感嘆の溜息があちこちから聞こえた。
「うわぁ・・・、キレイだね、柳と仁王。慈郎はああいうの踊れる?」
「教わった気がするけど、半分寝てたC−。忘れちゃった。あ、でもアレなら踊れるよ!」
だんだん楽しくなってきたのか乗りに乗って踊っている黒羽を慈郎が指差す。
「オレも!見てたら覚えちゃった。あっち行って一緒に踊ろっか?」
「踊ろー!」
英二と慈郎は走って黒羽の所へ行き、隣に立って一緒にノームの踊りを始める。
笑って見ていた者たちも次々参加し始めた。
「良かったね、黒羽。大人気じゃん!」
「だな。最初はどうしようかと思ったけどよ、やってみるとなんだか楽しくなってきてな」
笑う黒羽と拳をぶつけ合って英二も笑う。

しばらくみんなでノーム踊りを続け、疲れたのと空腹なので踊りの輪から外れて屋台に移動した英二は、本物のトナカイを2頭立てにしたソリに乗って、颯爽と登場した大石に目を丸くした。
赤い服に髭までつけた大石は広場の中央で手綱を引きソリを止める。
踊っていた者たちもみんな広場の中央へ集まり、口々にメリークリスマス!と声を上げている。
同じように踊りの輪から移動してきた仁王が、サンタクロースの装束を身につけた大石を見て口笛を吹いた。
「主役の登場か。なかなか様になっとるのう」
「あれが主役の衣装なの?赤い服来た大石って、オレ初めて見たかも」
「大石は黒ばかり着とったからの。こんな機会でも無けりゃ赤なんて着んじゃろ」
ソリから降りた大石は歓声に答えるように手を振り、担いでいた大きな袋を地面に下ろした。
途端にわっと人が駆け寄り、人波に大石の姿が隠れる。
「・・・主役って大変そう。大石、大丈夫かなぁ」
「のんびり感想述べとらんと、お前さんもプレゼント貰いに行きんしゃい」
「・・・あの中に?」
大石が立っていた辺りはプレゼントを貰いに行った人でごった返している。
「俺は行くぞ!」
「俺も行くC−!」
いつの間に来ていたのか黒羽と慈郎が広場の中央に突入していく。
力も上背もある黒羽は人の中に入れたが、小柄な慈郎は群がる人々に弾き飛ばされ、それならと、四つん這いになって人の足の間を抜けていった。
中で揉みくちゃになったのか、プレゼントを手に戻ってくる人は帽子が取れたり衣装が破けたりしている。
少しして戻ってきた黒羽も例外ではなく、初めに頭に乗っていた緑の三角帽子が無くなり、代わりのように誰かの天使の輪っかが頭に乗っていた。
トナカイだった慈郎は角が両方とも取れてしまい、ただのモコモコした不思議な生き物になっている。
恰好はボロボロだが、2人とも戦利品を手に大喜びしている。
「オレ、もちょっと後で貰いに行こっかな・・・」
「まぁ、それが無難か」
「ところで仁王、柳は?」
「お嬢さん方に頼まれて向こうでダンスを教えとるよ」
「あー!さっきのダンス!あれ、すっごいカッコよかった!オレも踊りたい!」
「それじゃ、俺と踊ろうか、英二」
背後からかけられた声に英二が驚いて振り向く。
帽子も髭も取れてしまっていたが、赤いサンタクロースの衣装を着た大石が立っていた。
「おーいし!」
がばっと抱きついてきた英二に笑って、大石も英二を抱きしめる。
「まだ、あの中にいるのかと思った!いつ出てきたの?」
「袋を開けたら人が殺到してきたから、紛れて抜けて来たんだ。抜け出すのも大変だったけどね」
ほら、と大石が英二の手に赤いリボンがかかった小さな箱を渡す。
「英二、メリークリスマス」
「ありがと、大石!でも、メリークリスマスってなに?さっき、みんなも言ってたけど、どういう意味?」
「よくは知らないがお祝いの言葉だそうだ。おめでとう、みたいなものかな」
「そうなんだ。じゃ、大石も、メリークリスマス!」
祝いの言葉を交わして大石と英二が笑いあう。
プレゼントも行き渡ったのか、広場に集まっていた人々がまた踊りに散っていった。
「その衣装、良く似合ってるけど、英二は何の扮装なんだ?」
「オレは雪の妖精だよ」
「そうか。では、雪の妖精さん、よろしければ俺と一曲」
大石が胸に手を当て恭しく礼をする。
「喜んで!」
差し出された手を英二が取り、2人で踊り始めた。
柳に教わった人たちなのか、周りでも同じように2人1組で手を取り合って踊っている。
その中には大きな頭の小春と黄色いマントの彼もいた。
慈郎と黒羽は輪の外で相変らずノーム踊りをやっていて、それを見て仁王が笑っている。
柳の周りにはまだダンスの教えを請う人が列を作っている。
楽団は休むことなく音楽を奏で続け、明滅する色とりどりの灯りが雪に反射する。
不思議な衣装を身につけた人々が踊り、笑い、食べて飲んで、そうして幻想のような祭りは朝まで続いた。




→end                                               (2008・12・24〜25)