海に咲く夢 2部 11




仲介屋が持ってきた新しい仕事は、東国の城内部での警備だった。
ただ、これは手始めで、働きぶりによっては新しい仕事がもらえるという。
報酬は前回よりは若干落ちるものの、仕事が増えればそれに応じて報酬も増えるという条件だ。
城の内部での仕事ということで、英二たちは一も二もなく引き受ける。
そして英二と仁王、南は、その日の内に宿を引き払い、城内の兵士が住まう宿舎へと連れて行かれた。

宿舎にはいかにも傭兵という外見の者が元々いた兵士達に混ざっていた。
「仕事の説明をする。新入りはこっちへ来い」
大柄な兵士が英二たちの他数名の傭兵に声をかける。
「お前達の仕事は城の警備と・・・」
仕事の内容を聞きながらも、入口脇で腕組みをしている男が英二は気になって仕方がなかった。
頬がこけ、ひどく顔色の悪いその男は、英二たち傭兵をずっと探るような視線で監視している。
宿舎に来た時に入口でその男と一瞬目が合ったが、血の気の少ない顔に目だけがぎらついて、ひどく不気味な印象が残った。
もしかしたら、大石を捕らえている奴らの仲間かもしれない。
英二の勘がそう告げる。
敵の顔を知っている仁王に後で聞いてみようと考えて、英二は説明をしている兵士に視線を戻した。



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赤也を買い物に行かせたブン太は、窓から赤也が城門を出て行くのを確認して、塔の最上階に登った。
昨日の夜、城外の露店主に化けている仲間から知らされた情報によれば、王子奪回計画は着々と進行し、別働隊の仲間も東国に潜入したとのことだった。
それなら作戦の第二段階、王子に自分の正体を明かして別働隊との連絡役を務める、というのに着手しなくてはならない。

牢に続く扉を開け、捕らわれた王子の前に立つ。
王子は相変わらず視線を向けることもなく、静かに石の床に座っていた。

「あんまり時間がないから単刀直入に言うぜ。俺はあんたの味方だ」
「・・・・・・・・・」

大石がブン太に視線を向ける。
言った事の真偽を図るような鋭い視線にブン太が苦笑いした。

「ま、急にそんなこと言われても、ってのはわかるけどよ。これを信じてもらえないと話が進まないからな」
「・・・話とは?」
「あんたと妹を助ける為の仲間が東国へ入った。二手に分かれて動いてるけど、その片方はもう東国の城内に入ってるらしいぜ」
「・・・そうか。それで?」
「これからは俺がそいつらとあんたとの間の連絡役になる。ってわけでさ、どーよ、俺のこと信用する気になった?」
「・・・・・・・・・」
「おいおい、だんまりかよ。そりゃねーだろぃ」
「・・・わかった、信じよう。ここへ潜入してきている仲間の詳細は掴めてるか?名前は?」
「悪ぃが、そこまではわかんねぇ。まだ会ってもいないし」
「そうか。わかったら教えてくれ」
「おーぅ、まかせとけって」

じゃーな、と笑ってブン太は牢を立ち去る。
王子の顔つきからいって、完全に信じたようでもなかったが、最初はそんなものだろうと思っていたから気には留めない。
とりあえず目的は達したし、そろそろ赤也が戻ってくる頃なので部屋にいなくてはならない。
ブン太は急ぎ足で塔の階段を降りる。
後は城内の仲間に大石とコンタクトを取ったことを話し、東国の外にいる仲間に使い鳥で報せるだけだ。
早く王子も王女も救出してやっかいな仕事を終わらせたい。
特にここ数日は木手の部下から造反者が何人もあぶり出されて捕まっている。
明日は我が身かと思うと、正直言って生きた心地がしなかった。

「あー、ホント、今からでも誰か代わってくんねーかなぁ。ま、無理だな。よっしゃ、ヤケ食いだ」
部屋に戻って冷蔵庫からケーキを取り出したところで赤也が帰ってきた。
「うっわ、さっき食ったばっかなのに、またケーキっすか!」
「うるせー、赤也。ちゃんとドラ焼き買ってきたかぁ?」
「買ってきたっす。つーか、アンタ、絶対、糖分取りすぎ。今に病気になりますって!」
「バーカ。俺は体が砂糖でできてんだから、病気になんかなるわけねーだろぃ」
「んな人間いないっすよ!」

なにかというとすぐにムキになる赤也をからかっているのは楽しい。
こうやってふざけている間は緊迫している状況も忘れていられた。
依然として赤也の怪しい行動は増えこそすれ、減ってはいないことをブン太もわかっていたのだが。



**



実際に警備に当たる前に現在の力量を計る為と称して、英二たち傭兵は中庭で兵士達と試合をさせられた。
他の傭兵達も腕を見込まれて雇われただけあって、軽々と対戦相手の兵士をいなしていく。
事前に仁王から本気を出さなくても充分勝てるから押さえていけと言われていた英二は、その言葉に従って半分程度の力で兵士に勝った。
同じようにあっさりと勝ってみせた南の隣に並び、仁王の試合を見学する。

ふと、注がれる視線に気づいて、英二が顔を上げる。
英二と南が立つ反対側、兵士の後ろに3人組の男が立っていた。
1人は宿舎で怪しいと感じていた男、もう1人は片眼鏡、もう1人はクセの強い黒髪の若い男。
もしかしたらと思うものの、敵の顔を見たことがある仁王は試合の真っ最中で話しかけることができない。
そうこうしてるうちに、その3人は立ち去ってしまい、英二は確認するチャンスを失ってしまった。
それでも3人の特徴を話せばわかるかもしれないと、英二は試合を終えた仁王を人の輪の外へ連れ出す。

「顔色の悪い男と、くせっ毛と片眼鏡、それだけではわからんのぅ」
「えー、ちゃんと思い出してよ!」
「そうは言うが、顔色の悪い奴なんてどこにでもおるじゃろ?他も同じじゃき」
態度も表情も崩さないが、英二は直感で仁王がなにか隠していると嗅ぎ付ける。
「・・・仁王、ホントに敵の中にそーいう奴いなかった?正直に言ってよ」
「特徴に合う奴がおったとしても、俺はそこにいた3人組を見とらんのじゃからわからん、そう言うちょる」
「むぅ・・・」

話す気のない仁王に口を割らせる方法が英二にはわからない。
なす術もなく横目で睨んでいると楽しそうに笑った仁王が、「確認できたら教えちゃるき」そう言って他の傭兵の所へ歩いていってしまった。
仕方なく辺りを見回せば、試合が行われている輪の外で南も他の傭兵や兵士達と楽しそうに雑談をしている。
「そういえば大和に、できるだけ他の人達と交流して情報を貰っとけって言われたっけ」
大和に指示された作戦を思い出した英二は、怪しい3人組のことはひとまず頭の片隅に置いといて、情報を得る為に手近な兵士に話しかけた。




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