海に咲く夢 2部 12




前日の試合の結果として傭兵達は5つの班に分けられた。
英二たちは城の北側にある宿舎へ移され、そこで寝泊りすることになった。
案内をしてくれた兵士に連れられ北の宿舎内に入ると、既存の兵士や傭兵に混ざって例の顔色の悪い男がいる。
英二たちは案内役の兵士からその男に引き渡され、男がついて来るよう片手で促した。
「お前達の部屋はこっちだ」
英二は警戒しつつ、その男の後に従う。
同じ班に分けられた仁王と南、そして2人の傭兵がそれに続いた。
部屋は5つの寝台、壁に沿った低い棚、中央に大きめの木のテーブル、それだけの簡素な作りだった。
「午後からは城の兵士と合同の訓練に出ろ。明日のスケジュールは明日の朝に伝える」
顔色の悪い男はそれだけ言うと、さっさと踵を返して部屋から立ち去った。

「・・・なんだ、ありゃぁ。薄っ気味の悪い野郎だな」
「どうやらあれが俺達の上官ってことになるみたいだな」
傭兵達は顔をしかめつつも手にした荷物を自分のと決めた寝台に投げ置く。
「お前さんはここじゃ」
1番入り口に近い寝台を陣取った仁王が、すぐ隣の寝台を英二に示した。
南が残りの寝台に腰掛けて、全員の場所が決まると、それぞれに荷物を片付け始める。
荷物を開けることなくそのまま壁の棚に放り込んだ仁王の袖を英二が引っ張った。
「ね、仁王」
耳打ちする英二に仁王が動きを止める。
「さっきの、気味悪い奴って、大石を攫った奴の仲間じゃないの?」
「・・・なんでそう思う?」
「昨日試合してる時に怪しい3人組の話したじゃん。あいつ、そのうちの1人だよ」
「ほう、なるほど」

答えを待つ英二を尻目に仁王は片手で寝台を押して固さを確かめる。
と、返事らしい返事をせず寝台に横になって目を閉じてしまった。
「ちょ、仁王!」
驚いた英二が慌てて仁王の肩を揺すると、かろうじて片目だけ開けてみせた。
「なんじゃ」
「なんじゃ、じゃなくて!さっきの答えは!?」
「わからん。初めて見た顔じゃし」
前回に引き続きはぐらかされそうな空気を感じとった英二は、そうはいかないと食い下がる。
「それじゃ、仁王が見た3人の特徴を教えてよ」
「特徴か。そうじゃのぅ・・・1番の特徴といえば」
「特徴といえば?」
「3人とも男じゃった」
瞬間沸騰した英二が、仁王の頭の下からあっという間の早業で枕を抜く、と、それを顔面に向かって叩きつけた。
よけずに顔を腕でガードした仁王が枕の下ではじけるように笑う。
揉め事かと注視していた傭兵が、ふざけているだけと知って笑った。

ぶぅっと膨れた英二を南が宥めているのを目の端で見つつ、顔の上に乗った枕を頭の下に敷きなおして仁王は瞼を閉じる。
英二には見ていないと嘘をついたが、試合中にあの場にいた人間を当然のごとく仁王は全てチェックしている。
昨日の3人組、片眼鏡は確かに大石を攫ったうちの1人だ。
それもたぶんあの中ではリーダー格、ひょっとすると敵の実行部隊の頭かもしれないと仁王は思っている。
だからこそ英二に真実を話す訳にはいかなかった。
感情豊かな英二にはポーカーフェイスなど到底無理な話だ。
まして大石を攫った本人だと知れば、あからさまな敵意を見せてしまうか、最悪の場合暴走して片眼鏡の男を討ちにいくということも考えられた。
そんなことになれば計画が水の泡になる。
幸い、南は敵の顔を知らない。だから自分さえ口を割らなければ英二は真実を知りようがない。
嘘をつくこと、騙しとおすことには自信がある。だてにペテン師などと呼ばれていない。
どうせこのまま作戦を進めていけば嫌でも敵の顔を知ることになる。
それまではのらりくらりとかわしていけばいい、そんなことを考えながら仁王は束の間の仮眠に入っていった。



**



カツン、カツンという規則正しい足音が石の階段を登ってくるのが聞こえる。
大石にはそれが誰の足音なのかすぐにわかった。
石の壁から預けていた背を起こし、外へ続くドアへと目を向ける。
鎖に繋がれたままの体が自然に臨戦態勢を取った。

鍵の開く音に続いて扉が微かに軋む。
姿を現した木手がそのまま歩みを進め、大石の目の前に立った。
「久しぶりですね。なにか不自由はしてませんか」
「していないと思うか?」
「失礼、愚問でした」
口元に薄く笑みを刷く木手が冷ややかな眼差しで大石を見遣る。
「用件はいつもと変わらないんですが、こちらにも色々と事情があるのでね。貴方の処遇にタイムリミットを設けることにしましたよ」
「俺の答えは変わらない」
「近いうちにもう1度だけ返事を聞きにきます。返答次第では貴方はこの牢で一生を終えることになる・・・・・・それは貴方の仲間も誰一人として助からないという事と同義語だと言っておきましょう」
「・・・・・・・・・」
「ああ、それと、こちらに何人か仲間を潜り込ませているようですね。お陰でわざわざ探しに行く手間が省けました。礼を言いますよ」
「・・・なんだと」
「前に約束したように、この牢の前に首を並べて差し上げましょう。・・・俺は約束を守る性質なのでね」
顔色を変えた大石を満足そうに眺めて、木手は口元だけではない笑みを浮かべた。
「いいですね、次が最後のチャンスです」
言い置いて木手が去っていく。
焼け付くような怒りを抑えきれず、大石は石の壁に拳を打ちつける。
手の皮が破れて鮮血が滴り落ちた。

ブン太からはまだ潜入した仲間の詳細を聞いていない。
木手が言うことは本当なのかどうか、本当だった場合は誰が捕まったのか。
・・・木手の条件を呑めば捕まった仲間は助かるのか。
大石は苦悶する。
亡き父には申し訳ないが、すでに滅んだ国の名誉などはどうでもいい。
青の国の名誉と自分の命を売り渡すことで、本当に仲間を助けることができるのなら。
胸の内を様々な思いが行き交う。
一睡もできぬまま、何が最善の策なのかを大石は考え続けた。




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