海に咲く夢 2部 21




この塔の上に大石がいる、やっと会える。
逸る気持ちを抑えきれずに英二は螺旋状の階段を一気に駆け上がる。
階段が終わり、視界が開けた先にあった木製の大きな扉。
最上階に辿り着いた英二はポケットから仁王に渡された鍵を取り出した。
銀の輪には黒い鍵が大小1つずつ、そして金の鍵が1つ。
扉の鍵穴の大きさから見て、まず最初に金の鍵を差し込んでみる。
くるりと回転させるとガチャッという音がして鍵が開いた。
この扉の向こうに大石がいる。
跳ねる鼓動は走ってきたせいなのか、それとも嬉しさのせいなのかわからない。
早く早くと急く心のまま、英二は勢い良くドアを開ける。
そして駆け込んだ足が、そのまま凍りついたように動きを止めた。

薄暗い中に浮かび上がる黒い鉄格子。
その鉄格子の向こうに驚いたような顔をしてこちらを見ている大石が立っていた。
石の壁からは長い鎖が伸びる。
その鎖を辿れば大石の手首にはめられた枷へと繋がった。
手だけではない、枷は足にも付けられて、身動きする度にザラリと重い音を立てて。

「・・・・・・なんでっ!!」

呪縛の解けた英二が悲鳴のような叫びを上げる。

東塔の最上階に牢があることは知っていた。
大石が逃げないように閉じ込めてられているだろうとも聞いた。
だが、現実は英二が覚悟していた想像よりも酷い。
鉄格子の檻に入れられ、その上、手足まで鎖で繋がれて。

「なんで大石がっ!!」

英二は牢に走り寄る。
手にした鍵を牢の扉の鍵穴に差し込もうとするけれど、怒りで手が震えて思うようにならない。
腹が立って腹が立ってどうしようもなかった。
どうして大石がこんな目に会わなきゃいけない、大石が何をした。

「・・・英二」
「・・・なんで、こんなことするんだ・・・」
「英二、泣かなくていい。ほら、俺はちゃんと生きてるだろう?」

枷が腕に食い込む程鎖を引いても、大石は扉の前に立つ英二に届かない。
それでも少しでも傍へと、力の限り腕を伸ばそうとする大石が立てる軋む鎖の音に、袖で乱暴に目元を拭った英二が顔を上げた。
震える手を叱咤するように慎重に黒い大きな鍵を鍵穴に差込む。
やっとのことで開いた牢の扉を力任せに引けば、格子が揺れて鈍い金属音が辺りにこだました。
牢に足を踏み入れる。

「英二」

ピンと張り詰めた鎖をなお引いて自分を呼ぶ大石に英二が駆け寄る。
そのままの勢いで飛びつくように抱きついた。



**



1つ騒乱を収めても、その間に他でまた騒ぎが起こる。
知念の探索に街へ出していた兵士を呼び戻し事態の収拾に充てたが、場は混乱を極めるばかりで一向に終結を見ない。
苛立った木手は赤也にも手伝わせて、兵士以外の者は傭兵だろうが商人だろうが全て捕らえ、仮設の牢獄代わりにした西兵舎へ放り込むという乱暴な手段を取っていた。
しばらくして南門で横転した馬車の撤去が終わり、借り出されていた兵士達が戻ってくる。
兵士に混じって現れた金髪の男に険しかった木手の表情が緩んだ。

「なんかの祭りかー?永四郎」
「凛クン、いいところに来てくれました。手伝ってください」

凛に状況を伝え、兵士を伴わせて南側の収拾を任せる。
信頼できる仲間の登場で落ち着きを取り戻した木手の頭が冷静な分析を始めた。
騒動が起きているのは西門から南門の間。
南門で横転した馬車も偶然ではないだろう。
敵の狙いは警備のかく乱、だとすればその目的は東から北にあるもの。
城内部に繋がる出入り口は西塔と南の正門にあるから王や大臣を狙ってのものではない。
東と北にあるものといえば。

「・・・やはり青の国の王子か」

普段は充分な警備を置いている東塔だが、この騒ぎを収拾する為に赤也が走り回って兵たちを集めている。
当然、騒ぎのない北から東にかけての兵士達は、みな持ち場を離れてここに来ていることだろう。
今頃は警備が手薄になっているどころか、兵士など1人もいないかもしれない。

「木手さーん」
赤也が手を振りながら走ってくるのが見えた。
「どうっすか?南門が片付いたんでみんな戻ってるみたいだけど、まだ兵隊さん達集めるんすか?」
「もういいですよ、ご苦労様でした。後は西地区の采配をしてください。それから東地区の兵を戻すように」
「了解っす!・・・あれ?どこ行くんすか?」
「いったん部屋に戻ります。騒ぎの元凶を潰す為の準備が必要なのでね」

なんのことだかわからないといった表情の赤也に背を向けて木手は西塔へ入っていく。
騒動のせいで各門は警備を強化している。
例え王子の仲間が助けに行ったところで、鍵が無ければ牢から出すだけでも時間がかかるだろう。
牢の鍵は自分と塔の番人をしていた赤也しか持っていない。
急げば東塔から王子を連れ出す前に仲間諸共始末できる。
木手は自室に戻ると寝室のサイドテーブル引出しに閉まってあった瓶を取り出す。
強い香りを放つ紫の液体を剣に塗りつけ、軽く振って乾かすと剣を収めて部屋を出た。




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