海に咲く夢 2部 5




城の裏手にある練兵場の奥、兵士の休息所に1人、また1人と駆け込む者がいる。
時刻は深夜。
人も草木も眠りに着く時間だというのに、休息所の窓のカーテンの隙間からはちらちらと灯りがこぼれる。

「すまねぇ、遅くなった」
最後に駆け込んできた黒羽は背中に慈郎を背負っていた。
「どうせ連れて来ても起きんし、置いてくればよかろ」
「だってよ、城の中にも東国の手の者がいるって話だろ?こいつは寝たらちょっとやそっとじゃ起きねぇし、万が一のことがあっても困ると思ってな」
黒羽が木の長椅子の上に慈郎を寝かせる。
室内は明かりが煌々と点いているが微塵も起きる気配が無い。
そんな慈郎を見た英二は、自身も眠そうな顔をして少し笑った。

「揃ったな?それじゃさっさと始めるぞ」
集まった面々の中央に立っていた跡部が全員を見回した。
午後に西国の港に着いた跡部たちはいったん全員で西国の城に入った。
跡部と日吉以外は兵士の宿舎でそれぞれ休息や食事を取り、人目につかない深夜にまた集合した。
この場にいるのは大石の船から乗り込んだ英二、黒羽、慈郎、仁王の4人、それと日吉、西国に着く前に英二達の支度を手伝ってくれた南。他に跡部が連れてきた2人の男がいる。
柳は西国に着くと同時に王宮内の医療室で治療を受けて休んでいる為、この場にはいなかった。

「まず、作戦実行の為にここにいる奴を2つの班に分ける。1つは大石救出班で東国の敵中に潜り込む役目だ。もう1つは王女探索・救出班」
跡部がリストを読み上げる。
部屋の中にいた跡部と日吉を除く者が4人と3人のグループに分けられた。
「菊丸、南、お前らは大石救出班だ。指揮は大和が取る」
「よろしくお願いしますね」
大和と呼ばれた男が穏やかな笑みを浮かべて挨拶をした。
英二は挨拶を返しながら優しそうな人だと安心したが、それとは別に大石の船のメンバーが1人も同じ班にいないことを少しだけ心細く感じる。
そんなに人見知りをするわけではないから、初対面同然の南や大和とうまくやっていく自信はあったが、それでも馴染んだ人がいるのといないのでは気持ち的に大きな差があった。

「今回の作戦序盤はフリーの傭兵として敵の懐へ潜入する所から始める。だから敵に面の割れてそうな奴は王女救出班に入れた。俺や日吉は表立って動けねぇが、最終的に大石を救出する時はすでに潜入済みの部下が手を貸す。異論はないな?」
「待った!」
「なんだ、仁王」
「俺も大石班に入れてくれ」
「お前は大石が連れ去られた時に奴らの1人と戦ってただろ。顔が知られてるから駄目だ」
「それなら心配いらん。俺とわからなければ問題なかろ?」
「・・・そうか、そういえばお前の資料に変装が得意とあったな」
「そういうこと。これで文句なかろ」
「よし。それじゃお前は大石救出班に入れる。他に異論はないな?」
場の全員が同意の印に頷く。
仁王が加わったことでほっとした英二も力一杯頷いた。

「次に王女探索救出だが、メンバーは黒羽、慈郎、伊武。柳が復調したらこれに加わる」
「王女はどこにいるかわからないんだろ?これだけの人数で探すのは時間がかかり過ぎるんじゃねぇか?」
黒羽の問いに跡部が唇の端を釣り上げて笑んだ。
「王女の居所についてはすでにあたりをつけてある。ここにいなかったら東国にはいないと考えたほうがいい」
「マジかよ。それなら楽勝だぜ」
「喜ぶのはまだ早いぞ。王女がいると思われる場所は東国の離れ小島にある修道院だ。ここは岩場にぐるっと囲まれてる島で貴族の娘たちがいるから警備も固い。侵入するのは困難だぞ」
「なーに、居場所さえわかりゃこっちのもんだ。岩なんか登りゃいいんだしよ」
「フッ、まぁいい。作戦の手順は伊武に言ってある。それから外れない程度なら好きにしていい」
跡部に呼ばれた伊武が黒羽の前に立つ。
「俺は黒羽だ。面倒をかけると思うが、これからよろしくな、伊武」
「・・・本当にどうして俺がこんな面倒なことしなきゃいけないんだろう。俺嫌われてるのかな・・・絶対そうだ・・・」
「はぁ?」
うつむいてブツブツ呟きだした伊武に面食らった黒羽が唖然とする。
「気にするな。いつもこんな調子だが頭も切れるし腕も立つ。俺が保障してやる」
「・・・ま、いいか。こっちにも四六時中寝てる慈郎みたいな奴がいるしな」
溜息混じりで肩越しに振り返った黒羽の視界には、固い椅子の上で眠っている慈郎が気持ち良さそうに大いびきをかいていた。



それぞれの役割が決定し、英二たちはすぐに作戦に入ることになった。
日中に城から出ると東国の密偵に察知される恐れがある為、深夜である今のうちに西国の町の宿へ移動する。
翌朝ばらばらに東国へ入り、また中で落ち合う手はずになった。

「大石救出班は東国へ入ったら首都で宿を取れ。王女救出班はすでに住処を用意してある」
城の裏門で跡部と日吉が見送る。
大和と伊武になにかあれば連絡しろと告げている跡部の隣で日吉が英二に声をかけた。
「大石さんには世話になったし、俺も行きたかったんですが」
「日吉は西国の王子だもんね。だいじょーぶ、オレ達が大石と妹を助けて帰ってくるよ」
「健闘を祈ってます」
「ありがと。それじゃ、行ってくんね」
握手と笑みを交わして英二は城に背を向ける。
すでに先に行っている仲間達の後を追って歩き出した。




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