極楽島 1




大きな嵐だった。
予兆に気づいて急ぎ準備をしたが、瞬く間に変貌を遂げた荒れ狂う海の前では無意味だった。
強風で畳んでいた帆の一部が開き、支えごと風にもぎ取られる。
嵐にあった場所も悪く、舵のきかなくないまま岩礁にぶつかり船体に亀裂が入った
船で航海を続けていれば嵐に合うこともある。
だが、今までとは比べ物にならない程の自然の猛威に乗船していた者全てが沈むことを覚悟した。

乗り切ることができたのは運が良かったとしかいいようがない。
ただ船の破損は甚大でこのまま航海を続けることは不可能だった。
「早急に最寄りの島へ寄港が必要だ。船底の亀裂は応急処置ではいくらも保たない」
被害状況の確認に回っていた柳の申告に大石が頷く。
「こっちもやっと現在位置が確認できたところだ。かなり西に流されてる」
大石が赤で地図に丸をつけた位置をペンで指した。
「この辺りで一番大きいのは極楽島か。設備の整った港があるから船の修理は可能だな」
「あまりいい評判は聞かないところだが、そうも言ってられないな」
船の最下部にある船倉には海水が流れ込み、船員達は手にしたバケツで汲み出しては海に捨てるということを繰り返している。
今はまだそれで間に合っているが破損しヒビが入った船底はいつまで水圧に耐えられるかわからない。
「では極楽島へ寄航ということでいいな?」
大石が了承するのを見て柳は船員に針路を伝えに行く。
今の位置からだとおよそ2日で着く予定だった。

大石はその場で船の全体を見渡した。
マストは無事だったが、見張台は折れた帆がぶつかり半壊している。
船体も目が届く範囲で数箇所の亀裂が見て取れた。
あと1時間嵐が長引いていたら船はその形を保っていられなかっただろう。
よく沈まなかったと思う。
船首に目を向けると青いイルカが光を弾いた。
元々この船は父が母へ求婚した時に贈ったもので、それを成人したら母から贈られる約束になっていた。
戦の為に結局は成人を待たず大石の手に渡ることになってしまったが。

「うあー、・・・明るい。眩しいけど気持ちいい・・・」
「・・・・・・寝ていい?」
船室の扉が開き、中から英二と慈郎がよろよろと出てきた。
「だいぶ疲れてるようだな。大丈夫か、英二、慈郎」
「うん、だいじょーぶ。あー、あったかい・・・」
甲板にぺたりと座り込んだ英二の横ではすでに寝っ転がった慈郎が寝息を立てている。
「心配しなさんな、大石。こいつらは騒ぎすぎて疲れとるんじゃ」
後から出てきた仁王が呆れたように足元でへばっている2人を見下ろした。
「騒いでた?」
「波がすごかったからのう、下で水汲みしてても船が傾いて2人して床を転げ回ってたんじゃけど、なにがおかしいのか大笑いしとって・・・・・・俺は頭でも打ってイカレたのかと本気で心配したぜよ」
溜息をついた仁王に大石が苦笑する。
「恐がってるんじゃないかと思ってたけど、その心配はいらなかったようだな」
「船倉は外が見えんから、甲板にいるより恐くはなかろ。で、この後はどうする?」
「極楽島へ寄ることにした。船を直さないとな」
「カジノやら娯楽施設が集まっとるゆう島か。面白そうじゃの」
「不穏な噂も聞くから行動は自重してくれよ」
「ほどほどに遊べちゅうことじゃな」
「・・・まぁ、仁王は心配はいらないだろうけどな・・・」
大石は足元に視線を向ける。
疲れたのか、それとも慈郎の寝息に誘われたのか、座った姿勢をやや右に傾けて英二も眠り込んでいた。
「大石と柳は船の修理に立会い、となると、また俺がお守りをすることになるんか」
「遊ぶのはほどほどに、な」
「はいはい」
気のない返事をしてひらひらと手を振った仁王は大石に背を向けて甲板を歩いていく。
大石はもう1度足元で寝ている英二を見た。
極楽島には賭博場にありがちな負けが込んだり八百長での殺傷事件の噂の他に、もう1つ気になる噂があった。
20歳前の見目いい青年が行方不明になるという噂だ。
噂の真偽は定かではないが、できることなら危険な場所に英二を連れて行きたくはない。
だが、船の状態を考えれば、他に修理ができそうな島か国まで辿り着くのは難しい。
仁王を護衛につけておけば噂が本当であっても危険な目には合わないだろう、今はそう思うしかなかった。




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