極楽島 11




「岳ちゃんが見つかったんか?」
息を切らした忍足が柳と仁王の部屋に駆け込んできた。
夕べ、問題の宿泊施設を探索した帰りに忍足の宿泊先へメモを残しておいたのだが、それをみて飛んできたのだろう、まるで寝起きといった恰好だ。
「見つかった、ゆうには微妙なとこじゃ。その辺りを確認したくて呼んだんよ。とりあえず座りんしゃい」
仁王が勧める椅子に忍足が腰掛ける。
正面には柳が座り、忍足に茶を淹れたカップを渡した。
「岳人に関していくつか質問がある。知っている範囲でかまわないから答えて欲しい」
「・・・ええけど」
「まず、岳人はこの島に来たことがあるか?」
「今回が初めてや」
「では次に、岳人に兄弟はいるか?双子、もしくは年の近い兄弟だ」
「岳ちゃんに兄弟なんて・・・」
言いかけて口を噤んだ忍足の顔色がみるみるうちに変わっていく。
明らかに何か心当たりがあるという顔だが忍足は固く口を閉ざしたまま喋ろうとしない。
「こっちも英二王子がおらんようになっての、切羽詰った状況なんよ。知られるんがまずい話なら口外せんと誓うから教えてもらえんか」
黙っている忍足の肩に仁王が手を置く。
しばらくしてから、溜息を吐きつつようやく忍足が顔を上げた。
「ほんまにここだけの話にしてな。これ知ってるの西国では跡部だけやねん」
「約束する」
「岳人はな・・・人間ちゃう。機械島で作られた人形なんや」
「・・・・・・!」
「・・・あれが人形って、・・・信じられん。どっからどう見ても人以外に見えんぜよ」
「初めて岳ちゃんに会ったんは呪術者の島やからな、その辺が関係あるんやろうけど俺はよう知らんねん。でな、さっきの質問やけど、」
忍足は岳人が金持ちの愛玩用として特注で作られたこと、その岳人を手元に置くために呪術者の力を借りてもう一体の岳人を作り出したことを話した。
「俺と一緒におる岳人は機械人形やけど、もう一体は即席の砂人形や。でも岳ちゃんそっくりやったで」
「即席か。どうりであんまり出来がようない訳じゃな」
仁王は夕べあった岳人もどきを思い出す。
機械人形の岳人は人間にしか見えなかったが、砂人形の岳人は生き物として異質過ぎた。
「その砂人形があったということは、宿泊施設のオーナーが岳人の依頼主ということか。だが、それだけでは英二王子や岳人、丸井の行方不明に関係しているとは言えないな」
溜息のように呟いた柳に答えるように仁王が口を開く。
「怪しいのは確かなんじゃし、他に手がかりも無いし。ちぃと調べてみたらどうじゃ」
「そうだな。岳人を作った機械島と、あとは精市に連絡を取ろう。オーナーの監視もしておくか」
「監視は俺がしよか。宿も移せば四六時中見張っとけるし」
忍足が席を立つ。
「なんかわかったらすぐ連絡入れるわ。そっちも頼むで」
慌しく部屋を出て行った忍足は、来た時より心なしか元気になっているようだった。
何も無いところを探し回るより、僅かでも手がかりがあった方が見つかる希望は持てる。
「仁王、お前はどうする?」
「他に探っておきたいとこがあるんよ。当たりかハズレかまだ見えんのじゃけど。別行動しててもええ?」
「オーナーも確定ではないしな。考えられることは全て手を打っておいたほうがいいだろう」
柳に別行動を認めてもらった仁王は、靴を脱ぐと服のまま寝台に潜り込んだ。
動くのは夜になってからになる。
それまで少しでも寝ておきたかった。
寝台に横になって柳を見れば、早速機械島と幸村へ宛てた手紙を書き始めていた。
「お前さんも大石に付き合ってあまり無理せんと、休む時は休まんといかんよ」
「わかっている。今の段階でやれることを全てやったら少し休むから心配無用だ」
柳の返事に軽く肩を竦めて仁王は背を向ける。
やれることなんて柳の頭なら無限に考え出す。
千石の白黒は今夜のうちにつけてしまおうと決めて仁王は目を閉じた。



**



借りていたコテージを引き払い、忍足はすぐに港近くの大型宿泊施設で部屋を取った。
荷物を部屋に置き、1階の遊技場や庭を見て歩く。
その間に何人か1人で泊まっていそうな客に目をつけた。
近寄って声をかけ、宿泊施設の設備に関して適当な質問をする。
質問はなんでもよかった。
食事をするのはどこか、夜は何時まで店が開いているか、泊まり心地はどうか、従業員は親切か。
そうして顔見知りを何人か作っておく。
長期滞在している客なら情報収集ができるし、そうでなくてもオーナーを監視するには雑談する連れがいた方が目立たない。
庭のベンチに座り、従業員に飲み物を頼んで待っている間に通りかかった婦人に声をかけた。
愛想よく笑って答えてくれた婦人に、丁度従業員が運んできた飲み物を礼代わりに渡す。
その場は立ち去り、今度は娯楽場へと足を向けた。
カードゲームを行っている台に行き空いている席に座る。
掛け金代わりのコインを持ってきた、まだ少年に見える従業員の手にチップを握らせて笑いかければ、少年は頬を染めて頭を下げた。
宿泊客の他に従業員も情報源として欲しかった。
カードゲームに興じていても頭の中には岳人のことが浮かんでくる。
気が強くて意地っ張りで強情だが芯は脆い。
できることなら傷つく前に助けてやりたかった。




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