極楽島 12
深夜、外の扉が開いた気配にブン太は目を覚ました。
部屋のドアを僅かに開き、隙間から覗き見る。
廊下の天窓から入る月灯りの下、足音を忍ばせた数人の男が外から入ってきた。
1人は誰かを肩に担ぎ上げ、もう1人は中の部屋のドアを開け、そして2人が外界への扉の前に立ち塞がっている。
全部で4人か。
チッとブン太は心の中で舌打ちした。
飛び出していって乱闘になれば岳人は起きてくるだろう。
だが、まだ戦力になるほどの腕は無く、手練相手ではせいぜい1人を引きつけておくのがやっとだ。
ブン太といえど残り3人相手に戦って勝つのは到底無理だ。
せめて3人だったら、と考えて止めた。
現実に目の前の敵は4人いる。
いつかチャンスは必ず来る、そう気持ちを切り替えて、用を済ませた男達が去っていくのをただ見送った。
外界への扉の錠が下ろされる音を確かめてから部屋を出る。
新入りが運び込まれた部屋へそっと足を踏み入れた。
ベッドの上に無造作に寝かされているその傍へ歩み寄る。
「あれ・・・?こいつ、確か、東国で・・・」
窓から射し込む月灯りに覚えのある顔が見て取れる。
「やっぱそうだ、英二とかいう春の国の王子じゃん。こいつも捕まったのかよ」
青の国の王子を助ける為東国に潜入中に偶然顔を合わせ、その後西国に戻ってから再会した。
最後に赤也の奴にしてやられたのは腹が立つが、なかなかスリリングな任務で今となってはいい思い出だ。
「しっかし、どいつもこいつも間抜けっつうか・・・、ま、それを言ったら俺もだけどな」
それにしても、岳人といい春の国の王子といい、もちろん自分も含めて、見栄えのする若い男ばかり攫って何をするつもりなんだろうとブン太は首を傾げる。
ハーレムでも作る気なのか、それとも好色な金持ちに売り飛ばす気なのか、ざっと考えてもロクでも無いことしか浮かばない。
入ってきた時と同様に静かに部屋を出る。
わざわざ今起こさなくても、ここがどんな所かは明日起きてから教えてやればいい。
とりあえず戦力が1人増えた。
それに、道楽で人攫いも無い、敵もそろそろなにか行動してくるはずだった。
**
宵の口から裏町を歩き、仁王は賭博場から酒場へと顔を出してみたが、千石はいなかった。
あちこちで適当に時間を潰し、あと2時間程で夜が明けるという頃に再びいつもの酒場に行く。
千石も亜久津の姿も無い。
すでに顔見知りの酒場の親父が酒を持ってきたついでに、さりげなく千石のことを聞いてみる。
「昨日から見てないな。まぁ、いつもの仕事だろうから明日か明後日くらいには戻る」
それだけ言うと親父はカウンターにいた他の客と雑談を始めた。
無駄足だったかと仁王は小さく溜息をつき、昨日は千石がいなかったという親父の言葉を胸の内で反芻する。
英二王子がいなくなったのは昨日で、その日に千石も仕事でどこかへ行ったというのは単なる偶然なのか。
千石は白か黒か。
時間はあまりないと考えたほうがいい。
このままの状態が続けば早晩柳と大石が潰れる。
それに攫った目的がわからない以上、英二王子たちの身も心配だ。
早急に確実な答えが出る方法がいる。
グラスを弄びながら、仁王は頭に浮かんだ案を実行する為の相棒を誰にするか考え始めた。
**
コツコツと小さくガラスを叩く音がした。
一昨日からほとんど寝ていないせいか、鈍い痛みを訴える頭をこめかみを揉むことでやり過ごし、柳は部屋の窓を開けた。
飛び込んで来た青い小鳥に手を差し出すと指先に止まる。
足にくくり付けられた書簡を外すと小鳥は柳の手から椅子の背に飛び移った。
金の留め具を外し書簡を開く。
細かな字でびっしりと書き連ねられているのは機械島からの返事だった。
岳人を作った乾という機械工学士は、依頼主の名前は明かせないがと断り書きをした後、依頼の詳細な内容を教えてくれていた。
その中で柳の目に止まったのは、『年齢15歳前後の少年、少女のような顔立ち、細身、赤毛』という箇所だ。
行方不明になったのは、丸井、岳人、英二王子の3人で、みな赤い髪をしている。
乾の証言がなくても砂人形の岳人がいることから依頼主はオーナーと確信している。
オーナーの嗜好が赤毛の少年だというなら、今回の行方不明事件にオーナーが関わっている確立は高い。
だがそれはあくまで確率の話で、確たる証拠はまだ何も見つかっていない。
忍足が宿を移しオーナーに張り付いているが、今のところ有益な情報はなかった。
何か揺さぶりをかける方法はないかと思案していると、隣の部屋のドアが開く音がした。
大石が戻ってきたのだろうと思い、柳は機械島からの書簡を手に部屋を出る。
大石はそれこそ一睡もせずに英二王子を探し歩いている。
心境を思えば休めとも言えず、1日も早く英二王子を探しださなくてはと考えれば、また鈍い痛みが頭を襲った。
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