極楽島 14




身なりの良い初老の男が護衛と共にやってきたのは、英二がブン太達の捕らわれている場所へ連れて来られて2日経った日のことだった。
「私は白砂邸の執事でこざいます。本日は皆様に主からの伝言をお持ちいたしました」
ブン太はいぶかしむ顔で上から下まで眺め、岳人と英二は今にも飛びかかりそうな勢いで睨みつけるが、執事は柔和な笑顔を崩さない。
「主ってのが俺達をこんなところに閉じ込めてる張本人ってわけだな。・・・で?伝言ってのはなんだ?」
「はい、こちらの暮らしにもそろそろ飽いたという方は、白砂邸にお招きする、と」
英二と岳人は執事の言う意味がわからず眉を顰めて顔を見合わせた。
それとは対照的に、フンと鼻で笑ったとブン太は、それで、と先を促した。
「この牢屋みたいな部屋から出す代わりに、何をしろって?」
「主が必要とする時にお慰めしていただきます」
やっぱりな、と心の中で呟いたブン太は、きょとんとしている英二と岳人を見遣った。
ブン太にとってはチャンス到来、すぐにも飛びつきたいところだが、この2人がいる。
言い含めて、できれば簡単な作戦くらいは話し合っておきたい。
「なぁ、その返事ってさ、今すぐじゃないと駄目か?」
「どのくらいお時間が必要でしょうか?」
「明日」
「かしこまりました。では明日お返事を伺いに参ります。良いお返事が頂ける事を願っておりますよ。・・・あなた方の為にも」
執事が一礼して護衛と共に外へ出て行く。
その姿が見えなくなると英二と岳人がそれぞれ口を開いた。
「慰めるってなんだよ。なにしろって言ってんだ?」
「愚痴聞いたり励ましたりするって意味かなぁ・・・?」
世間擦れしてない2人の疑問にブン太が笑う。
「そーじゃねぇって。慰めるってのは主がヤりたい時にヤらせろってことだよ。つまりは愛人みたいなもんだな」
ブン太の言葉に大きな目をさらに見開いた英二が絶句する。
その横で岳人が、ふざけんなと怒鳴って猛然と怒り出すのをブン太がまぁまぁと宥めた。
「俺はこうなるって予想してたぜ?だってこのメンツ見ればわかんじゃん。それより明日行くぜ、その白砂邸とやらにさ」
「待てよ!俺は嫌だぜ、愛人なんて!」
「オレもヤだ!絶対反対!」
「だから、落ち着けって。ここを出るチャンスなんだぜ?外に出ちまえばこっちのもんだ、隙を見て逃げ出すことだってできるだろぃ?」
ブン太の考えをすぐに呑み込んで、パッと明るい表情になった英二とは反対に、岳人は不安そうに眉を寄せる。
「・・・もし逃げられなかったらどーすんだよ」
「そうなりゃそうなった時に考えるさ。あんまり悲観的になるなよ。いざとなったら主とかいう野郎を俺様のテクでひーひー言わせて骨抜きにしてやるぜぃ。そしたらお前らのところには行かねぇよ」
な、と笑って岳人の肩を叩いてやっても岳人は押し黙ったままでいる。
「どっちにしろ俺たちに選択肢は無いと思ったほうがいいぜ?断れば消されるかもしれないからな」
「消されるって・・・殺されちゃうってこと?」
「人攫いなんかする奴らだ、今までだって同じことしてきたかもしれないだろ?でもって愛人なんて話をそうそう喜んで受ける奴はいねぇよな。でもここには俺たちしかいない、ってことは断った奴らはどうなったんだ?」
ま、最悪の場合って話だけどな、と付け足してブン太は笑う。
そこまで極悪非道ではなかったとしても、攫ってきた者をただ帰すことはないだろうとは英二も思う。
「ね、岳人、行ってみようよ。ここみたいに鍵だらけじゃなきゃすぐに逃げられるって」
「・・・わかった。行くよ。行けばいいんだろ」
渋々といった感じで岳人も頷く。
「よーし、決まったな。そんじゃあとはチャンスが来た時の手順を簡単に決めとこうぜ」
廊下で立ち話をしていた3人はとりあえず1番近いブン太の部屋に移動した。



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なぜか頭が冷たいような気がして慈郎は薄く目を開いた。
「・・・んん?」
「もう少しで終わるけぇ、じっとしとって」
聞こえたのは仁王の声だ。
何をしているのかはわからなかったが、もうすぐ終わると言ってるなら寝ててもいいだろう。
慈郎はまた眠りの中に入っていく。
極楽島に来た初日の2時間だけは観光で島の中を歩いてみたが、特に面白いものも見つからず、慈郎はすぐに宿屋へ戻った。
柳が食事を持ってきてくれるので、それを食べる時に起きるがあとはずっと寝ている。
つまらない時間に起きているくらいなら寝ている方がいい。
ふわりと体が持ち上がった感覚がした。
どうやら担ぎ上げられている気がする。
仁王がなにか言っているようだが半分以上夢の中にいる慈郎には聞き取れない。
次に起こったのはどこかへ体が投げ出された感覚、そして頭をごしごしと擦られる感触だった。
さすがに少し、ほんの少しだが目が覚める。
目の前に仁王の顔と手、そしてタオルのようなものが見えた。
「・・・なに・・・?」
「まぁ、こんなもんじゃろ」
タオルを床へ放り、手櫛でざっと慈郎の髪を梳いた仁王が満足気に笑みを浮かべる。
髪がどうかしたのかと眠い目を擦った手を頭に伸ばす。
しっとりと湿気を含んだ髪を一房手繰り寄せると鮮やかな赤色が見えた。
「・・・ん?んんん?・・・あれ・・・?」
「ちぃとお前さんに手伝って欲しいことがあるんよ」
いつの間にか赤く染まっている髪を引っ張りながら慈郎が見上げると仁王がにやりと笑った。
仁王がこんな風に笑うときは何かを企んでる時だ。
そしてそれは大抵楽しいことになると長年の付き合いで知っている。
「・・・へへへ、なんか面白そうだねー。・・・いいよー」
よっこいしょ、とかけ声をかけて起き上がる。
「作戦決行は今夜。お前さんにやって欲しいことは・・・」
仁王の話は慈郎の期待どおり楽しくスリリングな内容で、聞き終える頃には慈郎はすっかり目覚めていた。




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