極楽島 2




極楽島の港は島の南西側海岸を占める整備の整った大きなものだった。
大型客船や豪華な個人所有の小型船が並んでいる島に上陸すると、大石と柳はすぐに船の修理の算段に出掛けて行った。
港の南東方面、海に面した辺りに立ち並ぶ白で統一されたリゾート用の宿泊施設は、辺りに整然と植えられた木の緑が映えて美しい。
一見すると極楽島は富裕層向けの娯楽施設といった趣だった。

船を降りた仁王と黒羽、英二、日吉が辺りを眺める。
船が直るまでの期間、船員達はこの島に滞在しなくてはならない。
今までは船室で寝泊りできていたが、修理をする為全員が上陸し、島の宿泊施設を利用する必要があった。
「あーいう所に泊まるの?」
英二が港から見える白いこじんまりした建物を指差した。
「あれだと多くても10人が限界じゃないですか?」
日吉が答えると黒羽も頷く。
「ここ以外にも町中に宿屋くらいあるじゃろ。観光に来てるわけじゃなし、宿からの眺めが悪くても問題なかよ」
「そうだな、そうするか」
仁王の提案で町の宿屋を探すことにした一行は町に行く為、港から島の中央へ向けて歩き出した。

高級リゾート地の一帯を抜けると段々と店の数が増え、さらに先に進むと人で賑わう通りに行き当たった。
観光客と地元の人間らしき人が行き交う通りには何件か大きな宿屋もある。
「この辺りで部屋が空いてるか聞いてみるか」
「そうですね。1件で全員の収容が無理なら数件で分かれてもいいですし」
「そんじゃ、1番近いそこから行ってみようよ」
日吉と英二が宿屋に入って行った後に続こうとした黒羽を仁王が止める。
「なぁ、ちょっと王子さん達のこと頼んでええ?」
「構わねぇが・・・どうしたんだ?」
「ヤボ用」
「お前はなぁ・・・ったくしょうがねぇ。あんまり遅くなるなよ」
「はいはい。ああ、それから、あんまり裏の方へ王子達を連れて行かんでな」
「わかってるって。俺だけならまだしも、王子様2人も抱えてりゃやばいとこにはいかねぇからよ」

ひとつ貸しだからな、と言った黒羽が英二たちの入っていった宿屋に入るのを見届けて、仁王はそのまま通りを進んだ。
黒羽は元々あまり細かいことは気にしないので適当な理由でも受け入れてくれるのが助かる。
これが柳だったら納得のいく回答を得られるまで質問攻めにされるところだ。
仁王は通りかかった古着を扱う店に入ると、そこでいかにも南国リゾート地といった安っぽい派手なシャツを1枚買った。
その場で着替えて最初に着ていたシャツは売り払う。
店の鏡で町のチンピラか遊び人といった風体になったのを確認すると、そのまま町の裏通りへ入った。
表の賭博場は金持ち用の娯楽施設だからたいした事件は起きない。
この島で不穏な噂として耳にする八百長による殺傷事件や、行方不明事件などの真相を探るには裏の住人から聞き出すのが1番の早道だった。
何かトラブルがあった時に迅速に対処するには、ある程度の情報収集を事前にしておくことが重要になる。
蛇の道は蛇、こういう真似は自分や、あとはせいぜい赤也くらいにしかできないと仁王はよく理解していた。

裏通りを歩くと昼だというのにいかにもな赤い顔をした酔っ払いや、観光客をカモにしようとする目付きの悪いゴロツキが徘徊していた。
店を開けていそうな酒場の木戸をくぐり、カウンターに腰掛ける。
店の中にたむろしていた連中の視線が仁王に集まったが、服装から同類と判断したのか、興味を失くしたようにまた視線は離れていった。
「なにを飲む?」
酒場の親父が声をかけてきたのに愛想良く笑う。
「適当に酒と食い物出してくれ。今日は勝ったけぇ懐の心配はいらんのよ」
親父が頷いてボトルの酒とつまみを2品出した。
「景気良さそうだねー、俺に奢ったりしてみない?そうすれば明日もラッキーが続くよ」
「そりゃ奢らんわけにはいかんのう」
羽振りの良いふりに早速食いついてきた男を仁王は隣に座らせる。
第一印象ではそれほど悪人という感じでもなかったが、この界隈をうろついている人間なら親しくなっておいて損は無い。
仁王は気前良く酒を奢りながら、手始めにこの男から色々聞きだしてみることにした。


町の宿屋2件に部屋を借りた後いったん船に戻り、船員達と柳に宿泊先を伝えて黒羽と英二と日吉は町の表通りに戻った。
通りの店を冷やかしながら観光を楽しんでいると、露店に広げられている装身具を眺めている男が目に入った。
「あれ?あの人どっかで・・・・・・あ!西国の人だ!確か、おし・・・おし?なんだっけ?」
英二の視線の先を追った日吉が「あ、忍足さん」と驚いたように呟く。
「そう、それ!忍足だ。こんなところで何してんのかな?」
「さあ、俺にはわかりませんけど・・・声かけてみますか?」
「うん、そうしよ」
英二と日吉が早足で歩く後を黒羽もついていく。
露店の店先で日吉が声ををかけると、忍足が振り返った。
「お、日吉やん。それといつぞやの勇ましい姫さんか。どうしたん?こんなとこで」
「俺たちは船の修理に立ち寄ったんですよ。忍足さんこそこんな所で何してるんですか」
「俺か?俺は跡部に言われて丸井を探しに来てん。一昨日着いたばかりやけどな」
「丸井さん、どうかしたんですか?」
「この島に来てたらしいんやけど、それから連絡つかんようになってな」
日吉と英二が顔を見合わせ、黒羽も眉をしかめる。
上陸前に柳と大石から聞かされていた、20歳前の青年が行方不明になるという噂が、噂ではなく真実だとしたら、丸井はそれに巻き込まれているのかもしれなかった。




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