極楽島 3
英二と黒羽、日吉は町から忍足の滞在しているコテージへと移動した。
人通りの多い町中では誰に話を聞かれるかわからない。
万が一ブン太がトラブルに巻き込まれているなら注意が必要だった。
忍足のコテージは港から近いところにあり、外壁も中壁や調度品も白で統一され、窓からは海が見えた。
「さすがに町の宿屋とは大違いだなぁ」
黒羽が感心したように部屋を見回す。
「いいなー、海が見えて。オレもこっちの部屋の方がいいなー」
吹き込む潮風に髪を揺らしながら英二が窓の外を眺めた。
「夜になると月灯りが窓から差し込んで、白い壁が淡く光って綺麗やで。静かで波の音だけが子守唄みたいに聞こえるんや・・・泊めたってもええけど、どうする?」
「え?ホント!?」
振り向いた英二の、風に乱された髪を忍足の指が直す。
あまりに自然な動作だったので英二は少しの違和感も感じなかったが、その光景を見ていた日吉と黒羽は片や呆れ、片や動揺して口を開きかけた。
「侑士―――っ!!」
突如降ってきた大声と気配に英二は咄嗟に後ろに跳び退る。
コテージの2階にある柵から飛び降りた、文字通り真上から降ってきた人影は、忍足と後に下がった英二の丁度間に着地して、そのまま忍足に掴みかかった。
「また変な奴連れ込みやがったなっ!」
「岳ちゃん、起きてたん?おはようさん、今日も可愛いで」
「この、浮気者ーっ!」
殴る、蹴る、と多彩に繰り出される攻撃をかわしながら、岳人の隙をついた忍足が背後から抱きしめるように拘束する。
「ほら岳ちゃん、暴れたらあかんで。お客様やねんから」
「なんだよ、客って」
「丸井探し」
ようやく大人しくなった岳人に忍足が拘束を解く。
英二たち一行が唖然呆然としているのを見て忍足が苦笑った。
「紹介しとくわ。俺のスィートハニーの岳人。岳人、この人達はな、春の国の英二王子、うちの第二王子の日吉、青の国の黒羽。丸井のこと知ってる人達やねん」
なんともいえない微妙な空気の中、黒羽は一応どうも、と引きつった笑いで挨拶をする。
日吉は呆れ返った顔で冷たく忍足を見遣り、英二はなぜか思いっきり睨んでくる岳人を睨み返していた。
岳人の乱入でおかしなことになってしまった場を収めるには、さっさと本題に入ってしまうに限ると忍足が口を開く。
「あー、そしたら話始めよか。丸井なんやけど、先月1週間の休暇取って極楽島へ行ってな。ほんまやったらその後帰ってくるはずやったんやけど、なんの連絡もないまま休暇が明けてもう10日以上経つんや。跡部がさすがにおかしいやろってことで、俺が探しに来たっちゅう訳や」
「忍足さん、この島にある行方不明事件の話は聞いてますか?」
「ああ、跡部がゆうてた。でもな、丸井も跡部の下で諜報やらの仕事してるくらいやし、そう簡単に攫われるゆうんもな。それよりは賭博で借金作って帰られへんようになったゆうんがありそうな話や」
「・・・確かに、丸井さんならありそうですね・・・」
日吉が考え込む。
行方不明事件は今のところ噂でしかない。
噂でしかない話より、忍足の言う話の方が現実味があった。
「もし借金作ったとして、だ。どうするかって言えば、働いて返すとか、逃げるとかだよな。働くなら島の中だろうが逃げたんなら国に帰るんじゃねぇか?」
「・・・それに、働くにしても逃げるにしても、連絡くらいできるんじゃないかなぁ?」
英二の発言に日吉が顔を上げる。
「そうですね。連絡がないのはやっぱりおかしいと思います。何言われるか考えると気は重いですが、跡部さんに事情を説明すれば借金の立替くらいはしてもらえますし」
「そやなぁ・・・」
一同が考え込む。
「とりあえず聞き込みでもしてみるか?」
黒羽の提案に忍足が難しい顔をした。
「島とはいえ、人は多いで?おまけに人の出入りも激しいし」
「でも賭博場に出入りしてたかどうかくらいなら、店の従業員に聞けば覚えている人がいるかもしれません。あとは菓子屋ですね」
日吉が言うと忍足がなるほど、と頷いた。
「菓子屋か、それは盲点やったわ。丸井なら日に3度くらいは行ってそうやな。ところで、日吉たちは丸井探しを手伝ってくれるん?」
「船の修理が終わるまではここに滞在しますし、他にやることはないからいいですよ」
日吉が言うと英二と黒羽も頷いた。
「そら助かるわ。岳ちゃんと2人でどうやって探そうか悩んでてん」
確か町で出会った時は装身具を眺めてたよな、と思ったが誰も口には出さなかった。
「そしたらとりあえずお茶でも飲んで、夕方くらいから出かけよか」
暢気にそういうと忍足は簡易キッチンへと入っていった。
後を付いていった岳人が振り返り、一瞬英二を睨みつけて去っていく。
「なにあれ。なんかヤな感じ。オレなんかした?」
憤る英二の肩を黒羽が慰めるように叩く。
「まぁ、あれだ。・・・気にすんな」
「悪いのは全部忍足さんですから、気にすることはないですよ」
日吉の言葉の直後にキッチンで忍足が派手なくしゃみをしたのが聞こえた。
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