極楽島 6




港のすぐ隣にある造船所から出てきた大石と柳は、修理の見積書を手に話しながら歩いていた。
時刻はすでに昼を少し回っている。
朝から船大工の棟梁と共に船の修理箇所を検分し、全て終えてから書類を作り、また話し合いと続いた。
さすがに空腹を覚えた大石が隣を歩く柳に提案する。
「1度宿に戻って昼食をとらないか?」
「そうしよう」
手にしていた書類を簡単に筒状に丸めて柳が同意する。
宿に向けて歩きながら、それにしても、と大石が口を開いた。
「10日で修理が終わるっていうのは驚きだな。1ヶ月くらいかかると思ってたよ」
「大きな造船所で設備が整っていたのもあるが、腕のいい船大工の手が空いていたのも僥倖だった」
嵐で破損した箇所以外に、長く航海を続けていた為、船には多く傷んでいる箇所が見つかった。
元の造りがしっかりしていたせいか特に不具合も感じず気づかなかったが、嵐に会わなくてもそう遠くないうちに修理は必要だったろうと棟梁に言われた。
「明日から修理に入ってもらえることは決まったし、後は代金の工面だな」
「宝石類の換金ができる店はこの島にもあるだろうが、問題は額だな。高額になると1件の宝石商では換金しきれない可能性がある」
「島で必要額を換金しきれなかったら定期船で1番近い国へ行ってくる。それで間に合うだろう」
青の国を出る時、宰相だった柳の父が城にあったかなりの宝石や宝玉、高価な布等を積み込んでくれた。
滅ぶ国に宝物など不要、敵の手に渡るくらいなら息子たちの未来の為に、その思いで託された宝物類はその心と共に長く大石たちの航海を助けてきた。
「できるだけ大手の、それも信用ができる店を探さないといけないな」
「ちょうど英二や仁王たちが別件で町を回っている。適当な店がないか聞いてみよう」
道の先に宿屋が見えてくる。
いずれにしても、まずは腹ごしらえをしてから、と大石と柳は宿屋へ入っていった。



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忍足が消え、岳人が消え、結局2人だけになってしまった英二と仁王は、当初の目的どおり菓子屋や通り沿いの店で丸井の聞き込みを続けていた。
道を歩いている時は岳人の姿が見えないかも気にして歩いたが、どこへ行ってしまったのか見当たらなかった。
十数件の店で丸井について聞いたが、覚えていたのは宿屋が並ぶ通りに1番近い菓子屋の店主くらいだった。
英二が丸井の特徴を話すと、愛想のいい店主の婦人は笑いながら頷いた。
「ああ、お菓子を毎日大量に買い込んでいく赤毛の子だね。覚えてるよ。でも先月の終わりくらいから見かけないし、観光で来てるって言ってたからもう帰ったんじゃないかい?」
先月の終わりといえば元々の休暇期間と一致する。
その後に行方がわからなくなっているのだから、つまりは手がかりにならない話ということだ。
他の店では誰も丸井を覚えている人はいなかった。
この島が観光地で多くの観光客が毎日出入りしていることを考えれば、1度来ただけの客を覚えていろといのが無理な話かもしれない。
「なんか、これっていう情報がみつかんないね。岳人もどこ行ったかわかんないし」
「丸井に関してはこの島におるかどうかもわからんしのぅ」
「もういないのかなぁ。だとしたらどこ行っちゃったんだろ?」
連絡も絶って姿を消す、それがどういう状況なのか英二には想像がつかない。
「やっぱりなんかあったんじゃないかなぁ・・・」
「結論を出すにはまだ早いぜよ。ちょうど向こうから黒羽たちも来たし、あっちの成果を聞いてみんか」
「そだね。岳人を見かけなかったかも聞いてみよっと」
こちらを見て大きく手を振る黒羽に向かって英二は走った。



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「あっくーん、お仕事だよー」
「テメェ、その気持ち悪い呼び方をするなと、何度言ったらわかるんだ」
機嫌悪そうに睨んできた亜久津を気にもせず、ヘラヘラ笑った千石は手にしていた鍵を投げ渡した。
それを片手でキャッチした亜久津は鍵についている倉庫の番号を確認し、それで、と続ける。
「今回は何人だ?」
「1人。先方との話は済んでるから後は運ぶだけ。ヨロシクー」
どこまでも明るい調子の千石にチッと舌打ちで答えて亜久津はだるそうに立ち上がる。
部屋を出ようとしたところで思い出したように亜久津が振り返った。
「おい、こないだ酒場にいた奴、あんまり関わるんじゃねぇぞ。キナ臭い」
「ああ、仁王クンだね。確かに普通の人じゃないよねぇ、彼」
「わかってるならいい」
「彼ならいい値がつきそうなんだけどなぁ」
「・・・おい」
「わかってるって。あっくんは心配性だなぁ」
笑って肩を叩いてきた千石の手を邪険に振り払ってドアを開ける。
部屋を出て薄暗い階段を降り、裏通りを東に歩くと小さな港に出た。
豪華な船が並ぶ景観のいい南西海岸とは違い、くすんで薄汚れた感のある東の港には三艘の漁船が停泊しているだけだった。
いったん港を通り過ぎ、近くにある穀物倉庫の前で足を止める。
倉庫の扉に書かれた番号を確認してから鍵を取り出して中へ入り、穀物の袋が積み上げられている裏側に回りこんだ。
麻の袋に包まれ床に転がされてる大きな荷を肩に担ぎ上げ、倉庫の鍵を元通りに施錠すると港へ向けて歩いた。
亜久津の姿を見た1人の漁師が船から渡り板を出す。
荷物を担いだまま漁船に乗り込むと、漁師はすぐに船を出した。




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