極楽島 7
丸井の捜索は何も手がかりが掴めないまま、極楽島に来て3日が経った。
英二は大石と部屋で朝食を取りながら昨日の捜索の様子を話して聞かせた。
「でね、黒羽と日吉の方も全然ダメだったんだって。もうどこ探したらいいのかわかんない」
「船着場とかは行ってみたのか?この島から出るなら船に乗っただろう?」
「日吉たちが行ったけど、毎日たくさんの人が船に乗るから覚えてないって言われたって」
「うーん・・・。島にいるのかいないのかだけでも分かるといいんだけどな」
「そーなんだよ。これだけ探しても見つからないと、もうここにはいないんじゃないかって思っちゃう」
フルーツサラダをつつきながら英二が眉を寄せる。
テーブルに並ぶ朝食は、英二がまだ寝ている間に大石が外で買い込んできたものだ。
「まだ戻ってこないか西国にも聞いてみたほうがいいかもしれないな」
「そだね。あとで忍足に言っとく。大石たちは?もう船の修理の話は終わった?」
「それなんだけど、英二、色々話を聞いて歩いている時に宝石を扱ってる店がなかったか?」
「ん?宝石?何件かあったと思うけど。なんで?」
「修理代金を払うのに宝石を換金したいんだ。大きな店があったら教えてくれないか?」
えーっと、と呟きながら英二は頭の中で昨日歩いた店を思い浮かべた。
装身具を扱っている店はいくつかあったが、ほとんどが観光客の土産物屋で宝石を換金できるような店ではない。
「んー、あんまり大きくないトコだけど、本物の宝石類を売ってそうなとこが1件だけあったと思う」
場所はね、と続けて、英二はテーブルの上に指で地図を書いた。
この通りをまっすぐ行って、ここを曲がって、と説明していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
大石が立っていきドアを開けると忍足が立っていた。
「朝早うからごめんな。うちの岳ちゃん来てへん?」
片手で謝るポーズを取りながら部屋に入ってきた忍足は、部屋をぐるりと見回してガックリと肩を落とした。
「岳人は来てないよ。っていうかまたケンカしたの?」
呆れたように言う英二に忍足が首を振る。
「ちゃうねん、昨日から帰ってきてないんや。で、もしかしたら姫さんとこにお邪魔してへんか思うて」
「え、あれから戻ってきてないってこと?」
「そうなんや。・・・まいったわ、金も持ってないし知り合いもロクにおらんのに、どこ泊まったんやろなぁ・・・。あ、食事中やったん?堪忍な。そしたら他探してみるわ、じゃ」
忍足が帰った後、部屋のドアを閉めた大石の袖を英二が引く。
「・・・ねぇ、岳人までいなくなっちゃうとか、ないよね?」
「喧嘩しただけなら今日には帰ってくるんじゃないかな。心配はいらないと思うよ」
「そうだよね!ホント、人騒がせな奴!なんかわかんないけど、最初っからケンカ腰だったし!」
先程までの不安気な顔を一転させて怒りながら英二が岳人の話をする。
大石は笑ってそれを聞きながら、微かによぎった嫌な予感を胸に隠した。
**
木手はまた港近くの宿泊施設にある庭に来ていた。
こないだ見かけた薄気味の悪い少年のことがどうしても気に懸かった。
意思も感情も現さない瞳は今でも思い出すと背筋が寒くなる。
それと同時に、あんな目をしているのは何者なのか知りたいと思った。
庭では数組の宿泊客が談笑している他、ベンチで本を読んでいる者もいた。
宿泊所の従業員がサービスで配っている飲み物を木手も受け取る。
宿泊客ではないが、特に怪しまれている様子もなかった。
冷えたグラスに口を付け、木手は庭を見回す。
まだあの少年は現れない。
あれは何者なのだろうか。
あの眼はまるで、・・・人ではないような。
人ではない?馬鹿な。それじゃなんだというんだ。
頭に浮かんだ考えを木手は一蹴する。
グラスをベンチの横に置いてまた庭を見た。
どうせすることはないのだから、半日くらいはここで時間を潰しながら待ってみようと思った。
**
柳と大石は英二に教えられた宝石店に来ていた。
観光客で賑わう表通りに立つ店だがこじんまりとしてあまり目立たない。
「悪いがこれはうちでは買い取れないな」
店主が手袋をした手で柳に石を返した。
85%以上の確率でそういう答えが返ってくるだろうという柳の予測は当たった。
土産物屋と違って店内に置いてある宝石類は本物だったが、あまり高価なものは置いていない。
買い取ったところでこの店では売れないだろう。
返された石をしまいながら、やはり船で近くの国まで行くしかないと大石に話していると、店主が、急いでいるのか?と声をかけてきた。
「それだったら南西の港の側に立つ大型の宿泊施設に行ってみるといい。うまくすればオーナーが泊り客の金持ちで買い取ってくれる人を紹介してくれるかもしれないよ」
「どうする、大石」
「行ってみよう。それで無理なようなら他へ行けばいい」
話は決まり、店主に礼を言って柳と大石は店を出た。
その足でまっすぐ教えられた宿泊施設に向かう。
受付で用件を話すとしばらくしてから最上階にあるオーナーの執務室に通された。
オーナーは白のラフな上下を着た、よく陽に焼けた肌を持つ40過ぎの男だった。
持参した宝石類を見せると、買いたいと希望する者を集めておくから明日また来るようにと言われた。
「少しは希望が持てそうだな」
「修理代分の宝石がここで売れれば手間が省けてありがたいが」
用件を済ませて執務室を出た柳と大石は、白い石が敷き詰められた廊下を話しながら歩く。
並んだ部屋のドアの1つを通り過ぎた時、中からドアが開いた。
何気なく振り向いた大石の目に部屋から出てきた少年の後姿が映る。
肩の上で真っ直ぐに切り揃えられた赤毛の少年は、ゆっくりとした足取りでオーナーの執務室へ入っていった。
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