極楽島 8




夜、宿屋に再び忍足が訪れた。
岳人がまだ戻らないという。
丸井の探索を放り出し1日岳人を探して回っていた忍足は、普段の姿からは想像できないほど余裕を無くし顔を蒼褪めさせていた。
「あかんわ、誰かに攫われたんや。どないしよう」
「あの岳人がおとなしく攫われるとは思えないんだけど。ね、怒って先に西国へ帰っちゃったってことは?」
「金も持ってへんのに?」
「岳人ならちっちゃいから荷物に潜り込んだりできそうじゃん」
「西国に連絡を入れてみた方がいいんじゃないか?」
英二と大石の言葉に新たな希望を見出して忍足が顔を上げる。
「そうやな、跡部に連絡してみるわ」
そう言うと暇の言葉も告げずに慌しく部屋を出て行った。

「・・・2人になっちゃったね、探し人」
英二が溜息をつく。
丸井の探索も手詰まりの状態だというのに岳人まで消えた。
「明日、宝石の換金が終わったら俺と柳も手伝うよ」
大石が励ますように英二の肩を叩く。
「うん。それにしてもどこ行っちゃったんだろ、2人とも。人間が消えるなんてことはないから、本当に攫われたりしたのかなぁ・・・」
「岳人のことは知らないけど、丸井は跡部の部下で諜報なんかをしてるんだよな。そこそこ腕も立つだろうし、そう簡単に攫ったりできないんじゃないかな」
「そーなんだよね。岳人も背は小さいけど2階から飛び降りたりするくらい乱暴だし、力も結構あるみたいだった」
丸井といい岳人といい、その辺の人買いみたいな悪党にあっさりと連れて行かれるとは思えなかった。
だが、もし人身売買をする組織的な集団でもいて、数人に襲われたのなら話は変わる。
そして大石の頭にはこの島の噂のひとつ、見目良い青年が行方不明になるという話が思い出されていた。
岳人の風貌はわからないが、丸井はわりと整った顔をしていた記憶がある。
「英二、岳人の人相風体はどんな感じなんだ?」
「えーっとね、背は慈郎よりもちょっと小さいくらいで、体は細い感じ。あとね、髪が真っ直ぐな赤毛で肩くらいのおかっぱ頭。目がおっきくて吊り目、鼻も口もちっさいけどうるさい奴」
「綺麗な顔をしてるのか?」
「うーん?そうだなぁ・・・黙ってればちょっと可愛いかも」
不本意そうな顔で岳人の容姿を褒めた英二に笑いながら、大石は頭の中で特徴を組み立てていく。
細身で背が小さく肩までの真っ直ぐな赤毛、そこまで想像してふと何かが引っ掛かった。
どこかで見た気がする。
「・・・おーいし?どしたの?」
「どこかで見たような、それも最近・・・いや、今日だ。そうか、オーナーに会った時だ」
「え、岳人を見たの!?今日?」
「俺は岳人を知らないし、後姿しか見てないから本人かどうかはわからないけど。でも、英二が言った特徴には合ってると思うよ」
「どこ?どこで?」
大石は昼過ぎに柳と行った宿泊施設での話を説明した。
「明日、オレも行っていい?ホントに岳人なのか確かめたい!」
「いいよ。ただ、明日はオーナーの部屋へ行けるかわからないぞ」
構わないと英二が頷く。
もしあの少年が岳人だったとしても、自由に歩き回っていたことから誘拐や監禁などではないと思えた。
英二を連れて行っても危険はないだろう。
裕福な客を受け入れているが宿屋と変わらない宿泊施設であり、ましてや自分と柳がいる。
大丈夫だ、大石は目の前に立っている英二に笑いかけた。



**



仁王は夜になるのを待って裏通りの賭場を何件か回った。
わざと負けるような賭け方をして、かなりの金を使ってから酒場へと入る。
カウンター席に癖の強いオレンジの髪を見つけて隣に座った。
「こんばんわ。俺に奢ってくれん?」
「あ、仁王クンだ。今日は冴えない顔だねー、もしかして負けちゃった?」
「今夜は全然じゃ。危うく身包み剥がされて海に投げ込まれるとこじゃった」
溜息をつくと笑っていた千石が自分のグラスを寄越した。
礼を言ってグラスに口を付けながら仁王は唸るように呟く。
「このままだと旅が続けられん。明日は絶対今日の分を取り返す」
「頑張れー!でも、もしうまくいかなくてヤバいことになったら、海に沈められる前に俺の名前出してよ」
「・・・お前さん何者じゃ?そんな風には見えんけど、もしかしてこの辺りの元締めなんか?」
声を潜めて言った仁王に千石が弾けるように笑った。
「違う違う。あ、言っとくけど金貸しでもないよ。ただ、地元の人間だからさ、顔も広いんだよね」
「なるほどね。そういやこないだも話の途中で恐い顔のお友達が来とったのう。今日はおらんの?」
「あっくんのことだね。今は仕事に行ってるから2、3日しないと戻ってこないかな」
「仕事となると・・・用心棒じゃろ。あの恐い顔で店番はできん。客が逃げる」
千石がカウンターを叩いて爆笑する。
「あっはっはっは。あっくんは顔は恐いけどいい奴なんだよ。俺の大親友」
笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭っている千石を見ながら、仁王は口元に微かな笑みを浮かべた。
人懐こくて饒舌、そして笑い上戸。
一見すると親しげな態度で何でも話しそうだが、実際は仁王の探りを全て上手くかわしている。
なかなか手強い、だがそうじゃないとつまらない。
千石の方も仁王がただの観光客だとは思っていないのかもしれない。
腹の探り合い、騙し合いは仁王を楽しくさせる。
酒場の主人に言ってもう1杯酒を奢って寄越した千石に、少し大袈裟なくらい喜んで見せて仁王はグラスに口を寄せる。
頭の中ではもう一歩踏み込んだ小細工を考えながら千石の話に相槌を打つ。
丸井の行方不明事件に千石が絡むかどうかはわからない。
最初はこの島に住んでいる人間を情報源として掴んでおこうという目的だった。
だが、千石は会って話す度に仁王の勘に何かが触れてくる。
こうしてかけている時間が無駄になるかどうか、それはカードなんかより数倍楽しい賭けだった。




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