極楽島 9




港の近くで1番大きな宿泊施設だった。
降り注ぐ日差しを反射する白い建物は、周りに配置されている緑の植え込みと相まって目に涼しい。
大石と柳に付いて英二も中に入る。
建物の中も白で統一され、窓から入り込む明かりで眩しいほどだった。
「ね、大石。ここに岳人がいたの?」
「本人かどうかはわからないけどな。あの上がオーナーの執務室になってる」
小声で話しかけた英二に大石が答え、視線で螺旋階段の上階を指した。
5階建ての宿泊施設は1階が受付と待合室、遊技場になっていて、2階から4階までが客室だった。
客室へ上がる為の階段は別に有り、吹き抜けを螺旋階段はそのまま真っ直ぐ5階まで続いている。
「上へは許可がないと登れないようになっているらしい。勝手に行くと警備に捕まるぞ」
螺旋階段に向かおうとした英二を柳が止める。
「え、じゃあどうすんの?」
「即売会が済んだら礼金をオーナーに渡すことになるだろう。その時に執務室へ行けるかもしれない」
「わかった。そんじゃそれまで待ってる」
頷いて手近なソファに腰掛けた英二の隣に大石が座り、柳は受付へと用件を伝えに行く。
しばらくしてオーナー自ら現れ、即売会の場所として用意した談話室に案内された。

談話室にはすでに宿泊客が集っていた。
中央に設置されたテーブルに大石と柳が装身具を並べると、婦人達から感嘆の溜息が洩れた。
目の色を変えた婦人達がテーブルを取り囲んだのはあっという間で、勢いに押された英二は弾き出されるようにテーブルから離れた。
「・・・なんか、スゴイっていうか、恐いかも・・・」
手にした宝石類を身につけたり眺めたりと騒がしい一団からそーっと離れた英二は、庭へと続く開け放たれた窓へ足を向けた。
整然と刈り込まれた芝生が広がり、日除け代わりの木の下には白いベンチが備え付けてある。
庭に降りてベンチに座ると海風が心地いい。
終わるまでここで待っていようと大きく伸びをした英二は、たった今庭の角を曲がって行った人物に目を見開いた。
華奢な後姿に肩で切り揃えられた赤毛。
「いた!間違いない!」
何を考えるより先に体が動いていた。
英二は岳人の後を追って庭を走った。



即売会は大成功だった。
青の国でしか産出されない宝石は希少価値も高く、宿泊客はこぞって買い入れている。
1時間もしないうちに持参した装身具や石は売り切れてしまい、もう無いのかと聞かれたほどだった。
「これで修理代金の問題は解決した。大石、すぐに支払いに行くか?」
「そうだな。それにしても予定よりだいぶ高く売れたみたいだが・・・いいのか?」
「こちらで値をつけたわけでもない。買い手がそれでいいというなら問題ないだろう」
「それもそうか。ところで英二は?」
「途中で庭に出たようだ。建物の外には行かないよう言ってあるからその辺りにいるだろう」
即売会が始まると同時に談話室から去ったオーナーに、礼を言う口実で執務室へ行くつもりでいる。
先日会った少年が岳人かどうか判断できるのは実際に岳人を知っている英二だけで、その英二を執務室へ伴って行かなくては意味が無い。
談話室から庭に降りて辺りを見回す。
木陰のベンチで涼む者が何人かいたが、その中に英二の姿は無い。
「向こうの方かな」
大石が庭の先に目を向ける。
建物に沿った形で作られた庭は、今の立ち位置からでは角までしか見えない。
「行ってみよう」
柳が先に歩き出し、大石もその後に続く。
庭を端から端まで歩き、それから建物の中に入った。
遊技場や待合室、元いた談話室から受付と1階部分はくまなく探したが英二の姿は無かった。
「・・・いないな」
「英二王子なら1人で5階へ行った可能性も捨てきれないな」
「仕方ない、執務室へ行ってみよう。英二がいない時に岳人らしき人に会ったら声をかけてみればいい」
柳が受付に言い、執務室へ行く許可を貰う。
2人で螺旋階段を登り5階に着いたがフロアに人影は無かった。
オーナーの執務室へ入り今日の礼を言い、次いで一緒に来た仲間の1人が即売会の途中からいなくなって見つからないことを話した。
「それは困りましたね。従業員に案内させますので客室の方も探して見たほうがいいでしょう。まだここにいるなら見つかりますよ」
オーナーはそう言い、机の上の呼び鈴を鳴らすと、すぐに従業員が執務室に入ってきた。
従業員に連れられて2階から4階の客室フロアを確認したが、英二も岳人もいなかった。
再び庭に降りて探すがやはりいない。
「大石、俺は1度宿へ戻ってみる。もしかしたら岳人に会って連れ帰っているかもしれない」
「そうだな、頼む。俺はもう1度建物の中を探してみる」
柳が宿屋へ戻り、大石は庭から遊技場へと入っていった。
カード賭博に興じている客の顔を1人ずつ確かめるように歩く。
「君に賭博は似合いませんね」
背後から声をかけられて驚いた大石が振り向く。
「・・・木手か。お前こそここで何をしてるんだ?」
「俺ですか。まぁ暇潰しと言っておきましょう。ところでちょっとお聞きしたいことがあるんですが、庭に出ませんか」
「済まないが、ちょっと急いでるんだ。ここに一緒に来ていた英二がいなくなった」
「彼なら見かけましたよ。1時間ほど前ですが」
「どこにいた!?」
「庭です。実は英二王子が追いかけていた少年のことを聞きたいんですよ」
木手に促されるようにして大石は庭に出た。
木手の話から英二が追いかけていったのが岳人だというのはすぐにわかった。
だが解せないのは、木手が初めてこの宿泊施設で岳人をみかけたのが島に着いた翌日だったことだ。
忍足が宿屋へ岳人を探しに来たのは昨日で、それまでは岳人と忍足は一緒に行動していたはずだ。
「1人でここへ遊びに来ていたと考えられなくもないですが・・・ただ、オーナーとはずいぶん親しげでしたね」
「どういうことだ・・・」
オーナーの執務室へ戻って話を聞いたほうがいいかもしれない、と考えたところで柳が戻ってきた。
英二は宿屋に戻っておらず、事情を聞いた黒羽や日吉が町を探してくれているという。
「柳、実は・・・」
大石が木手から聞いた話を柳に説明する。
岳人を追いかけて姿を消した英二を探すには、まず岳人の居所を突き止めたほうがいいという意見で一致した。
木手も同行し3人で5階の執務室へ向かう。
木手の話が確かなら、オーナーは岳人のことを知っているはずだった。




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