海に咲く夢・番外編 / 木手 2
「すっげー!ここって砂だらけだ!!面白ぇー!」
「しーっ!!だめだって!島の人に聞こえちゃうよ!」
大喜びで跳ね回る慈郎を英二が慌てて追いかけた。
美海島に上陸した大石達は島民の不安感を煽らないよう2組3グループという少人数で島の探索を行うことにした。
表向きは呪いを解く為の呪具を探すと言ってあるが、真の目的は木手の居場所を探ることだ。
大石と柳が組み、黒羽と日吉、そして英二が慈郎と組んでいる。
柳の予想通り、最初に島に上陸し来訪の目的を告げた大石と柳は、再度島に降り立つと同時に島民達に囲まれ呪いに関しての質問を受けたり、声はかけなくとも期待を込めた視線に常に追われる状態になった。
自分達が囮となって島民の目を引きつければ、英二や黒羽達が木手の居場所を探りやすくなる。
黒羽と日吉は家屋の密集する辺りを、英二と慈郎は海岸沿いを割り当てられた。
「・・・海岸って言っても結構広いよね。どこを探せばいいのかなぁ」
英二は白い砂が眩しく反射する辺りをぐるりと眺めた。
普段、策を授ける時には事細かに指示を出す柳が、今回は驚くほど簡単な、言い換えれば適当としかいいようのない指示しか出さなかった。
海岸辺りを探してくれればいい、柳の指示をその時の表情から声音まで正確に思い浮かべながら、英二は途方に暮れる。
海岸辺り、という曖昧な言葉は柳らしくなく、波打ち際からおよそどの辺りまでを指すのかもわからない。
「・・・もっと詳しく、って聞けば良かった」
はぁ、とらしくない溜息をつき、ふと見れば飛び回っていた慈郎の姿が無い。
あれ?と周囲を見遣れば、ちょうど砂地に残る傾いた家屋から慈郎が出てくるところだった。
「慈郎ー!勝手に入っちゃダメだってば」
声をかけた時にはすでに遅く、慈郎はすぐ隣に立つ家屋へ半身を潜り込ませている。
「あっ、人がいたー!こんにちはー!」
陽気に挨拶をしている慈郎に英二の方がぎょっとした。
「ちょ、ちょっと待った!誰に挨拶してんの!」
家屋に顔を突っ込んだまま住人に話しかけている慈郎を英二が羽交い絞めにして無理矢理引きはがす。
驚いた顔を表に出した住人に、ごめんなさい!と頭を下げて、慈郎を連れて走って逃げた。
「・・・だめだって・・・、こっそり探さなきゃ・・・」
ぜーぜーと荒い息をついた英二が砂の上に座り込む。
「でも、ここって広いCー、こっそり探してても見つからないよー」
元気な慈郎は隣に座ると英二の顔を覗きこんでニコッと笑う。
「そーだけど・・・」
「それに柳も好きに探していいって言ってたCー」
「好きに、とは言ってなかったよ?」
「柳が細かいことを言わない時は好きにしていいんだよー」
「そうなの!?」
初めて聞いた暗黙のルールに英二がびっくりして聞き返すと慈郎がニコニコしながら頷いた。
「そっかぁ・・・でも、好きにしてっていうのも困っちゃうよ・・・どうしよっか?」
「この辺の人に怪しいとこを聞こー!」
「もしかして、さっきの人にもそう聞いたの?」
「うん、そーだよー。でも知らないって」
そりゃそうだろう、と英二ががっくり項垂れた。
柳の話では島ぐるみで木手を匿っているらしいし、そんな中で、ここが怪しいですよ、と教えてくれる人はいないだろう。
いったい柳はどんな行動を期待して自分達を海岸探索に充てたのか、皆目検討もつかず頭を悩ませる英二は、目を離した隙にまた他の家屋へ入っていってしまった慈郎を追いかけて砂地を走り回る羽目になった。
黒羽と日吉は島の2割しかない緑地を歩きながら、周囲に怪しまれないように建物の観察をしていた。
木手はこの島のどこかに隠れている可能性があり、だとすれば不自然に警戒の厳しい所があるはずだった。
だが、一通り歩いても島の人々の様子は南の島らしい長閑さで、該当しそうな所は全く無い。
「島の中にいるんですかね」
「どうだろうなぁ・・・この調子じゃいねぇかもしれねぇな」
「見たところ家はどこも狭そうですし、東国が来て虱潰しに探したら隠れていられる場所は無いですよ」
「ってことはやっぱり海岸辺りか。あそこには廃墟みたいな家が多かったからな。下は砂だし掘れば地下に隠れられるな」
小声でやり取りしながら緑地を一回りした。
島民は見慣れぬ黒羽達に時々視線を寄越すが、ただそれだけで普段の生活を続けている。
地面に胡坐をかき草を編む者、子供を背負って洗濯をしている者、釣った魚を開いて干す者。
網に入れた貝を持った青年が黒羽達の横を通り過ぎる。
すれ違う時に青年がちらりと黒羽と日吉を見たが、そのまま行ってしまったので特に気にも留めなかった。
黒羽も日吉も木手やその仲間に面識はない。
だからすれ違った青年が木手の仲間である甲斐だと気づかなかった。
大石と柳は島民達にあちらこちらを連れまわされていた。
呪具の探索と言ったばかりに、あの岩陰に怪しい石が積んであるだの、砂地に旅人が何かを埋めていただのという情報がひっきりなしに寄せられる。
それに付き合って数箇所回ったところで、柳は自分に向けられる鋭い視線に顔を上げた。
長い金髪を緩く括った青年が柳に目で合図を送り、それと同時に島民を掻き分けるようにして歩み寄ってきた。
「あっちの崖の上に変な人形が捨てられてるさぁ」
「・・・では案内してくれ」
「いいよ。あー、じーさまとばーさまはここで待っててくれ。足場が悪くて危ないから」
島民たちを言い含めて足止めしてから、金髪の青年は柳と大石を手招く。
充分に距離を取り、周りに島民がいなくなったことを確認してから、それで、と青年が切り出す。
「何しに来た?木手を探しに来たのか?」
「そうだ」
くるりと振り返った青年と柳が対峙するように向かい合う。
凛と柳がこうして顔を合わせるのはこれで3度目だった。
次々と家屋を覗き込んでいく慈郎に、半ば開き直って付き合っていた英二は、海の向こうに見える小さな島から手漕ぎのボートが浜に近づいてくるのを見つけた。
特に何が気になった訳でもなく、ただ歩きつかれたせいで立ち止まってボートを眺めていた英二は、近づいてきたボートが乗せている人物に目を見開く。
ひょろりとした長身、明るい日差しの似合わない顔色の悪い顔。
東国で木手と共に兵を束ねていた知念だった。
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