海に咲く夢・番外編 / 木手 3
ボートから降り立った知念は、砂浜に立ち尽くしている英二の所へまっすぐに向かってきた。
上背のある知念が目の前に立つと英二はすっぽりと日陰に収まる恰好となる。
「お前、東国にいた傭兵だな?3人組の。傭兵まで使って木手を探しに来たのか。もうここにはいないってあの頭の悪い王様によく言っとけ」
「へ?頭の悪い王様?」
王と呼ばれそうな人物には心当たりがあるが、頭が悪いと形容されそうなのは1人もいない。
何を言われてるのか咄嗟に理解できず、きょとんとした英二に知念が肩を竦めた。
「東国の王だ。いるだろ、肉饅頭みたいなのが」
「東国の・・・?・・・あ!」
わかった、とばかりに英二がポンと手を打った。
「オレ、もう東国の傭兵じゃないよ」
「・・・それじゃ何しに来たんだ、こんな僻地まで」
「それは、・・・えーっと・・・」
どういえば怪しまれずに木手の居場所を教えてもらえるだろうと、必死に頭を働かせる英二の元に付近の家屋を探索していた慈郎が走って戻ってきた。
「うーわ、でっけー!!なに、この人ー?」
嬉しそうに目をキラキラ輝かせた慈郎がわざわざしゃがみこんで見上げるように手を翳した。
「知念っていうんだよ。東国で傭兵を取り纏めてた人で、」
「あー!じゃ、お前って木手の仲間!?」
「うわっ、慈郎!!」
英二が咄嗟に慈郎の口を塞ぐが時既に遅し。
「・・・お前、やっぱり東国の依頼で来たんだな」
「ち、違う!ちゃんと説明するから!!」
じろりと睨んできた知念に大慌てで首を振り、仕方なく英二は島に来た目的を説明し始めた。
僅かばかりの緑地に小さな家が隙間無くびっしりと建ち並ぶというのに、その1件だけは他の家の3倍以上の大きさがあった。
島民の長が住む家だが、これだけを見てもどんな人間なのかおおよその見当はつく。
入るよ、と声をかけて戸口から中を覗けば、恰幅のいい年配の男が部屋の奥で横柄に頷いた。
足元に転がる網や籠を器用によけながら男の傍まで辿り着き、傍らの椅子に腰を下ろす。
「また東国が来るらしいぞ。さっき連絡が来た」
手にしていた書簡を恰幅のいい男に渡すと、元々悪い人相がより凄みを増した。
「どうする、今度は見つかってしまうかもしれないぞ」
「元はといえばあの馬鹿がしくじるからだ。役に立たんばかりか島に厄介ごとを持ち込みやがって」
吐き捨てるように言い放ち、渡された書簡をぐしゃりと握り潰す。
「今の所に置いておいておくのはまずいんじゃないか?見つかった時に島にとばっちりが来る」
「・・・そうだな。奴が隠れてる亀島はこの島から近過ぎるし、小さいから探されたら一発で終わりだ。他へ移すか、それともいっそ東国に売っちまうか」
「とりあえず移そう。後のことはみんなで集まった時にでも」
「そうだな。お前、今の内にあの馬鹿を移動させとけ」
「わかった」
ひとつ頷き、来た時のように足元に気をつけながら戸口へと向かい、そのまま長の家を出た。
「・・・亀島か。柳の予想が当たったのぅ」
切れ者の参謀が立てた予想では木手は美海島内部ではなく、近辺の小島に匿われてるだろうということだった。
美海島は島の西南に大小合わせて10数個の小島があり、本島からはボートで行き来できる。
呪術者の島から人が来たことを聞けば、木手に連絡を取る者がボートで島に向かうかもしれないと、海岸付近を英二と慈郎を当たらせた。
「さて、隠れ場所はわかったが、他の連中はどうしとるかの」
とりあえず亀島のある方角へと歩く。
すれ違う島民は見慣れた顔に頓着せず行過ぎる。
緑地を出て白い砂浜を歩きながら仁王は付けていたカツラを外し、変装用の化粧を袖で拭った。
「収穫はありませんでしたね」
「そうだな。ここにいても仕方ねぇし、英二王子達に合流するか」
そうですね、と頷きかけた日吉がぴたりと足を止めた。
「どうした?」
「・・・あの男、何者でしょうね」
「どれだ?」
日吉の目が追っている男は、島でも1番大きな家から出て砂地の方へ歩いていくところだった。
着ている物等から一見するとただの島の人間に見えるが、歩き方や背中に隙が無い。
「・・・あれはかなり使えるな。そういや木手の仲間は結構な使い手だったぜ」
「奴らの仲間かもしれませんね。追いましょうか」
「そうしよう」
尾行を気づかれる恐れはあったが、相手が気づいてなんらかのリアクションを取ってくれれば、黒羽も日吉もそれを機に動くことができる。
逃げるなら追う、向かってくるなら戦って勝ち、そして口を割らせる。
どちらにしても少しは収穫を望めるかもしれないと、黒羽と日吉は足を速めた。
海風が柳の黒髪を揺らす。
凛と対峙していても涼しげな態度はひとつも崩れることはない。
挑発するように口元に笑いを浮かべた凛が腰の剣に手をかけた。
「お前とは1勝1敗だったさぁ。決着をつけるか?」
「いいだろう。ただし、お前が負けたら木手の居所を吐くという条件で、だ」
「・・・お前が負けたら?」
「この島の呪いを解いてやろう」
「・・・呪いってのは本当の話なのか?」
「本当だ」
即答した柳から隣に立つ大石へ視線を転じ、凛が真偽を問うような眼差しを向ける。
「柳の言うことは本当だ。俺達は呪術者の島の洞窟でこの島にかけられた呪いを見つけたんだ。そのことで木手に話があってここに来た。処罰する為じゃない」
大石の返答を聞いて凛が逡巡するように虚空を見つめる。
話を信じて木手に会わせるべきか、それともここでなんとしても柳に勝って呪いを解かせて追い返すか。
「木手の居所ならわかったぜよ」
背後から聞こえた声に凛がはっとして振り返る。
凛のところまであと数歩という所には仁王が、そしてそのさらに後からは黒羽と日吉がこちらに向かって歩いてくるところだった。
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