海に咲く夢・番外編 / 丸井
極楽島に休暇に出てから僅か2ヶ月程だったが、西国の港に降り立った時は懐かしさを感じた。
大袈裟に言えば、長い旅の果てにやっと故郷に帰れた、そんな感慨さえ湧いてくる。
「あー、やっぱいいもんだよな、我が国ってのはさ」
「休暇に出る前は西国にいたじゃないですか」
「うっせーよ、日吉。気分だっつーの」
冷静な発言で水を差す日吉の後頭部に平手をお見舞いしようとしたが、日吉は涼しい顔であっさりと避ける。
やる気だな?と火のついた丸井が手刀を日吉の首目掛けて繰り出せば、冷めた視線で一瞥してこともなくかわされた。
だが丸井とて腕には自信がある。
日吉がかわす動線は先読み済み、ちょうど背が来るあたりに蹴りを放った。
それに対して日吉は避けずに丸井の足に軽く手を当て力の流れを変える。
「うお?」
大きくバランスを崩した丸井がほくそ笑む。
「なんちゃって」
崩れた体勢をフェイクに使い、逆の足で日吉のがら空きの脇腹を狙った。
が、これも読んでいた日吉は丸井の肩に掌底を打った勢いを利用して後方に飛び距離を取る。
「なかなかやるじゃん、日吉。腕あげたんじゃねぇ?」
「丸井さんに負けるようでは王位争奪戦に勝ち残れませんから」
「かーっ、かわいくねぇ奴!」
再び攻撃の構えを取った丸井は、後から肩を強く引かれて振り返った。
「あ?」
「帰ってくる早々なにやってるんだ、お前らは・・・」
呆れたように溜息をついて丸井の後に立つのは褐色の肌を持つ男。
「ジャッカルじゃん、久しぶりー。なに、お出迎え?」
「跡部に行けって言われたんだよ。またドジ踏むと面倒だから、ってな」
「ちょっと待て!俺はドジなんか踏んでねーよ!」
「踏んでるじゃないですか、それも2度」
「踏んでねーって!つか、なんだよ、2度ってのは!」
喚き、今にも日吉に飛び掛りそうな丸井をジャッカルが押さえ込む。
「だから、こんなとこで揉めるなって。とりあえず城へ帰ろうぜ、な?帰ったら好きなだけ暴れていいから」
「ちっ、しょーがねーな。勝負は後できっちりつけるぜぃ?わかったな、日吉!」
「俺は別にかまいませんよ」
指を突きつけて宣戦布告する丸井に日吉が頷く。
遠巻きにしている港の人々に苦笑いを返しながら、ジャッカルは丸井と日吉を素早く馬車まで連れて行った。
城に戻るなり跡部に呼びつけられ、小1時間説教を食らった挙句、しばらくは単独での活動を禁止された丸井は、隣を歩くジャッカルに八つ当たりの蹴りをかます。
「痛てーって!」
「なんでこの優秀な俺がジャッカルの補佐とかしなきゃならねーんだよ」
「なんで、ってそりゃドジ踏ん、ぐわっ!・・・だから、痛てーっての!」
二度目の渾身の蹴りは見事にジャッカルの尻にヒットした。
日吉と違って避けないので八つ当たりのし甲斐がある。
「俺はドジなんて踏んでない!それに、俺が捕まったから今回の事件は解決したんだぜ?褒められてもいいくらいじゃねーか!」
「・・・まぁ、確かに、お前のそういうポジティブなところは凄いよ」
「褒めてねーっつの!」
また蹴ろうと足を上げかけた丸井は、尻に力を入れ蹴られる準備をしているジャッカルを見て肘打ちに変更する。
なんの構えもとらず脇腹に肘打ちを食らったジャッカルがぐはっ、と呻いて蹲った。
小刻みに震えながら痛みに耐えている姿を見て、充分八つ当たりをした丸井の不機嫌も治まる。
「ま、いっか。久しぶりにお前と組んで仕事するのも面白そーだし」
「・・・頼むから、散々蹴ったり殴ったりする前にその結論を出してくれ」
蹲ったままのジャッカルが弱々しく恨み言を吐くのに笑って、丸井は手を差し出し立たせてやる。
「手加減してやったろぃ?そんくらいでガタガタ言うなって」
「本当かよ・・・かなり効いたぞ・・・?」
「お前、打たれ弱くなったんじゃね?」
「あー、それは言えるな。お前としばらく顔合わせて無かったし」
「だろぃ?心配すんな、また俺がきっちり鍛えてやっからさ」
両手を腰に当て高笑いをしている丸井に、またしばらく痛い日々が来るなと半ば諦めに近い気持ちで覚悟をするものの、ジャッカルにとってはそう悪いことばかりではない。
なんでもポジティブに捉える丸井のおかげで、失敗しそうな任務を好転させたことが何度もある。
丸井にしても細々とフォローをしてくれるジャッカルとは公私共に相性がいい。
「あ、そうだ。お前、このあとヒマ?」
「特に予定は入ってねぇけど」
「じゃ、お前の部屋行こうぜ。久々に俺様のテクでひーひー言わしてやる」
「え、まだ真っ昼間じゃ、」
「うるせー、ヤるっつたらヤるんだよ。いーから来い!」
丸井は引き摺るようにしてジャッカルを連れ部屋へ向かう。
殴る・蹴る・八つ当たる、は丸井にとっての愛情表現だが、まだ他にも愛情を表す方法はある。
「まー見てろぃ、南国仕込のテクを披露してやっからさ」
「お前、何しに行ってたんだよっ!」
久しぶりに会った相方に徹底的に愛情をぶつけてやろうと丸井は勇んで部屋のドアを開けた。
→end