海に咲く夢・番外編 / 大石 2
やっと春の国の王子を探し当てたのは、王宮の庭を走り回って2時間が過ぎた頃だった。
黄色い花がこぼれるように咲いている木の下で白い子猫を胸に抱いた王子は、大石が見つけた時に一瞬だけ泣きそうな顔をしたものの、今では迷子になったことなど忘れたようにけろりとして大石の隣を歩いている。
春の国の下の王子は名前を英二といった。
「にゃー、にゃおー」
抱きかかえた子猫に話しかけている英二に、時折猫も答えるように小さくミャウと鳴く。
「その猫、どこで見つけたの?」
猫のように自分とも話して欲しくて大石は英二に声をかける。
英二は少し考えるように首を傾げてから、あっち、と指をさした。
「庭の木のところにいた」
「前に大きな白い猫を見たことがあるよ。その子供かもしれない」
大石がそう言うと、英二は子猫に向かって、にゃー?と聞き、それに子猫がミャ、と答える。
「違うって」
「え・・・、君、猫と話せるの?」
驚いて聞き返せば、英二がむっとした顔をする。
「話せるもん」
機嫌を損ねたのか、プイっと横を向くなり駆け出して行く英二を大石は慌てて追いかけた。
英二はとにかくじっとしていることがなかった。
また迷子になるんじゃないかと心配して付いて回る大石は、1日が終わって寝台に入るなり熟睡してしまうほど疲れ果てた。
見かねた供の者が自分たちが付いているからというのを断って、大石は毎日英二の世話を焼く。
迷子にならないように、危ないことがないようにと、英二の行動を先回りして注意を促す。
それは大石にとっては相手を思ってのことであったが、英二にとっては何をするにも制限をかけられ、自由にさせてくれない大石は煙たいだけだった。
その日も突然背の高い庭の木によじ登り始めた英二を、落ちると危ないから、と後から抱きかかえるようにして地面に降ろした。
だが、もがくようにして大石の手を振り解いた英二に、大石は思いっきり突き飛ばされてしまった。
尻餅をついたままの姿勢できょとんと見上げている大石に、英二は我慢ならないといった風に指を突きつけた。
「お前、うるさい!もう、ついてくんな!」
「・・・だって、こんな高い木から落ちたら、」
「落ちないもん!ばか!」
大きな瞳が怒りに燃えて大石を睨みつける。
そのまま踵を返して走り去ってしまった英二を大石は呆然と見ていた。
どうして英二があんなに怒っているのか大石にはわからなかった。
良かれと思ってしていたことが裏目に出て、大石はしょんぼりと肩を落とす。
父たちのように友達になれるかもしれないと思っていた。
飛び回るようにして遊んでいる英二に半ば振り回される恰好だったが、同年の子供と遊ぶのが初めてだった大石は毎日がとても楽しかった。
だけど。
「楽しいのは僕だけだったのかな・・・」
怒っていた英二を思い出す。
どうしてかはわからないが、たぶん自分が悪かったのだろうと思う。
「嫌われちゃったのかな・・・」
はぁ、と大石は何度目かわからない溜息をついてがっくりと項垂れた。
春の国の王たちは1週間滞在することになっていた。
あれから大石は英二に徹底的に避けられ、大石が顔を見せると走って逃げ出す有様だった。
なんとか仲直りできないかと英二を探し回っても、やっと見つけたところでまた逃げられてしまう。
英二たちが青の国にいるのはあと3日だ。
ちゃんと話をすることができれば、何が嫌だったのか聞くことができる。
そうすれば、もう嫌がることは絶対にしないと約束してまた一緒に遊べる。
そう思ってはいたが、話すらさせてくれない英二に大石もだんだん自信がなくなってきていた。
大石は王宮の庭を当ても無く歩き、そこで遊んでいる英二を見つけた。
英二は王宮に勤める親を持つ子供たちと一緒に遊んでいた。
白い子猫と一緒に、大石が入っていけなかった子供たちの輪の中に溶け込んでいる。
楽しそうな笑い声は大石のところまで届き、大石はそっと歩く方向を変えて元来た道を戻った。
せっかく見つけたけれど、自分が入っていけば英二も子供たちも逃げてしまうだろう。
そう思ったら、歩きながら涙が出てきた。
とても寂しかった。
明日には英二たちが帰ってしまうとわかっていても大石はどうすればいいかわからなかった。
大石は書庫で大好きな本を開く。
いつもは主人公たちが楽しそうに冒険しているのを読んでいると、自分まで一緒に冒険しているようで楽しくてわくわくするのだったが、今日は少しも楽しい気分にならなかった。
本を読んでいるより、英二と遊んでいた時の方がずっと楽しかった。
大石はパタンと本を閉じる。
もう1度、一緒に遊んでくださいって言ってみよう。
明日になれば英二は帰ってしまう、そうしたらもう会えないだろう。
大石は勇気を振り絞っていつも英二が遊んでいる王宮の庭に走っていった。
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