海に咲く夢 3部 1
西国の王位継承戦に招かれた後、大石たちは海路で青の国へ向かった。
戦で国を追われるように逃走して3年、そして国を復興する為に航海を続けてさらに2年。
自国の土を踏むのはおよそ5年ぶりだ。
青の国の港が肉眼で見えるほどに近づいてくる。
必要最低限の修復は終えているという跡部の言葉どおり、戦乱の大きな傷跡は遠目では見当たらない。
まだ数は少ないが数艘の船も停泊し、港で立ち働く人の姿もあった。
やっと帰ってこれたという感慨が大石を包む。
港や建物は一度破壊されその後修復を行っているので、大石の記憶に残る景色とは若干異なる。
だが、国を抱え込むようにそびえる周囲の山々の姿は変わらない。
「長かったな」
隣に立つ柳の言葉も感無量の響きを持っている。
国を出た時はまだ互いに幼さが残っていた容姿も今では立派な青年になった。
「まだ終わっとらんよ、おふたりさん。・・・まぁ、帰ってこれて嬉しいちうんは同感じゃけど」
「そうだな。だが、正直いってどう思う?」
青の国に王を名乗る者が現れたと西国で報告を受けた。
その者とは先代の王の弟、つまりは大石の叔父だ。
大石の問いに仁王がゆるく首を振る。
それに同意するように柳が頷いた。
「判断するには情報が足りない、というところだな。俺たちは大石の叔父上とはほとんど面識がない」
「俺も叔父には幼い頃に数回会った程度で、あまり記憶に残ってないんだ。父が言うには自分とは正反対の性格で束縛を嫌い自由を好む人だったらしい」
「自由気まま、好き勝手に生きてきたお人がなぜ今になって、ちうとこがポイントかの」
「いずれにしろ、叔父と会って話をしてみればわかるだろう。その上で叔父が王位を継ぎたいのならそれもいいと思う。叔父には継承権があるし」
国を思う人であれば王は誰がなってもいい、そう穏やかに微笑む大石に内心柳は眉を顰める。
よく知らないとはいえ実父の弟ならと警戒しないのは大石らしいといえばらしいが、騒乱の最中には何一つ尽力せず、全てが収まった今になって突然現れて王を名乗る叔父など柳から見れば胡散臭いことこの上ない。
だが、先代の王の弟である叔父は継承権の順位でいえば1位、王の子である大石は2位になるのも事実だ。
「叔父上との会見には同行させてもらおう。かまわないな?」
「ああ、もちろんだ。仁王はどうする?」
「俺も叔父さんに会うてみたいのう。行ってもええ?」
おどけた調子で言う仁王に大石が笑いながら了承する。
一見すると好奇心から叔父の顔を見てみたいだけととれる発言だが、仁王は必要がなければ動かないし他人に好奇心を示すこともまず無い。
それを知っている柳は、仁王も柳と同様、叔父を警戒しているのだろうと推測する。
「英二王子や黒羽たちはどこかの宿にでも留め置いた方がいいだろう。最初からあまり大人数で押し掛けるのは礼儀に反する」
「そうだな、そうしよう」
提案にあっさりと頷いた大石に柳はこっそり安堵する。
英二王子は大石の弱点になりうる。
相手の真意がわからないうちは関わらせないのが無難だ。
「さて、着いたようじゃの。久々の母国の土を踏むとするか」
船が港に入る。
桟橋に迎え出ていた跡部の部下に連れられ、大石と柳、仁王は西国の管理者が常駐している建物に入った。
**
大石たちが話を終えるまで英二たちは町の小さな宿屋で待つことになった。
真新しい宿屋は戦乱で焼けたあと西国の管理の元で建て直されたものだという。
「大きな宿屋はないから他の連中はあちこちの宿屋と民家に分散させた。みんなこの近くだから、用があればすぐに連絡できる」
英二と黒羽を案内してきたのは、東国潜入の一件で協力をしてくれた西国の南だ。
「ありがと、南。南も青の国の管理をしててくれたの?」
「俺は常駐じゃなくて、西国と青の国を行ったり来たりしてたんだけどな。俺の相方がここの管理の責任者をやってるから手伝ってたんだ」
「相方?」
「東方っていう奴で幼馴染なんだ。真面目でいい奴で俺とは気が合う」
なかなか派手な男前だと言う南の台詞に跡部や忍足を思い浮かべた英二だったが、今は東方よりも大石の叔父に興味があった。
「ね、ね、大石の叔父さんって人は?どんな人?大石に似てんの?」
「うん?そうだなぁ・・・似てるといえば目元が少し似てなくもないかな。でも驚いたよ、王宮の修繕工事の監督をしてるところにいきなり現れて、修復を終えている部屋があるならすぐに移り住みたいって言いだして」
「え?いきなりお城に来たの?それもまだ工事中なのに?」
「ああ。で、城は完全に壊されていた訳じゃないし、修復不要な部屋はあるにはあったけど、誰だかわからない奴を城に住まわせられないだろ?そしたら自分は青の国の王だって言い始めてな」
困ったように溜息をついた南の話に英二は目を丸くしっぱなしだった。
大石の叔父というから、今現在の大石に年齢を30歳くらい上乗せした姿を想像していたが、外見はともかく中身は大石の親戚筋とは思えない。
「・・・なんか、すっごい叔父さんだね。それで今はお城に住んでるの?」
「いや、跡部とも相談したんだが、結局は使える部屋が城には無いってことにして、西国との国境に近い離宮に滞在してるよ。離宮って言っても町の宿屋と変わらない規模だけどな」
「そうなんだ。・・・どうなっちゃうんだろ、青の国」
長い航海を終えて、大石たちは国を復興させる為に戻って来た。
他国を廻り、政治について学び、施政を助けてくれそうな元宰相の老人等の人材を集めて、それこそ1から作り直す覚悟で戻って来たのだ。
英二も当然、王になった大石を補佐してできることはしようと思っていた。
それなのに。
「まぁ、話し合いをするって言ってるみたいだし、俺たちはその結果待ちだな」
励ますように南が英二の肩を叩く。
「俺や仁王、柳だって大石の臣だ。もし叔父さんとやらが国を治めるってんなら、俺たちはみんなでまた海にでも出ようぜ」
それまで黙って英二と南のやりとりを聞いていた黒羽が笑う。
「あはは、そだね。そうしよっか」
励まされて英二も笑う。
青の国の王位に関することなら大石と叔父の間で話し合うしかない。
どういう結果になろうと大石がそれでいいというなら英二は大石についていくだけだ。
大石と一生を共にすると決めているのだから。
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