海に咲く夢 3部 15
赤也は西国の城下町を丸井に案内されて歩いていた。
表通りのにぎやかな道を外れ、古くからやっていそうな年季の入った店構えの並ぶ通りを行く。
「あー、なんかそれっぽい雰囲気っすねー」
「職人連中はだいたいこの界隈にまとまって住んでんだ。あとはここから少し南に行った所にある町だな」
丸井の説明にふんふんと頷きながら赤也は歩く。
山岳地帯での調査を終えて、呪術者の島へ戻る前に柳に会いに青の国へ寄り道を決行した赤也は、ちょうど良かったと言わんばかりに柳に次の任務を与えられ西国に送り出されてしまった。
実質、柳と過ごせた時間は30分に満たない。
残念ではあったが赤也に不満はなかった。
こうして仕事を任せてもらえるのはそれだけ柳に信頼されているということだからだ。
歩きながら古めかしい店を覗き込むと、年代物らしき時計が壁といい棚といい、所狭しと並べられている。
他の店も同様で、薄暗い店内は物置かと思うほどの商品が雑多に積まれている。
どの店も客どころか店主の姿も見えない。
「こんなんで売れるんスかね?」
「腕のいい職人たちだからな、オーダーメイドで1品作れば1年食えるって話だぜぃ」
「1年って、マジっすか?すげぇな」
驚きながらも、それなら店が汚かろうが客の姿が見えなかろうが関係ないかと赤也は納得する。
「お前が言ってた細工師ならここだな」
丸井が1件の店の前で立ち止まる。
赤也がガラス窓から中を覗きこむと細かな雑貨や装身具が並んでいるのが見えた。
「どうする?殴り込んで親父を引っ張り出すか?」
「や、とりあえず穏便にって柳さんに言われてるんで、最初は穏便で」
「穏便ねぇ。職人の親父は頑固だぜぃ?そう簡単に受けた仕事の話はしねぇだろぃ」
「そんときゃ力技で行きますって。あんまり時間も無いらしいし、最初の5分くらい穏便にしときゃいいんじゃないっすかね」
「・・・お前、それは意味なくね?ま、いーけどよ」
話が決まり、丸井と目顔で頷きあった赤也は店のドアを開けて中へと踏み込む。
丸井と店の奥に入り、なにやら細かな細工仕事をしている初老の職人を見つけた。
この男が目的の人物かはまだわからないが、とりあえず最初の5分は穏便に話をするつもりで赤也は職人に声をかけた。
**
いつものように英二の宿へ立ち寄った後、伴田の所へ向かう大石に黒羽を同行させて柳は宿に残った。
また例の話だろうとしかめっ面でいる英二が口を開く前に柳の方から話を切り出す。
「仁王の行く先を探してほしいと言っていたな」
「見つかったの!?」
英二の目が驚きと期待で見開かれるのを柳が制した。
「ここから先の話は誰にも他言しないと約束してほしい」
「・・・どういうこと?」
「色々と事情がある」
そう言うと英二は柳をじっと見つめ、約束すると頷いた。
「仁王の居所は最初からわかっていた。だが、今は場所を教えることも会わせることもできない。仁王は極秘任務中だ。これで察して欲しい」
柳の言葉に英二は考えるように宙を睨む。
少しして柳に視線を戻した。
「仁王は無事でいるの?怪我は?」
「元々たいした傷ではなかったようだ。元気にしている」
「・・・そっか。ならいい」
ほっとしたように息を吐いた英二の表情が安堵で緩んだ。
「誰にも他言無用って言ったよね。それって、大石も知らないってこと?黒羽も?」
「そうだ。真相を知っているのは俺と仁王だけになる」
「わかった。オレも誰にも言わない。柳がオレに仁王のこと教えてくれたのは大石と仲直りしてほしいからだよね。すぐ仲直りできるかはわからないけど、あとで大石と話してみる。これでいい?」
「かまわない。できれば早めに元の鞘に収まってほしいところだが」
柳が笑うと英二はほんの少し口をとがらせて、「それは大石次第だもん」とそっぽを向く。
完全に納得した訳ではないようだが、英二の態度はかなり柔らかなものになった。
いくらか状況を改善できたとみていいだろうと柳は思う。
万全を期すなら仁王のことはこの件が終わるまで極秘にしておくべきだったが、仁王を案ずる英二の気持ちも理解できるし、なにより大石との仲直りの障害になっていたのだからやむを得ない。
それに英二は約束を守ることができると柳は信じていた。
**
「不二、ちょっと来てよ」
ノックの音が聞こえるのと同時に幸村が扉を開けて顔を出す。
部屋に入ってくるわけではなく、外から手招きするのを見て不二が座っていた椅子から腰をあげた。
「お帰り、幸村。結界はどうだった?」
「それはもうばっちり。変な所に隠してあったから探すのに少し時間はかかったけどさ。それより不二に見てもらいたいものがあるんだよ」
早く早くと袖を引く幸村に付き合って歩みを速めながら、見てもらいたいものって?と不二は聞く。
自宅の扉を開けて不二を招き入れながら、幸村は机の上に置いた水鏡の前に立った。
「前に汁男が作った機械人形があったろ?西国の忍足が持って帰った」
「ああ、たしか岳人だったよね」
「そう。で、見てもらいたいのはこれなんだけど」
幸村が水鏡に手をかざすと水面にどこかの部屋の様子が映った。
部屋の中では黒髪の青年がなにかの本を読んでいる。
幸村はさらに水鏡を操り、青年の顔がはっきりとわかる角度で手を止めた。
「どう?この顔に見覚えない?汁男の人形じゃないかと思うんだけど」
「・・・ああ、そういえば。いつだったか乾が持ってきた機械人形だね。名前は・・・なんだったかな」
記憶を辿るように考え込む不二に幸村が「観月」、と青年の名を告げた。
「観月?もしかして、柳が調べて欲しいって言ってた、あの観月かい?」
「そう、その観月なんだ。なんで汁男の人形が青の国に、それも大石の叔父上のところにいるんだ?」
「見当もつかないな。とりあえず乾を呼び出そうか」
「そうしよう」
意見の一致した不二と幸村がすぐに行動に移る。
かなり強引な方法で突然呼び出された乾が、観月のことを事細かに根掘り葉掘り質問攻めにされたのはそれから僅か2時間後のことだった。
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