海に咲く夢 3部 2




大石たちは西国から来ている管理責任者の東方と会い、これまでの経緯を聞いた。
叔父が滞在している離宮まで港からは馬車で半日かかる。
時間が遅いこともあり、今日は使い鳥で面会したい旨の手紙を送るに留めて、大石たちは町の宿屋へ引き上げた。
「ここは俺たちだけなのか?」
1人部屋が3つと2人部屋が2つしかない小さな宿を見回して大石が聞く。
「大型の宿屋はまだ建設途中らしい。他の者は小さな宿屋と民家に分散させていると南から報告が来ている」
柳が南の部下から受け取った書面を大石に渡す。
それにはどこに誰が宿泊しているか細かに記載されていた。
「英二はここからすぐの宿だな。少し行ってきてもいいか?」
「ああ、構わない」
柳が頷く。
宿屋に着くまでの道を歩きながら注意深く辺りを探ったが、町を窺ってるような不審な人物は見当たらなかった。
大石の叔父が悪意を持って王を名乗っていると決めつけた訳ではないが、用心に越したことはない。
その為にわざわざ宿泊先さえも他の者とは分けてもらったのだ。
「それじゃ行ってくる。夜には戻るよ」
大石が部屋を出ていく。
それを見送って、「さて、と」 と仁王が口を開いた。
「大筋の打ち合わせをしとくかの」
「そうだな。現状ではどう転ぶか予測不可能だが、最悪の場合も想定しておいた方がいい」
「どっちに転ぶと思っとる?」
「・・・あまり望ましくない方へ」
やっぱり?と仁王が笑う。
「真意がわからないとは言え、楽観視できる状態でもない。問題はその“程度”だ」
「ただ贅沢な暮らしをしたいだけか、それとも権力が欲しいのか、ちうとこか」
「最悪のパターンは、恨み、だ。どういう経緯で国を出たのかまだわからない」
顔を曇らせた柳に、それも無いとは言えんが、と前置いて仁王が寝台にごろりと横になった。
「まぁ、叔父上とやらに会うてみればその辺はわかりそうじゃ。お前さんと俺の役割はいつも通り、それでええ?」
「それが一番自然だな」
柳が頷いたのを確認して仁王は目を閉じる。
昨夜は船で夜間の監視役をやっていたが、すぐに青の国に到着したので仮眠を取る暇がなかった。
やっと寝れる、そう思った時にはすでに仁王は眠りに入っていた。


**


大石が英二の宿泊する宿を訪ねた時、英二はちょうど黒羽と少し早い夕食を取っているところだった。
たくさん買ってきたからと誘われ、相伴にあずかることになった大石を英二が心配そうな顔で覗き込む。
「だいじょーぶ?大石。なんか南の話だと叔父さんってすごい人っぽいけど」
「ははは。まだ会ってないからなんとも言えないけど、大丈夫だよ。ちょっと奔放なところがある人みたいだから、それでみんな驚くんだろう」
「オレも大石のお父さんの弟だし、変な人じゃないと思いたいんだけどさ」
英二が取り分けた料理を大石の前に置く。
それに黒羽が器に移したスープを添えた。
「でもよ、大石。もし叔父さんが王位を継ぐことになったら大石はどうするんだ?」
「国を治めるのに手が必要なら手伝うが、不要だと言われたら町に降りるか、また航海をするか、だろうな。でも、黒羽は兵士として城に残ることもできるぞ?家族は無事だったんだろう?」
「おかげさんでな。でも、うちのやつらは今のところ西国で落ち着いちまってるし、青の国に戻るとしても先の話だろうな。大石が王になるなら城に戻って警備でもなんでもやるけどよ、また航海に出るなら俺はついて行くぜ。海は好きだしな」
「オレも!」
船に乗ってるの楽しいし!と英二が黒羽に同意する。
それを見遣って大石が笑う。
「最初の頃はそれこそ命がけの航海だったが、今思い出してみると楽しかったことばかり浮かんでくるのが不思議だな。いろんな国も見れたし、いろんな人に会った」
「呪術者とか機械博士とか、面白い人がいっぱいいたし!あとは、クリスマス島とかも楽しかった!」
今まで回った島の話を英二と黒羽がするのを大石は笑いながら聞く。
王位を継いだらもう簡単には長期の航海に出ることはできない。
もちろんそれは承知の上で、航海で学んだことを国政に生かせればいいと思って戻って来たが。
「王になるのは俺でも叔父でもいい。青の国の人々が幸せに暮らせるなら」
ひとり言のように呟いた大石の言葉に英二が、それと、と付け加える。
「おーいしが幸せなら、だよ」
「そうだそうだ。大石も俺たちも、みんな幸せなら、なにがどうなろうと万々歳だ!」
な?と豪快に笑う黒羽に大石も笑って頷く。


叔父から歓迎の書簡が届いたのはそれから2日後のことだった。





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