海に咲く夢 3部 22




雨が降り、海が荒れ始めた。
今戻るのは危険だと言う漁師の話を聞き、大石は天候が落ち着くまで獄舎の島に留まることにした。
船が流されないように島に引き上げ、牢獄だった岩山の中で雨宿りをする。
どのみちこの状況では逃げることなどできないが、暴れられても面倒なので赤澤は後ろ手に縛り上げておいた。
観念したのが縄をかけられてる間も赤澤はおとなしかった。
「それじゃ、時間もできたことだし、話を聞こうか。ここに俺たちを連れてきた目的は?」
大石が赤澤の前に腰を下ろす。
その横に英二も座った。
目の前の2人を交互に見ながら赤澤が大きな溜息をついた。
「・・・お前をここに監禁する為だ」
「監禁?」
「ああ。俺たちの国づくりにお前は邪魔になる。だから口出しできないようにしばらくこの島に閉じ込めておこうと思った」
赤澤の告白に大石が眉をしかめた。
「・・・俺が政に参加することに反対だったということか。観月の差し金なのか?」
「いや、観月は関係ない。俺の考えだ」
そんなはずはないと思った大石の耳元で英二が 「こいつが悪の首謀者なの?」 と聞く。
大石はそれに違うと首を振った。
「赤澤は叔父上の護衛をしている。いずれは軍を統括する立場になるとはいえ、直接国の運営に関わる訳でもない」
それでも、と大石は赤澤に問う。
「俺が邪魔だと思った、というのか?」
「そうだ」
大石は真偽のほどを計ろうとじっと赤澤を見るが、その瞳は揺らぐことはなかった。
「もしかしたら叔父さんが邪魔だって言ったの?」
英二が遠慮がちに小声で聞く言葉にも赤澤は首を振る。
大石はそれを聞いて安堵し、そしてそんな自分はどこか甘いのだろうかとも思う。
どう考えてもこの計画は赤澤ひとりで考えたものとは思えなかったが、だからといって叔父が絡んでいるとは思いたくなかった。
幼い頃に数回会っただけでほとんど記憶にも残っていないが、それでも父の弟なのだ。
尊敬する父の、その弟である叔父が悪い人間だとは思いたくない。
「とにかく、海が落ち着いたら戻ろう。叔父や観月を交えてお前の処分について話す。いいな、赤澤」
「・・・ああ、わかってる」
なんらかの処罰を受けるとわかっても赤澤は落ち着いていた。
弁解も言い訳もしない赤澤は、すでに覚悟を決めた者の目をしている。
なぜそうまでして、いったい誰が何の為に自分を政から遠ざけようとしているのか。
考えると気が重くなるが、これも国を守る為に戦うことのひとつなのだと大石は思った。



**



宿に着き、事情を柳が説明すると、すぐに幸村は水鏡で大石の行方を探し始めた。
水鏡を使うところは仁王も初めて見る。
どこにでもある大皿に水を入れただけの代物だったが、幸村が手をかざしてしばらくすると不思議なことに港や海の景色が水に映し出された。
実際にその場に立ち、歩いているようにして景色は移動していく。
降りだした雨のせいで荒れている海をかなりの速度で進み、航行している船や付近にある島をひとつずつ調べていく。
島に着くと視点は人の立ち位置から上空へと切り替わり、島を上から見下ろすように変わった。
「便利なもんじゃのう」
思わず素直な感想を述べると、柳が「静かに」と横目で睨む。
肩を竦めてまた水鏡に視線を戻すと、早くも次の島を探索している。
本来の観月の計画では、大石を船で沖へ連れだし、油断しているところで息の根を止め、重しを付けて海に沈めるというものだった。
だが赤澤が相手ならいくら大石でも完全に油断したりはしないだろうし、そもそも赤澤の腕ではそう簡単に大石を仕留めることはできないだろう。
それならまだ大石は無事でいるはずだ。
「いたよ。大石と赤毛の王子様だ。あと2人。1人は漁師みたいだな」
幸村の声に仁王と柳が食い入るように水鏡を見つめる。
どこかの島の洞窟のような所に4人でいるのが見える。
赤澤は後ろ手で括られていることから計画が失敗したのだとわかる。
「怪我はないようだな。無事でよかった」
柳がほっとしたように息を吐いた。
「そう遠いとこでもなさそうじゃの。どこの島かわかるか?」
「ここだね」
柳が用意していた地図の一点を幸村が指し示す。
「獄舎島だな。すぐに迎えの船を手配する。仁王、お前は、」
「観月と叔父上が逃げんよう押さえておけ、じゃろ?そっちは任せてもらうぜよ。失敗は挽回せんといかんからの」
「大石が戻ったらまっすぐ城へ行く。そろそろ宴は終わりだ」
了解と短く答えて仁王は幸村の宿を出る。
まだ止まない雨の中を最後の仕上げの為に城に向かって走った。



**



なぜ、どうしてこんなことに。
観月の頭にあるのはそれだけだった。
事の始まりは秀一郎王子の申し出だったが、それだけならこんな切迫した状況にはならなかったはずだ。
今になって冷静に考えれば王子を暗殺する必要などなかった。
政権に参加させたところでその意見を全て通す必要など無い。
適当にあしらってしまうことだってできたはずだ。
それなのに。
混乱した頭で観月は考え続ける。
後悔したところでもう遅い、赤澤はすでに王子の元へ向かっている。
赤澤が計画を成功させる、もう望みはそれしかない。
だが、計画の実行者が仁王から赤澤に替わるだけで成功の可能性は極端に低くなる。
もし赤澤が失敗し、計画が露見するようなことになれば全て終わりだ。
なぜ、こんなことに。
観月は頭を抱える。
計画の成功に一縷の望みを持つ傍ら、それが叶う事はないだろうというのも容易く予測できた。
数日前までは確かに青の国の宰相として光り輝く栄光の道が見えていた。
それがいつの間にか、逃れようのない破滅へ向かう道にシナリオがすり替わっていたことに、今初めて観月は気づいた。






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