海に咲く夢 3部 23




まだ雨は降り続いていたが、幾度も嵐を切り抜けてきた大石の船はこの程度の海の荒れなどものともせず獄舎の島に着いた。
柳と黒羽が島に降り立ち、大石と英二、そして捕らわれの身となった赤澤を船に乗せる。
漁師は海が静まってから自分の船で戻ることになり、大石の船は獄舎の島を後にした。
「よくここだとわかったな」
「精市に探してもらった」
「幸村に?」
柳は頷き、呪術者の島から乾を連れて青の国に来ている幸村のことを説明した。
併せて観月の正体についても大石に話す。
「機械人形って、まさか。観月には何度か会ったがどこから見ても人間だったぞ?」
「俺はもう1人、機械人形を知っている。誰かは言えないが、大石も会ったことがある。そちらも人間にしか見えないし、事情を知る者以外はみな人間だと思っているだろう」
柳の言葉に大石は今まで会ったことのある人間を思い浮かべたが、特に挙動がおかしかったり見た目が異様だったりした者は浮かばなかった。
だが柳が嘘をつくとは思えない。
幸村がわざわざ機械島の乾を連れてきていることを考えても真実なのだろう。
「・・・本当なのか。それじゃ観月は叔父を騙して取り入ったということか?」
「それについてなんだが、実は大石に報告しなくてはならないことがある」
そう前置きをして柳は仁王と共に叔父のことを探っていたことを告げた。
国を思えば柳の行為は当然だと理解する大石は黙って報告を聞いていたが、叔父が偽者である可能性のくだりで驚き、思わず口を挟んだ。
「待ってくれ、柳。叔父上が偽者だっていうのはどういうことだ?」
「まずはこれを見て欲しい」
柳は懐から一枚の紙を取り出した。
仁王が城の書庫で見つけ出し、破り取って柳に渡してきた記録書の1ページだ。
「・・・これは、祖父だ。この子供が父と叔父」
肖像画を見た大石に柳は頷く。
「叔父上の青の石を見てくれ。肖像画ではタイを留めるブローチだが、俺が先ほど会った時には大石のようにピアスとして身に着けていた」
「ブローチを作り直したってことはないのか」
「それについては子供の頃からピアスをしていたと仁王が証言を取っている。あともうひとつの証言もそろそろ戻ってくる頃だ」
「・・・叔父が偽者」
呻くように呟いた大石がはっとして顔を上げる。
「それなら本物の叔父は?」
「これは推測でしかないが、山岳地帯で医療を行っていた医師は2人いたらしい。1人は流行病ですでに亡くなっている」
「亡くなったのが叔父だと?」
「これはさらに推測になるが、叔父上を名乗るあの男は青の国についてかなりの予備知識があった。友人であった本物の叔父上から話を聞かされていたと考えれば合点がいく」
「そういうことか・・・」
腕を組み、難しい顔で考え込んだ大石に、柳が「いずれにしても」と口を開く。
「戻ったら城へ向かおう。大石の話を聞くだけでも今回の件は赤澤がひとりで計画したとは到底思えない。それなら観月か叔父上が絡んでいるのは間違いないだろう。真相を糺さなくては」
「そうだな。そうしよう。・・・柳、世話をかけてすまない」
頭を下げた大石に柳が微笑む。
「これが俺たちの仕事だからな」



**



戻ってきた仁王の報告を観月は判決を言い渡される罪人の気分で聞いていた。
「・・・それで、捕らわれた赤澤は?」
「さて、どうしたかのう。まぁ、捕まったからには柳に尋問されて、洗いざらい吐かされとるのは間違いなかろ」
「そうですか。ではもう計画の発案者が僕であることは知られていますね。・・・もうすぐ秀一郎王子が乗り込んでくるでしょう」
観月は力無く手近な椅子に腰を下ろす。
半ば諦めと喪失の表情でいる観月は仁王にとって意外だった。
てっきり叔父を名乗るあの男を連れて逃げる算段でも始めるかと思っていたのだ。
「ぼーっと座っとってええんか?逃げんの?」
「・・・赤澤を置いて行けないでしょう。僕はここに残ります。元は僕が言いだした計画ですから」
溜息をついた観月は頭痛をやり過ごすようにこめかみを揉む。
赤澤を犠牲にして、自分ひとりが助かればそれでいいというほど観月は性悪でもないようだ。
仁王はふっと笑みを浮かべた。
「潔いのう。・・・なぁ、俺と取引せん?お前さんが秘密を話してくれたら、赤澤と逃げられるよう手助けをしちゃるけど」
「・・・秘密?なんのことですか?」
「大石の叔父上。あれ、本当は何者なん?」
「・・・・・・!!」
弾かれたように椅子から立ち上がった観月が驚愕した表情で仁王を凝視する。
「仁王くん、・・・あなたは、」
「あの男には別に義理もなかろ?」
仁王が自分の味方ではないことをようやく悟った観月の顔が怒りに歪む。
だが、笑みを浮かべたまま自分の出方を窺っている様子の仁王に、これ以上は踊らされるまいと観月は大きく息を吐き顔を背けた。
「・・・秘密などというものは何もありません」
「それじゃ仕方ないのう」
仁王はわざと観月の前を横切るようにして部屋の中を移動し、扉を背にして立つ。
もう逃げられないというプレッシャーをかけるのが目的だったが、観月は仁王の方を一度も見ようとはしなかった。



**



船が港に着く。
大石たちが港に着くとそこには幸村と乾、そして赤也と丸井と初老の男が待っていた。
「こっちも準備は万端だよ」
幸村が言い、その横で赤也が得意げにVサインを出している。
柳はそれに頷いて大石を促す。
「役者はそろった。では行こうか」
「そうだな。決着をつけよう」
大石を先頭にして全員が城に向かう。
すべてを明らかにして国を正しい者に継承させる為に。






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