海に咲く夢 3部 6
英二は黒羽と一緒に青の国の町中を見て回っていた。
破損が酷くない家屋は継ぎ板をあてたり補強の柱を取りつけたりしているが、完全に破壊されたり補修が不可能な家屋は新たに建て直しをしている。
通りかかった道のすぐ脇でも、石や木、鉄等を使って数人の大工が組み立て作業をしている最中だった。
東国との国境から城下町の辺りが一番被害が酷く、次に被害が大きかったのは鉱山だと黒羽は言う。
「なんで町から離れてる鉱山に被害があったの?」
「鉱山からは青の石が産出される。石目当てに鉱山に入った東国兵が、その近辺に住む鉱夫たちと揉めたんだろうな。青の石は青の国を支える重要な産業だ。侵略者たちに好き勝手されまいと抵抗したんだろ」
「そうだったんだ・・・」
英二は周りで忙しく立ち働く人々を見る。
まだ人の数はそう多くはないが、町を、そして国を、自分たちの手で復興させようと働く姿には力強さが感じられた。
戦禍から逃れて西国や他の地に住んでいた人達も、少しずつ戻って来ているという。
そう遠くない未来にまた活気のある平和な町になっていくのだろう。
大石が王になる日には、幼い頃の記憶にあるような青の国になっているんだろうか。
そういえば、と思い出したように英二が黒羽を仰ぎ見る。
「叔父さんが王様になるんだったら、手伝ってもらう為に連れてきたお爺ちゃんの仕事がなくなっちゃうよね。どうすんの?」
青の国に戻る前、あちこちを航海で巡っている間に、北の大国で宰相をしていた老人に出会った。
政に関しての経験に基づく博識さに感銘を受けた大石と柳は、国に滞在している間老人の元に通い詰め教えを請うた。
だが膨大な知識は当然のごとく一朝一夕で伝授できるものでもない。
大石と柳は、すでに隠居してのんびりと暮していた老人に、国の運営の相談役をしてほしいと持ちかけ、老人はそれを承諾した。
「うーん、せっかく協力を申し出てくれた爺さんだが、あの歳じゃ大石が王になる頃はもうあの世の住人だろうなぁ・・・。まぁ、大石がいいようにするだろ」
王になる前の準備期間中に勉強しててもいいんだし、と黒羽が言う。
「そだね。・・・あのさぁ、黒羽。オレ、今ちょっと疑問に思ったんだけど、ちゃんと王様になる為の勉強をしてた大石と、宰相の勉強をしていた柳でも、経験者のお爺ちゃんを相談役に呼ぼうと思うくらい国を治めるのって大変なんだよね?」
「そりゃそうだ。民草を抱えるんだからな」
「叔父さんは大石が子供の頃に国を出て、それからずっとお医者さんをしてたんじゃん?それなのに王様の仕事ができんのかなぁ・・・」
英二の素朴な疑問に黒羽が虚を突かれたように立ち止った。
「黒羽?」
「・・・そう言われてみりゃその通りだ。兄貴が王になることは最初から決まってたろうし、それなら政についてはそれほど詳しくないかもな。でもよ、自分でやるって言ってるくらいだし、なんかあるんじゃねぇか?」
「なんか、って?」
「俺には難しいことはわからねぇって。聞くな」
「むー」
英二は眉を寄せて考え込む。
大石が信頼してるくらいだから人物としては尊敬できる人だろう。
だからといって国を治めることができるのだろうか。
**
報告の為に戻る東方と一緒に柳と大石は西国の城へ来ていた。
柳は、大石と東方が青の国の再建状態について話している部屋から抜け出して、跡部が用意してくれた別室で待った。
いずれ協力を願うかもしれない跡部には現状を隠さずに伝えておきたい。
来月の戴冠式の準備で息をつく暇もないはずの跡部だったが、それでも時間を捻出して柳の待つ部屋へ現れた。
「忙しいのに済まないな」
「なに、これくらいどうってことはねぇ、と言いたいところだが、時間が無いのだけは事実だな。で、あの叔父とやらはどうした」
「書簡でも書いたとおり大石は叔父上が青の王となることを認めた。今は俺と仁王で叔父上の身辺調査をしているといったところだ」
「身辺調査、か。まだ白黒がつかない訳だな」
そういうことだ、と柳は頷く。
前日、叔父との2度目の会合をしてきた。
この間はいなかった、何かと叔父を補佐しているという観月と名乗る青年とも会った。
叔父が即位すれば宰相の位に就くという観月も得体の知れない男だった。
出自は呪術者の島に近い小さな村のある小島、叔父と会ったのは僅か数ヶ月前のことだという。
「それにしても大石はずいぶんあっさり譲ったもんだ。命懸けで取り戻した祖国だってのにな」
「・・・これは推測でしかないが、たぶん大石は先の戦で青の国が一度滅んだことに責任を感じているのだと思う。だから自分が誰よりも王としてふさわしいという自信も、あくまで自分が王として起つという気概もない。より適している者が治めるのが一番いいと思っている」
「フン・・・大石らしいと言えばらしいがな。さて、時間だ。また何か進捗があったら連絡してくれ。それと、手が必要ならいつでも言え。青の国の事は乗りかかった船だからな、俺にできることならいくらでも助力してやるよ」
「恩にきる」
慌ただしく部屋を出ていった跡部を見送って柳も部屋を出る。
西国の協力は取り付けた。
次は宿に戻ってから幸村に宛てて手紙を書き、叔父と併せて観月のことも調べてもらう。
それから仁王を捕まえて調査の進み具合を確認。
頭の中で段取りを立てながら柳は大石と東方のいる部屋へと戻った。
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