海に咲く夢 12
船は寄航予定の島に向けて進んでいる。
襲撃を警戒して普段使用している見張り台の他、甲板の前後にも見張りを立たせている。
見張り達はそれぞれの受け持ち範囲から目を離すことなく海を監視する。
そしてそれ以外の者達の視線はみな、甲板の中央部分で行われている剣の試合に釘付けられていた。
わっと歓声が上がる。
試合を行っていたのは英二と黒羽、そしてたった今、英二の勝利で決着がついたところだった。
「次、誰だっけ?」
流れる汗を袖で拭って見学している周りを見回す英二の呼吸が少し速い。
黒羽との試合はかなり激しいものだったが、息が上がっているのはそのせいだけじゃなかった。
今日行われている試合は勝ち抜き戦、勝った者はそのまま次の試合を継続する。
英二は黒羽を破って4人勝ち抜いたところだった。
「次は俺だ。手合わせ願おう」
「あ、柳か。よーし、勝つぞー!」
「俺の記憶では王子は俺と戦って、5戦全敗しているな」
「だーいーじょーぶ、オレ、今日すっごく調子いいんだもんねー」
「ふむ。それは楽しみだ。だが、試合を行う前に王子は少し休憩を取ったほうがいいようだ」
「んーん、休憩はいらない。勢いがついてるから、このまんま行く」
「・・・そうか。いいだろう」
輪の中心で柳と英二が向き合う。
ざわめいていた見物人達がシンと静まった。
英二は柳との間合いを慎重に測る。
これまで5戦行った経験から、柳は勢いとか速さだけでは攻められないことを学んでいた。
一歩足を踏み出すと同時に剣を突き出す。それを柳がまるで予測していたかのように受け流した。
さらに2度3度と突いてその後にフェイントを入れるが柳は引っ掛からない。
英二はフェイントの直後にさらにフェイントをかけ、その後で剣の速度を変えた。
勢いのある剣と左右に踏み込むステップ、そこへフェイントも絡めて一気に攻める。
島に立ち寄った際の細かな事柄を話しながら歩いていた大石と仁王が2人の試合に足を止めた。
「ああちょこまかと動かれると、攻めるにも守るにもやりづらいのぅ」
「おまけに英二の剣は速いしな」
「まだ様子見しとるようじゃが、さて。柳はどうでるか」
疲れが出て、一瞬動きの鈍った英二の隙を柳は見逃さない。
懐に踏み込むようにして、英二の利き腕である右腕を狙い定めて剣を突き出す。
半拍分反応の遅れた英二が後に引くが、柳の踏み込みの方が速い。
追い立てられるように後退した英二は、体勢を立て直そうと左へ体を投げるように飛び、床に手をついて側転しようとした、が。
「危ない!」
「え?」
「うわっ!」
輪の中心からかなり後退していた英二は、すでに側転できるだけのスペースが無いことに気づかなかった。
見物していた数名と飛び込んだ英二が縺れて倒れこむ。
「英二!」
大石が駆け寄る。
「いってってて・・・」
一緒に倒れこんだ見物人に起こされた英二が、左手首を押さえて顔をしかめた。
柳がその手首を取って様子を確かめるのを大石が見守る。
「怪我をしたのか?」
「軽い捻挫というところだな。骨には異常無い」
「うぇー、捻挫・・・」
「湿布をしたほうがいいな」
大石が英二を連れて輪を出る。
輪の外には救護担当から薬箱を渡してもらった仁王がひらひらと手招きしていた。
左手首に巻かれた包帯を見て、英二は溜息をついた。
利き腕ではないから日常の生活に困ることはなさそうだが、今度の戦闘に参加するという野望は果たせなくなってしまった。
予定では、大石の目の前で柳に勝って見せて、充分戦力になると思わせたかった。
次の戦闘への参加は無理でも、前よりずっと腕も上がっているという自負はあるし、いずれは一緒に戦えるんだとアピールしたかったのだけれど。
「はぁ・・・。あれじゃダメダメじゃん。カッコ悪すぎ」
複数との乱戦となれば、周囲への注意は必須となる。
船上での試合の、観客を巻き込んでの転倒なんて、自ら不合格と言っているようなものだ。
こんなことでは。
「こんなんじゃ、大石を守ってやるー、なんて、言えないよなぁ・・・」
「そうか、それで張り切ってたのか」
「え、ええっ!?」
見張りが甲板の最後尾を守っている為、今日はそこから少し外れたところで釣りをしていた英二は、突然降ってきた大石の声に驚いて釣竿を投げてしまった。
大石は英二の背後から腕を伸ばして、その釣竿をひょいっとキャッチする。
みっともない負けを見られた後で、言うつもりのなかった告白まで聞かれて、英二はむぅっと口を尖らせた。
「・・・いるならいるって言ってよ。黙ってるなんて性格悪い」
「ごめん。なんか考え込んでるみたいだったから、声をかけそびれた」
悪びれない大石はそのまま英二の隣に座る。
英二も聞かれてしまったものはしょうがないと諦めて開き直った。
「気持ちだけで充分だと言っても、英二は嬉しくないんだろうな」
「・・・うん」
「それじゃ、今度の島への買出しが終わってからになるが、柳の特訓を受けてみるか?」
「柳の特訓?」
「英二は身が軽いからそれを活かして、体術を合わせ技に使った剣術を学ぶといいと言ってた」
ただ体勢を立て直したり剣をかわす為だけではなく、攻撃をもできる体術を身につければ、王子はもっと強くなれる。
柳がそう言っていたと大石は話す。
「俺としては、やっぱり英二に実戦はさせたくないんだけどな」
「守ってやるっていうのはちょっと言いすぎかもしれないけど、オレは大石の力になりたい」
「そうだな、英二は前からそう言っててくれたもんな」
「うん。だからオレ、柳の特訓を受ける」
釣り上げた魚がバケツの中でぴちゃんと跳ねた。
遠くの海を見ていた大石の視線がゆっくりと英二に戻る。
「わかった。柳に言っておこう。捻挫が治ってからだぞ」
「ん。これじゃ体術は無理だもんね」
「英二。・・・ありがとうな」
大石が、例え意にそぐわないことであったとしても、戦うことを認めた。
それは、自分の想いがちゃんと大石に伝わったからということで、それが英二には嬉しかった。
がんばるからね、と言って笑う英二に大石が頷いて笑い返す。
船は青い海を静かに進む。
そろそろ日が暮れようとしていた。
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