海に咲く夢 13
見張り台でこれから立ち寄る島を注視していた黒羽が、双眼鏡を外して眉を寄せた。
島は双眼鏡でやっと小さく見えるくらいだったが、その島にどうやら大型船のような影が見える。
「大石、ちょっと来てくれ!」
黒羽の呼びかけに、マスト近くで話をしていた大石と柳、そして仁王が顔を上げる。
「どうした、黒羽」
「島に船が泊まってる。ありゃ結構でかい船だぞ」
見張り台に上った大石に黒羽が双眼鏡を手渡す。
受け取った大石が島のある方向を見ると、確かに島影に停泊する船が見えた。
「もうちょっと近くならないと敵かどうかわからねぇが、どうする大石」
「・・・今から進路を変えて別の島を探すのはきついな。柳の意見を聞こう。黒羽はこのまま見張りを続けてくれ」
「おっしゃ、了解」
上での話が聞こえていた柳は、すぐにいくつかの考えをまとめ回答を出した。
大石が見張り台から降りるのを待って口を開く。
「俺達はここしばらく一般航路に出ていない。故に、あの島を特定して敵が待ち伏せている確率は低い」
「心配せんでも、どうせ、たまたま立ち寄った船じゃろ」
「それも考えにくい。ここはどの航路からも遠く外れている。大石、船の大きさはどのくらいだ?」
「俺達の船くらいだな」
「では島に物資を届けに来ている船という可能性もあるな」
「敵じゃないならこのまま島へ向けるが、それで問題ないか?」
「うむ。ただし用心は怠らないことだ。もう少し近づけば船の正体もはっきりするだろう」
結論が出た3人はそれぞれ次の行動に移る。
柳は念のため他の船員達に伝達、仁王は見張り台に登って黒羽と共に監視、大石は渡された報告書に目を通す為いったん船室に戻った。
籠いっぱいの洗い上げた洗濯物を持って英二は甲板に出る。洗濯は日替わりで当番制になっていて、最近英二もその当番に組み込まれた。
慣れない作業にずいぶんと時間を取られたが、どうにかやりとげて後は干すだけだ。
干し紐が張られているマストへと足を向けた英二は、違和感を感じてその足を止めた。
船が停止している。
なにがあったのかと辺りを見回せば、大石や柳、仁王や黒羽、そして他の船員達までもがマスト付近に溜まって、なにやら話し込んでいるのが見えた。
「ね、なんかあったの?船、止まってるけど」
籠を下に置いて話の輪を覗き込む。
振り返った大石が困惑したような表情で前方を指差した。
寄航予定の島が、もう肉眼で見えるほどに近づいている。
「あの船?もしかして待ち伏せてるの?」
「待ち伏せと言えるかどうかはまだ不明だ。ただ、あれは東国の船ではない」
「西国の国旗が揚げられてるんだ」
大石が貸してくれた双眼鏡で船を見れば、マストの一番上に黒の旗が翻っていた。
風に煽られた旗が一瞬だけその紋章を現す。
大きく翼を広げた金の鷹。
確かに西国の紋章だ。だが現国王の国旗とは色が違う。
「今の西国って紫の旗じゃなかったっけ?あれ、黒っぽいよ?」
「西国は代で国旗の色が変わる。現王は蒼紫、先代王は真紅という具合にな」
柳の説明に英二がぎょっとする。
「え!?もしかして、西国の王様が・・・」
「いや、そういう情報は来ていないから心配は無用だ。これはあくまで推測だが、俺はあの船に乗っているのは西国の王子だと思う」
「なーんだ、びっくりしたぁ・・・。でも、西国の王子がどうしてこんなとこにいるの?」
「それを今、検討していたところだ」
休戦中とはいえ西国は警戒態勢を取っているはずで、それなら遊びに来ているとは考えられない。
かといって、停泊している島は特徴もなく、王子自ら出向くほどの物があるとも思えない。
これが西国の船でなければ特に問題にはならず、大石達の頭を悩ませる必要もなかったのだが。
「ここでただ話し合っても埒はあかない。進めるか引き返すか、それを決めよう」
大石の言葉に全員が頷く。
「青の国が協定違反をしたという発表を西国の王子が信じていれば、俺達を敵とみなして攻撃してくる可能性はある」
だが、と大石は続ける。
「俺はこれをチャンスと考えたい。ここで西国の船に会ったのも何かの縁だと思うしな」
「俺もその意見に賛成だ」
柳が同意し、他の者も再び頷く。
「それじゃ、このまま船を進める。異論はないか?」
大石の決定に船員達がおーっ!と右腕を掲げた。
即座に散った船員達は船を出航させるために持ち場に戻る。
場に残ったのは英二と大石、そして柳の3人だけとなった。
「ね、大石。西国ってたしか、王子が何人かいたと思うんだけど」
「ああ、嫡子庶子と合わせて4人いるよ」
「あの船に乗ってるのって、そのうちの誰かってことだよね。誰が乗ってるかで結果が変わってこない?」
「人数は不明だが、嫡子である景吾王子は乗っているだろうな。国旗の色を変えられるのは彼だけだ」
「現王存命中に旗の色を変えるなどという暴挙に出るのも景吾王子だけだろう」
柳の補足に英二が顔をしかめた。
「それって、暴君ってコト?」
「いや、そんなことはないよ。頭が切れて行動力もあり、国民の信頼も厚いと聞いてる」
「ただ、少々自信家でナルシストという性質も併せ持つ、というだけだ」
「なんかよくわかんない・・・」
腕組みをして考え込んだ英二に大石が笑う。
「大丈夫だ、英二。俺達はなにも悪いことはしてないからな」
「そういうことだ。ところで、なにか仕事をしている途中ではないのか?」
「あ!洗濯物、干さなきゃ!!」
置きっ放しにしていた籠に慌てて駈け寄り、英二は仕事を再開させる。
頭が良くて、自信家で、ナルシストで、とんでもないことしでかしても国民の信頼を勝ち取れる王子って、いったいどんな人なんだろう?
干し紐に洗濯物をピンで止めながらも、英二の頭は西国の王子への興味でいっぱいになっていた。
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