海に咲く夢 21




敵味方の矢が飛び交う中、滑り込むようにして船は目的のポイントに入った。
切り立った崖が三日月のように深くえぐれた島は、背後からの敵の攻撃を防いでくれる。
船を崖に沿うように止めると、大石達は正面の敵を見据えるように構えた。
正面に一艘の大型船、そして右側に小型の高速艇が並び、残り二艘はその後で停止している。
現在は距離があるので互いに弓での攻撃がメインになっているが、板や盾を持ち出している為にほとんど効果は無い。

「敵の船がもう少し近づいたら順に向こうへ乗り込むぞ」
「半数が敵船に乗り込んだら、弓は捨てて残りも移れ。戦力を分散させるな」

緊迫する船上で鋭い指令が飛び交う。
そんな中にあっても普段と変わらず、平然としている仁王を柳が呼び止めた。

「仁王、あちらの小型船を一艘まかせられるか?さほど人数はいないようだが」
「お前さんは人使いが荒いのぅ」
「悪いが人手不足なのでな。片付き次第、俺達も合流して大型船を攻める。いいな?」
「はいはい」

仁王は指示通りに小型の高速艇がいる方へ移動する。
正面に並んだ二艘の敵船はじりじりと接近しつつあった。
甲板に並べられた矢避けの板の裏を歩き、高速艇の正面にあたる部分に着くと、戦闘準備を終えた大石と英二が話をしているのが見えた。

「おー、勇ましい顔しとるのぅ、王子」
「もち!気合充分だもんね!」
「ほぅ、緊張はしとらんようじゃな。感心感心」

子供にするようにからかって頭を撫でた仁王に、英二が頭を抑えて文句を言う。
思ったとおりのリアクションを返してくる英二が面白くて、ついちょっかいをかけて遊んでしまう仁王の肩を大石が叩いた。
「そのくらいにしておいてくれ。騒ぎすぎると英二がバテる。それから、仁王なら大丈夫だと思うが油断だけはするなよ」
「まかせときんしゃい」

なんのことだろうと、首をかしげる英二の横で、仁王が盾代わりにしていた板を僅かにずらした。
大型の敵船にはまだ少し距離があるが、小型船はもう目の前まで迫ってきている。

「それじゃ、行ってくるぜよ」

背中を向けたまま一言発して、仁王が小型船へひらりと乗り移った。
驚いた英二が周りを見回すが、誰も後に続く者がいない。

「おーいしっ!仁王が1人で行っちゃったよ!?どーすんの!?」
「大丈夫だ、英二。ほら」

大石が敵船を指差す。
小型船の甲板は侵入者に気づいた者達が排除しようと総動員してごった返している。
ざっと数えてもその数30はいそうだった。
その人の群れの一角が崩れる。
ばたばたと倒れていく群れの中心に、仁王が頭に巻いていた薄紫の布が見え隠れした。

「うそっ、マジで?もしかして1人で全部やっつけちゃうの?」
「仁王が1番実力を発揮できるのは、周りに味方がいない時なんだ」

王家を守る為に影で暗躍する暗殺者の家に生まれた仁王は、幼い頃から数多の暗殺術を叩き込まれて育った。
全身に武器を仕込み、対峙した瞬間には相手を死に至らしめる。
それゆえ敵味方の判断を下し、尚且つ窮地に陥ってる味方のフォローに回る通常の戦闘では、その実力の半分も出せていなかった。

英二は不思議な光景に魅入る。
薄紫の蝶がひらひらと舞った後には甲板に赤い花が咲く。
次々と倒れ臥していく敵を見ながら、英二はそんなふうに思った。
蝶が通り過ぎた後に立っていられる者はいない。
まさに死を運ぶ蝶だ。それなのに、ひらひらと舞う姿は美しく優雅でさえあった。

「・・・なんか、凄いね。仁王が味方でよかった。あんなの敵にいたら、オレ太刀打ちできないよ」
「そうだな。さぁ、そろそろ俺達も出番だ。英二は弓部隊と一緒に後から来るんだぞ。俺ができるだけ後方にいるから、船を移ってきたら必ず傍へ来いよ」
「了解!がんばろうね」
「ああ。くれぐれも用心を怠るなよ」
「わかってるって」

顔を見合わせて拳をぶつけ合う。
大石は少しだけ口元に笑みを浮かべたが、すぐにきりりと引き締めた。
仁王が1人で戦ってる小型船の敵はもういくらも残っていない。
苦境に陥っている小型船へ大型船から敵が援護しようと移動するのが見えた。

「行くぞ!第一部隊、続け!!」

号令をかけた大石が小型船に飛び移る。
それを合図に船員達は続々と船に移った。
小型船に残った敵を片付けて、場所を敵の大型船へと移す。
さらに敵船へ乗り込む者たちを援護していた弓部隊も後へと続いた。

遅れずに敵船へ乗り込もうとした英二は、後から腕を引かれて振り返る。

「初めて戦うんだから、一人じゃ危ないC〜。一緒に行こ〜」
「うん!ありがと!」

にっこり笑った慈郎と一緒に英二が敵船に飛び移る。
小型船の甲板を走りぬけ、すでに壮絶な戦闘が始まっている大型船へと急いだ。




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