夏を涼しく




午前中の部活が終わった後に大石が遊びに来た。
特製シャリシャリかき氷を作って大石と一緒に食べて、ほんのすこーしだけ涼しくなったのもつかの間。

暑い。どうしようもなく暑い。

大石とオレとを交互に涼しくしてやろうと、がんばって首を振ってる扇風機の努力は認める。でも。

風が生ぬるい・・・。

隣に座っている大石を見れば、その額にも汗が浮かんでいる。
大石の部屋はクーラーがあるもんな〜。やっぱ大石の家に行くべきだったかなぁ。
・・・ああ、暑い。なんとかして涼しくなりたい。
カキ氷は食べちゃったし、水風呂は上がった後がまた暑くなるし・・・。
あ、そうだ!いいこと思いついたぞ。

「な、大石。夏といえばさ・・・」
「そういえばもうすぐお祭りがあるな」
「や、そーじゃなくて」
「お祭り行かないのか?」
「行くよ!行くに決まってんじゃん!!・・・って、じゃなくて!」
「ああ、花火か。明後日だろ?一緒に行こうな」
「うん!・・・や、だからさ、オレの話聞いてよ・・・」
「ん?」

素直に聞く体勢に入っている大石に脱力しかけた体を立て直す。
お祭りも花火もかかせないけど、やっぱり夏といえば怪談だ。
昨日にいちゃんに聞かされたとっておきのこわーい話を大石に聞かせてやる。
もう、一発で涼しくなること間違いなし!
大石のびびった顔なんてめったに拝めないぞ・・・。うひひ。

「今からオレがすっごーい怖い話してやる!涼しくなるぞぉぉ〜」
「怪談かぁ。俺はあんまり幽霊とか信じないんだけど」
「いーから!絶対怖いから!」
「わかったわかった。聞くよ」

大石のやつ、余裕で笑ってる。今にみてろよ。そーやって笑ってられるのもいまのうちだけなんだからな。
えーっと、小道具の人形は・・・。人形なんかないなぁ。あ、大五郎でいいや。
オレは大五郎をひっぱり寄せると真面目な顔を作って重々しく話し始める。

「実はこの大五郎は呪われたぬいぐるみなんだ・・・」
「ぷっ」
「笑うなーっ!ここは笑うとこじゃないの!」
「ごめん、もう笑わないから」
「ったくもう・・・。んじゃ続けるよ」

笑いをこらえてる大石を軽く睨みつけて怪談の続きを話す。
細かいトコをはぶくと、話はこんなカンジだ。

『大五郎はオレが生まれた時に遠い親戚のおじさんがくれたんだけど、最初は赤ん坊のオレと同じくらいの大きさだった。
ところがオレが成長すると同時に大五郎も成長し始めたんだ。
気味が悪くなったとうちゃんが大五郎を捨てにいったんだけど、どこへ捨てても必ず帰ってきちゃうんだ・・・』

話し終えたオレは青ざめて恐怖に震えてるはずの大石を・・・・あれれ?
なんかいつもと変わりがないみたいなんだけど。
それどころか呪いの大五郎の頭をなでたりしてるぞ?

「大五郎の大きさは幼稚園の子供くらいだよな。途中で成長が止まっちゃったのか?」
「え?えーと・・・捨てられちゃまずいって思って大きくなるのやめたんだよ」
「必ず帰ってくるなんて帰巣本能があるみたいだな」
「そりゃ、熊だし・・・そのくらい」
「きっと英二のことが大好きで離れたくなかったんだよ」
「えへへ。オレも大五郎好きだもんねー。って、ちょっとちがーう!」
「なにが?」
「これは怪談なんだってば!怖い話なの!!」
「そうか?」

大石は不思議そうに首をかしげてる。
おかしい。昨日は確かに怖い話だったんだ。
マジで怖くて夜中にトイレに行けなかったらどうしようかと思ったくらいだ。
元々の話は女の子と日本人形だったけど、そこをオレと大五郎に変えただけで、あとは聞いたとおりに話したのに。
ん?待てよ、そこが間違いだったか・・・?

オレは小道具として話に参加させていた大五郎をしげしげと見つめる。
つぶらな黒い瞳、茶色でほわほわの体。
・・・だめだ、全然怖くない。
それどころか大五郎がよちよち歩いてうちに帰ってくる姿は可愛いとすら言えるかも。
とりかえしのつかない失敗に気づいても時すでに遅し。
なのに、大石はさらなる追い討ちをかけてくる。

「やっぱり、どう考えても怪談っていうよりは、英二と大五郎の心温まる話ってかんじだけど」
「温まっちゃだめじゃん・・・暑いんだから」
大石を怖がらせることが出来なくてガックリうなだれているオレを見て、大石は勘違いしたらしい。
「それじゃ俺が怖い話をしてあげるよ。前にクラスのやつから聞いたんだけど・・・」

そして始まった大石の話は、同じクラスのやつが体験した実話ってやつで、怖いとか怖くないとかそんな生易しいもんじゃなかった。
マジで泣くかと思った。ヤバすぎる。
話を聞いてる途中で思わずぎゅーっと大石の腕をつかんじゃって笑われたけど、そんなことにかまってらんなかった。
昨日のにいちゃんの話なんかめじゃない。

「涼しくなった?」
「・・・大石、今日は泊まり決定」
「そんなに怖かったかな・・・」
「今日にいちゃんいなくて、オレ部屋で1人なんだから責任取れ」

わかったよ、って笑って家に電話してる大石の腕から、オレはまだ手を離せないでいる。
こんなはずじゃなかった。
こうやって怖がってるのは大石のはずだったのに。
悔しまぎれに敗因となった大五郎の頭をぽかっと叩く。

『イタイヨ』

・・・しゃ・・・喋った?大五郎が?
突如聞こえた大五郎の抗議にびっくりしたオレが大石に飛びつくと、大石が堪えきれないように吹き出す。
もちろん大石には怒りの鉄拳を食らわせたけれども。
もう怪談はコリゴリだ・・・。




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