TRUST 1

[!!CAUTION!!]
この話は暴力・残酷・死ネタを含みます。 苦手な人は読まないよう注意してください。




15の時、母が亡くなった。まだ若かったが病に侵され、わずか数日で帰らぬ人となった。
弦一郎は母が倒れてから城の中の礼拝堂で一睡もせず祈り続けた。
母は助かるはずだった。
近隣に並ぶものの無い宗教大国の皇后であり、国の内外で慈愛の母として愛されていた人だ。
朝晩の祈りは何があっても欠かすことがないほど信心深く、誰に対しても優しく慈悲深かった。
決して病の苦しみにのたうち回って死ぬような人ではなかったはずだ。
母の死の知らせを受け、信じられない思いで礼拝堂から駆け付けた弦一郎は、ひきつり面変わりした母を見て愕然とした。
優しく包むような眼差しも、常に微笑みを湛えていた唇もそこにはない。
母の死に顔は醜く歪み、虚空を睨む見開き血走った目や、喉の奥まで見えそうな裂けんばかりに開いた口はまるで悪魔の形相だった。

そんな有様であったから葬儀の際は棺の蓋が開かぬよう予め全て釘を打ち付け、魔除けの布で包まれて早々に埋葬されるという異例さで、弔問すら許さずに秘めやかに行わなくてはならなかった。
葬儀の後、1人礼拝堂に戻った弦一郎は神に問う。
「なぜ」
だが、答える声はなかった。

母が亡くなって二月もしないうちに今度は父が倒れた。
厳しく激しい人であったが、曲がったことを許さない正義感を持ち、人々に尊敬される偉大な王だった。
倒れて数日後に父も逝き、続けて兄までも亡くなった。
みな同じ病だった。

次は自分の番だろうと弦一郎は漠然と思っていた。
母、父、兄と続けて同じ病で亡くし、突然の不幸とその死に際の異様さに心のどこかは麻痺し、己が死ぬことへの恐怖など微塵も感じてはいなかった。
だが、いくら経っても病の兆しはなく、国王の次男だった弦一郎は様々な屈託を抱えたまま王になった。

1人生き残った弦一郎は、深夜に礼拝堂で神に問う。
「神は我らを救うのではなかったのか」
弦一郎の声だけがしんと静まり返った礼拝堂の静謐な空気を揺るがす。
「いったい、父に、母に、兄に、どんな落ち度があったというのか教えて欲しい」
だが、やはり答えは無いのだった。



王になり10年が過ぎた。
弦一郎個人としては色々と思うところはあったが、宗教国家の王として祭礼や教会の建立と力を尽くしてきた。
だが、どれだけ神の御心に叶う行いをしても、神が弦一郎の毎夜の問いに答えることはなかった。
神は存在するのか。
神とはなんなのか。
日毎に疑念は強くなっていく。
そんな折、国で一番大きな祭礼の儀があった。
王として行事に参列していた弦一郎は、祭礼を取り仕切っている神官の1人に目を留めた。
初めて見る顔だった。
白い肌に端正な目鼻立ちだけでも充分人目を引くが、さらに荘厳とも言える雰囲気を持っていた。
弦一郎の頭に子供の頃読んだ本に描かれていた聖人の挿絵が浮かぶ。
白い一輪の百合を手にしていた聖人、彼の人が今ここに、目の前に存在している。
心が震えた。
彼なら自分の欲しい答えをくれるに違いない。
弦一郎の心に希望が涌く。
神官はそれほどまでに神に近い存在に見えた。





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