TRUST 4
弦一郎は自分が犯した神官を傍近く置くことに決めた。
国王の権限で、半ば強引に務めていた教会から蓮二を引き抜き城の神官に加える。
それについて蓮二は異議を唱えることはなかったが、国の行事を全て取り仕切る祭司の任命だけは頑として首を縦に振らなかった。
蓮二は一度だけ還俗を口にしたがそれは赦さなかった。
還俗をしてただの人になってしまうのでは意味がない。
弦一郎に必要なのは神の愛を受けた神官である蓮二だ。
未だに弦一郎の目には蓮二が誰よりも神に近い所にいるように見える。
だからこそ昼夜を問わず蓮二を傍に置き、ただの一時も離さなかった。
そうすればいずれ神の存在を、その奇跡を目の当たりにすることができるのではないかという一縷の望みを託して。
だがその望みが叶うことはなかった。
朝に晩に祈り、毎回同じ問いを繰り返しても神が何も答えないのと同様に。
**
王に仕えるようになって早くも2年の月日が過ぎた。
半ば強制的に王宮の神官に任命された形だったが、王の意向に逆らえなかったというよりも、蓮二自身が王の傍にありたいと願った結果だ。
神の奇跡を見せることはできなくても、共に過ごすことでその心の内の痛みや苦しみを少しでも和らげることができればと思った。
懺悔をする者は心の中の罪を吐きだすことで救われる。
蓮二は、弦一郎が王であるがゆえに、1人で抱えなくてはならない苦しみを吐きだせる唯一の存在になろうとした。
それが彼の胸の底深くに重く凝り固まった悲しみを見てしまった者の務めだと思った。
昼に夜に、常に共に過ごし、時には弦一郎の求めで肌を重ねる。
そうするうちに蓮二の心にも少しずつ変化が起きた。
肌を重ねることは心を重ねることと同じなのだと蓮二は初めて知った。
以前は神に仕える者の務めとして迷えるものを救いたいと願っていたが、今では他の誰でもない、弦一郎その人の幸せを願うようになったのだ。
王としての弦一郎は最初の頃と変わらず精力的に布教に務めていた。
空き地があれば教会を建立し、年を追うごとに祭礼は贅を極めた豪華なものなり、まるでこれでもまだ足りないのかとでも言うように弦一郎は神に尽くす。
民から徴収する税だけでは足らず、王宮にある宝物を他国に売り払ってまで教会を健立する弦一郎に、城の重臣たちも最近では異を唱えるようになった。
だが弦一郎は王の権限で全てを決裁してしまう。
そうまでしても神は弦一郎の望む奇跡をみせることはなかった。
神に捧げる為の過剰な供物は過酷な徴税と労働となって国を疲弊させる。
民だけではない、臣下も、そして王である弦一郎もそれは同様だった。
独裁を続けて王宮で孤立し、疲れの色を濃く浮かべた顔で私室に戻った弦一郎が、ぽつりと蓮二に尋ねる。
「教会の建立、華やかな聖礼典、他に必要なものはなんなのだろうな」
「・・・もう充分足りている。もう国土のどこにも隙間の無いほど教会がひしめいているだろう?
建設に携わる民も城の重臣たちも疲れきっている。今、必要なのは休養だ」
「足りているはずはない。まだ足りないのだ・・・」
手を組み、深く頭を垂れる弦一郎は神にすがる幼子のようで、蓮二はそっと手を伸ばす。
「弦一郎」
「神が求めているものはなんなのだ・・・なにが足りない?」
「・・・・・・」
蓮二はどうすることもできない無力感に口を噤む。
蓮二自身にもどうすれば弦一郎の望みが叶うのか、いや、そもそも叶う可能性があるのかすらわからないのだ。
民を、国の全てを差し出し、己の身を粉にしてまで弦一郎が求めているのはただ1つだけ。
最初に会った時から一度も変わることない、ただ1つの望み。
それは神からの答え、神に愛されているという証、ただそれだけなのだ。
→5