TV>KISS




休日の前日。
明日の休みを朝から一緒に過ごす予定で泊まりに来ていた英二は、お風呂と晩御飯を終えた後、俺の部屋でテレビに見入っている。
今すごく流行っているというドラマを英二は毎週かかさず見ているとかで、始まるなり俺は完璧に放置だ。
面白いから一緒に見ろと言われて、並んで見てはいるものの、続き物のドラマだからさっぱり内容がわからない。
部屋の時計をちらりと横目で見れば、時刻は9時40分。
とりあえずはあと15分もすれば終わるだろうから、それまでは付き合ってテレビを見るしかないな…、そう思って、視線を時計からテレビに戻したら、唐突にラブシーンが始まっていた。
・・・さっきまで会社の会議室かなんかで怒られてる場面だったのにいつの間に。
テレビから目を離した僅か1分足らずの間に始まったラブシーンは、9時台のドラマということもあってせいぜいがキスシーンくらいだけど、部屋に自分以外の人がいるというだけでたかだかキスシーンが妙に気恥ずかしい。
訳も無く視線を彷徨わせ、問題のシーンが終わった頃だろうとテレビに視線を戻すと、なぜか英二がテレビではなく俺の方を向いていた。
人の悪い笑みを浮かべている英二は、どうやら俺がラブシーンから目を逸らしていたのに気づいたらしい。

「お・お・い・しぃー」
「・・・な、なんだよ」
「ちゃんと見てたかぁー?」
「・・・見てたよ」
ふーん?なんてにやにや笑ってる英二の気を逸らせようと、ドラマの続きは見なくていいのか、と聞こうとしたらタイミング悪く番組が終わってしまった。
・・・なんで後5分くらいやらないんだ。
仕方ない、飲み物でも取りにいって英二の追求から逃れよう、と腰を浮かしかけたが。
「大石ってさ、キスしたことある?」
間に合わなかった。
こうなったら英二の気が済むまで遊ばれるしかない。
「・・・あるわけないだろ」
「ふっふーん。やっぱそっか」
渋々答えた俺に英二が勝ち誇ったように笑う。
思わずムッとたが、すぐに、まさか・・・、と嫌な予想がよぎった。
「英二だってしたことない、よな・・・?」
「あーるよーん」
「ええええっ!」

そんな、いつ、誰と!俺に一言の断りも無くか?
冗談じゃないぞ、どこのどいつだ、俺の英二にそんな不埒な真似をしたのは!
・・・いや、まだ俺の、じゃないけど、でも!俺の英二になる予定なんだ、俺の中では。
嘘だよな?頼む、嘘だと言ってくれ!
あわあわした頭の中では次々と叫びがあがるけれど、一向に口からは出てこない。
水槽の魚と一緒でパクパクと動くだけだ。

「まーまー、落ち着けって、大石。キスなんて、そんなたいしたもんじゃないからさー」
したり顔でとんでもないことを言っている英二に俺はますますパニックを起こす。
「た、たいしたもんじゃないとか、そんなこと言えるほど、し、したのか、英二!」
「回数ってこと?それとも人数?」
「か、かいすう・・・にんずう・・・」

だめだ、もう立ち直れない。
目の前が真っ暗になって、がっくり肩を落とした俺に英二が「おーい?」なんて呼びかけてる。
・・・もういいんだ、俺のことは放っておいてくれ・・・。

「そんなショック受けるようなことかなぁ?どこのうちでもやってると思うけど」
「そんなの、してるわけないだろ、どこのうちだって・・・え?」
「でもさー、ちっちゃい頃ならまだいいけど、もうヒゲ生えてきた兄ちゃんとかにちゅーされんのはホント勘弁って思うよ」
「ちょ、ちょっと待て、英二。キスしたのってお兄さんなのか?」
「兄ちゃんと姉ちゃんと、あと酔っ払った父ちゃんもたまにしてくる。もう子供じゃないんだからさー、いい加減にして欲しいよね。お前らアメリカ人かっつーの」

さっきとは違う意味で脱力した。
それにしたって、中3の息子にいくら酔ってるからってキスするか?普通。
いや、普通と違うのが菊丸家か。
英二のうちは本当に変わってるっていうか、仲がいいよな。
正直、うらやましいです、お父さん。

「・・・英二。おうちの人としたのはキスのうちに入らないと思うよ」
「えー、キスはキスじゃん。兄ちゃんとするのだって、他の人とすんのと変わらないって。ほら」
急に隣にいた英二の顔がとんでもなくアップになったかと思えば、俺の唇に柔らかいものが触った。
驚いて目を閉じる暇も無く、事の一部始終を見開いた目で見ていたものの、咄嗟に何が起こったか判断できない。
「一緒じゃん。ね?」
顔を離した英二が俺を覗き込んで同意を求めてる。
でも答えられない。
はっきり言って何を聞かれてるのかもよくわからない。
「あれ?おーいし?おーいしー?固まっちゃった。あ!そういえば、もしかしてコレ、大石の初ちゅー?」
ちゅー、つまり、それはキスだ。
俺の初ちゅーが、さっきのコレで・・・・・・・・・キス!?
さっきのが、キスだって!?英二と、か!?あれが!?
物凄い高速回転で動き出した俺の頭がさっきの場面まで巻き戻す。
再生、巻き戻し、再生、巻き戻し、再生・・・・・・
してる!英二とキスしてる!!

「おーいしー、帰って来ーい。おーいしー?」
「英二!!」
「うわっ!ビックリしたぁ。だいじょぶ?大石。うっかり初ちゅー奪っちゃった。ゴメンにゃ?許してちょんまげ」
「ちょんまげ・・・?」
すまなそうに手を合わせて俺を上目使いで見てる英二は可愛いけれど、ちょんまげ発言はどうなんだ。
夢にまで見た英二とのファーストキス、それなのに、ちっとも甘い雰囲気もなければロマンチックでもなく、さらにちょんまげときた。
ファーストキスってやり直しがきくだろうか。
これじゃちょっとあんまり過ぎるぞ、英二。
落ち込んだり盛り上がったりしてた頭が冷静になると、英二はかなりひどいことを言ってたのを思い出す。
俺とするのも家族とするのと変わらないって?
そりゃ、家族同様に親しい間柄ってのは嬉しいけれど、俺が目指してるのは英二のお兄さんじゃない、恋人だ。

「許してちょんまげ、ちょんまげー!」
「・・・別に気に入ってるわけじゃないから2回も言わなくていい。それより英二、俺とするのとお兄さんとかにするのは違っただろ?」
「えー?うーん・・・違ったかなぁ?あんまし変わんないと、」
「違うって!いや、違うはずだ!」
「そ、そーかなぁ?あ、じゃさ、もう1回してみようよ。さっきはちょっとしかしてないからさ」
「え、もう1回?」
1度ならず2度も英二とキスできるって?
夢でも見てるんじゃないだろうな、俺。
「いっくよーん」
「ま、待て!英二!」
「なんだよー」
「俺がする」
「へ?んー、ま、いっか。はい、どーぞ」

英二が目を閉じて少しだけ唇を突き出してる。
こんな可愛い顔してはいどーぞなんて、そんな、ああ、心臓がばくばくしてきた。
唇の位置を凝視しながらゆっくり顔を近づけて・・・あと3cm、2cm・・・・・・いただきます。
柔らかい感触に心臓が跳ね上がった。
天にも昇る心地ってこういうことを言うんだなぁ・・・。

うっとりとした夢心地気分は、顔を離してプハーッと息継ぎをした英二に破られた。
・・・まぁ、仕方ないか。確かにキスしてると息できないもんな。
さて、英二の感想はどうだろう。
1度目のぶつかるような一瞬のキスと違って今度は長かったし、ちょっとはドキドキしたよな?
「あのさ、大石」
「うん?」
「やっぱ、兄ちゃんとすんのと変わんない気がする」
「ええええっ?!」
「あ、スポーツニュース始まった!大石、見よ!」
・・・何事もなかったように英二がまたテレビを見始めてしまった。
俺のキス=お兄さんのキス<テレビ、か。
くっ、落ち込んでる場合じゃない・・・・・・俺は諦めないぞ、英二。
今にきっと、ドキドキさせるキスをして、テレビよりも夢中にさせてやるからな。




→end                                                                                                                           (07・09・30)