ツイノベ -立海編- 




◆◆◆ 真田×柳 ◆◆◆


■「深夜の車内」「選ぶ」「風」

汽車は火の粉を散らして闇の中を進む。吹き込む風に髪を散らされ、ふと見れば暗い窓には不安さを隠せない己の顔が映っている。後悔が無いと言えば嘘になる。先の見えない闇を行く列車はそのまま俺たちが選んだ未来のようだ。左手を包むこの温もりがなければ、今すぐ引き返していただろうに。


■「早朝の坂道」「選ぶ」「アルコール」

早朝の坂道に照り返す朝日は突き刺さるようで、俺は思わず庇うように額に手を当てた。体に馴染まないアルコールを摂取しても、勢いがつくどころか迷いが増すばかりだ。右の道は自宅へ、そして左の道は彼の家へ。どちらを選べば俺は後悔しないのだろうか。


■「早朝の浴室」「頭を撫でる」「氷」

水音が聞こえて早朝の浴室を覗けば、シャワーの冷水を浴びて座禅を組む馬鹿がいた。 …お前は修行僧か。風邪を引かれる前にコックを捻って水を止める。水の滴る頭を撫でてやれば氷のように冷えていた。色恋の悟りが開きたいなら、悩む前に実践してみたらどうなんだ?


■「夜の水族館」「耽る」「吐息」

常夜灯の電球を橙から青へ変えた。それだけで夜の水族館にいるような、非現実的な錯覚が訪れる。水槽の中には白い肌を持つ魚が2匹、なにもかも忘れて絡みうことに耽る。互いに吐息を熱くしながら、深く深く、どこまでも堕ちて行く。


■「昼のこたつ」「嘘をつく」「本」

炬燵で座したお前に触れた手が叩かれ、今忙しいと薄い文庫本から顔も上げずに言う。嘘を吐くな、先程読み終わっただろうと指摘すれば、何度も読めば新しい発見があると屁理屈を捏ねる。機嫌を損ねているようだが何故か皆目見当がつかぬ。これでは触れる事すらままならぬが、さて一体どうしたものか。


■「朝の庭」「約束する」「猫」

障子を開けると、雪の庭に赤く映える寒椿が見える。猫の額ほどの庭だが、四季折々の花が咲くので気に入っている。桜が欲しいと言うお前の為に、豆桜も植えた。春には花を咲かせるだろう。だからお前も早くここへ越して来い。そして約束通り、一緒に暮らそう。


■「朝のこたつ」「感じる」「糸」

朝食の後、炬燵の向かいで蜜柑を剥く男の手が止まる。じっと自分の左手を見ているので、どうしたと聞けば小指の付け根が痛む感じがあると言う。ああそれはと悪戯するように目を細め、小指には赤い糸が繋がっていて、今それを俺が引いたのだと答えてやると、取り落とされた蜜柑が転がった。


■「夕方の廊下」「見つめる」「線」

隣を歩く足音が止まる。「こないだの返事を聞かせて欲しい」言われて振り返れば、夕陽のように紅く燃える瞳が此方を見つめていた。わかっているのか?お前が欲しているのは己をも焼き尽くす紅蓮の炎だ。俺は境界線を越えられない。お前を灰にするくらいなら、自分の恋心と心中した方がまだましだ。


■「夜の庭」「さめる」「靴」

手招かれて夜の庭に出る。散り始めた梅の下で、お前が笑う。朱い唇が刷く笑みは、空にかかる三日月と同じ形。憑かれたようにふらふらと歩み寄り、指先が届くところで目が覚めた。気付けば俺はひとり、靴も履かずに裸足で庭に立っている。地には散り終えた梅の花弁、見上げても月は無い。


■「朝の床の上」「嫉妬する」「氷」

春とはいえ早朝はまだ冷える。寝床から抜け出した男が雨戸を開けたので、布団の奥へと潜り込んだ。寒いのだ。庭から戻った男が、池に氷が張っていると嬉しそうに笑う。たかが氷にその顔はなんだ。男に背を向けて布団を頭から被る。これは寝起きの機嫌が悪いせいで、決して氷に嫉妬したのではない。


■「深夜の坂道」「恋する」「星」

話し込み夜が更けた。泊っていけと言うのに、帰るときかないので送って行く。坂道を上る途中、目の端を流れ星が過る。隣を歩く足が止まり、何事かと見遣れば、口の中で一心に何やら唱えていた。 願い事か?と揶揄すれば、恋する者として当然の行動だと返され仰天する。…こ、恋だと?相手は誰なのだ。


■「朝の歩道橋」「開く」「傘」

道の途中で偶然出会い、一緒に登校する。歩道橋を渡っていると滴が頬に当たった。雨だ。天気予報の降水確率は午前が30%、午後が50%だがもう降り出したか。鞄から傘を取り出して開く。当たり前のように傘に入ってくるが、傍から見れば立派な相合傘だということをわかっているだろうか。


■「夜の木の下」「手を繋ぐ」「花」

目の前に黒々とそびえ立つ巨木。夜空を覆わんばかりに張り巡らされた枝には葉も花も無く、代わりに無数の煌めく星が宿る。荘厳な光景は美しく、また同時に恐ろしい。その心情を察したのか、隣からすっと伸びた手が俺の手を取る。手を繋いで見上げた空はただ美しく、もう恐怖は感じない。


■「朝の部屋」「すれ違う」「瞳」

部室に入ると、いつもの顔だけがそこにあった。朝練の30分前ともなると、おのずと居るメンバーは決まってくる。早いなと声をかけ、お前もなと返される。先にコートへ出ようとする時の、すれ違いざまにちらりと流し見てくる瞳。思わせぶりな態度だと感じるのは自惚れ過ぎだろうか。


■「深夜の部屋」「溺れる」「跡」

夜更け、ひやりとしたものが頬に当たり覚醒した。肩から毛布がずり落ちた裸の背が目の前にある。気の毒なことに逞しい背は、赤い指の痕やら引っかき傷で彩られている。だが溺れそうなほど追い詰めたのはこの背の持ち主だ。脳裏に蘇る情事に羞恥が込み上げ、慌てて上掛けを引き上げて痕跡を隠す。


■「深夜の浴室」「誓う」「桜」

時間が遅いせいか、浴室からは控えめな水音が聞こえる。邪な想いが頭をもたげ、意識を逸らす為に殊更丁寧に客用の布団を敷く。そうこうしているうちに目の端に映った白い踝、視線を上げればほんのり桜色に染まった肌と濡れ髪。胸が早鐘の鼓動を打つ。俺は今夜、自分に課した誓いを守れるだろうか。


■「深夜の木の下」「さよならを言う」「水」

夜の闇に溶ける黒々とした木は桜、だが花は無い。他の桜は散り始め、葉も出る頃だというのに、この木は水気の失せた枝を空に向けるだけだ。もう歳だからなと、青年の姿でお前が笑う。本当はもう、仮の姿を現すことも難しいのだ。だんだんと輪郭を淡くしていくお前の、さよならという声が風に散る。


■「夜の庭」「愛される」「桜」

床を抜け出し庭に出る。春の夜風が愛されて火照る体に心地よい。朧月に淡く浮かぶ桜は、もう数えるほどしか花を残していない。咲いた花はいつか散る。この世に永遠などないのだと知りつつも、願わずにはいられない。この身が朽ちるまで、あの燃えるような瞳が、熱い腕が、いつも傍にあるようにと。


■「夕方の映画館」「約束する」「指輪」

スクリーンの中、恋人に指輪を渡された主人公が涙ぐむ。そしてエンドロール。ハッピーエンドだ。指輪は婚姻を示唆し、つまりは永遠を誓うのと同義だ。ただし男女間の場合はと但し書きがつくが。そう言うと、隣の連れが気まずそうな顔をする。ああ、そういえば先程この男から指輪を貰ったのだったな。


■「深夜の廊下」「紫陽花」

就寝前に厠へ行こうと部屋を出る。古い家はただ広く、薄暗い廊下はどこまでも長く続く。一箇所だけ建付が悪い雨戸の隙間から灯りが漏れている。見ると気の早い紫陽花が月に照らされ、その傍らに白い夜着のお前が立っていた。佇む姿はまるで幽鬼のようだが、それすら美しいと思う自分に少し呆れる。


■「深夜のキッチン」「目眩」

凄まじい音に飛び起きる。急な動きに眩暈を起こして額を押さえれば火のようだ。風邪で寝込んだことを靄のかかる頭で思い出し、未だ続く騒音に眉を顰める。夜中なのにとふらつく体で元凶を探せば、壮絶な有様の台所で奮闘する後姿があった。吹き零れる糊状の物体は粥か。呆れはしてもこれでは怒れない。


■真田誕生日

いきなり饅頭を手渡される。なんだと尋ねれば誕生日ケーキの代わりだという。確かに俺は洋菓子の類をあまり食さないが、だからといって誕生日に饅頭というのはおかしくないか。どこか腑に落ちないまま、やけに楽しそうなお前と並んで饅頭を食う。やはり変だと思うが、不思議といつもより美味く感じた。


■「夜のベッド」「見つめる」「雨」

雨が軒を叩く音が聞こえる。見えないと知りながら、逃げるように雨戸の閉まる外へ目を向けた。灯りの無い部屋は暗闇に包まれ、息の詰まるような重苦しい空気に満ちている。背に痛い程の視線を送るくせに、お前は何も言わない。互いに躊躇し合い、すぐそこにあるのに手を伸ばすこともできない。


■柳誕生日

誕生日に何が欲しいと聞かれた。こういうものは相手に聞かずそれとなく事前に調べ、何食わぬ顔で贈るのが粋なのだ、と言いたい所だが。目の前にいるのは粋と対極にいる男、そんな芸当を求める方が無理か。返答を待つ顔に読みたい本の題名をいくつか挙げてやる。この唐変木を好きなのだから仕方がない。


■青天の霹靂

・結婚を前提に付き合って欲しい。いきなり目の前に仁王立ちし、大声でそんなことをほざく。唐突過ぎて何事かも理解できない。真っ白な俺を恐ろしい形相で睨むのは照れ隠しなのか?徐々に働き出した頭も無茶苦茶な事態に混乱を極めている。まず突っ込み所が多過ぎるが、どこから指摘すればいいのだ。


■お題無し

どうも機嫌が悪いようで空気がピリピリしている。こういうことはままあるが、触れねば更に悪化し、触れれば最悪になるので難しい。そっと茶を置いてみる。しばらくして茶も冷めた頃やっと手をつけ、旨いと呟く。これが機嫌を悪くした謝罪なのだ。素直ではないがばつの悪い顔も可愛いのだから仕方ない。


■ばか。たったその一言だけ。

・貰い物のお裾分けと、鉄砲ユリを抱えて現れる。礼を言って花瓶に生けていると、それを見て何やら頷く姿が目に入った。なんだ?と問うと、歩く姿は百合の花という言葉に合点がいったと言う。真顔で花を眺めながら、まさしくお前の歩く姿だなどと言う男に顔が熱くなる。まったく、返す言葉もでやしない。


■薄暗い部屋で二人きり

・文字が見えづらいと顔を上げれば、いつの間にやら随分と陽が落ちていた。読んでいた本を手近な机に置き、そういえばと辺りを見回す。薄闇の中、座布団を枕に居眠りする姿があった。放置されて不貞寝したのだろう。起こして構ってやるのもいいが、少しだけこの可愛くない寝顔を堪能したい。



◆◆◆3強(真田×柳+幸村)◆◆◆


■「早朝の病院」「寄り添う」「花」

見舞いで早朝の病院へ行く。幸村の病室のドアを開けると、先に蓮二が来ていた。俺を見た幸村が小声で何事かを囁き、それを聞いた蓮二が吹き出す。それなりに上背もある男2人だというのに、寄り添って笑い合う姿はどこか花を連想させる。武骨な俺が踏み込むのは場違いな気がしてどうにも居た堪れない。


■「夜の庭」「抱きしめる」「マフラー」

それに気付いたのは、帰るという君が庭から表に出ようとした時だった。縁側に置かれたマフラーは一足先に帰った奴の忘れ物だ。どうせ途中だからと手にしたマフラーを君は無意識に抱きしめる。とても大事そうに。まったく、それで隠してるつもりなんだから馬鹿だよ、お前達は。そこが愛しいんだけどね。



◆◆◆ 柳+幸村 ◆◆◆


■「朝の坂道」「幸福になる」「花」

滅入ることが続き、自然寝不足となる。重い体を叱咤して家を出ると、目の前の坂道に精市が立っていた。おはよう、という声と共に差し出されたのはすずらんの鉢植え。「俺が咲かせたんだよ。花言葉は『幸福が訪れる』」小さな白い花が3つ、可憐に揺れる。だけど気持ちが晴れたのは花のせいではない。


■「夕方のこたつ」「愛される」「花束」

部活後、荷物運びを手伝い精市の家に寄る。校内で渡された大量のプレゼントを置き、休憩しようと炬燵に入った。それにしても紙袋7個分か。愛されてるなと揶揄すれば、蓮二の愛は?と返される。持参した小振りな鉢植えを差し出すと、満開の水色の花に精市が破顔した。花束より鉢物にして正解だったな。


■「早朝の海辺」「寄り添う」「本」

精市にねだられて早朝の散歩に付き合う。柔らかな日差しが注ぐ海辺は風も無く穏やかだ、波の来ない砂浜に寄り添って座り、リクエストされた本を読む。しばらくすると肩に重みを感じ、見れば精市は気持ちよさそうに眠っている。零れそうな笑いを堪えた。やれやれ、子守唄になってしまったらしい。


■幸「朝の畳の上」「手を繋ぐ」「桜」

緩やかな風が春の香を運ぶ。気持ちよさに縁側の窓を開け放った。庭の桜はまだ三分咲きだが、風情があっていい。足元から、転寝で花見等と怠惰な声がする。呆れて額を指先で弾いてやると、その手を引かれ畳の上に倒れ込んだ。そのまま手を繋ぎ桜を眺める。空の青に桜はよく映えた。



◆◆◆ 切原→柳 ◆◆◆


■「早朝の廊下」「さめる」「瞳」

眠い。眠いったら眠い。どうにも目が開かず、半分眠ったまま早朝の廊下を歩く。窓ガラスだの壁だのに激突しても、その時痛いだけで瞼はまたすぐに落ちてくる。「こら、ちゃんと起きて歩け」かけられた声に寝惚け眼で振り返れば、柔らかに笑う瞳が間近にあって心臓が跳ねる。一発で目が覚めた。


■「深夜の神社」「探す」「手品」

コンビニ帰り、通りかかった深夜の神社にあの人がいた。こんな時間に何をと聞いたら、探し物だと返答がある。よくはわからないが俺も手伝う。足元でチリンと音がして、拾い上げれば小さな鈴だ。それだ、とあの人が嬉しそうに笑い、それからふっと姿が消えた。…怖くなんかない。手品、そう手品だから。


■「深夜の車内」「頭を撫でる」「ココア」

エンジンの音が止み、代わりにCDのクラシック音楽が静かな車内を充たす。窓の外はライトアップした観覧車がゆっくりと回る。少し冷めたがと手渡されたココア、他には何も言わないし聞かない。ただ手を伸ばし俺の頭を撫でる。泣きたくなるくらい優しく。こんな時、この人をすごく好きだと思う。


■「深夜の海辺」「決める」「チョコレート」

家からチャリで30分、さすがに夜中の海辺は体の芯から凍りそうな寒さだ。きりりと心まで引き締まる。迷いなんて入り込む隙間も無い。ポケットから出したチョコレートを思いっきり海に投げる。ミス立海から貰ったバレンタインのチョコだ。もう未練なんかない。俺は決めたんだ。あんたを選ぶって。


■「朝の橋」「抱きしめる」「月」

朝靄のかかる橋にあの人が立っている。声をかければ振り向き微笑んでくれるが、視線はすぐに橋向こうへ戻ってしまう。線の細い横顔は綺麗だが、真昼の月のように淡く儚げにも見えて不安になる。このまま靄の中に消えてしまいそうで、そう思ったら怖くて堪らず、俺は手を伸ばしてあの人を抱きしめた。


■「深夜のベッド」「始める」「星座」

添い寝をしてやろうとあの人が俺のベッドに入り込む。だけど俺の期待はすぐに脆くも消え去った。「春の夜に見える星座で有名なものは獅子座だ。1等星のレグルス、そして」寝物語に星座の勉強を始めるあの人に、俺はこっそり溜息をつく。でも俺はあんたの声も好きだから、今日は黙って聞いとくよ。


■今すぐ会いたいよ/伸ばした指先は空気を掠めて/どうしたら振り向いてくれる?

・夜更かしするから早起きは辛い。でも頑張って起きるのは、遅刻すると怒られるからばかりじゃない。あの人がいるから。おはよう、って、今日もちゃんと起きれたな、って褒めてくれるから。たったそれだけで眠い目を抉じ開けて頑張る俺、ホント健気だろ?

・いつも見てるからわかる。どんなに平静を装っても、なんでもないみたいに笑ってても。小さな溜息、伏せられた瞳、そんなものを俺は見逃さないから。何か悩みがあるなら言ってくれればいいのに、あの人は笑うだけだ。頼りにならない俺の手はあの人に届かない。

・俺ってこれでもモテるんだよ。そう言えば、知っていると返答がある。将来は今よりもっと男前度が上がる予定だし、頼り甲斐だって出るはずだよ。そう言えば、そうだろうなと笑って答えてくる。 今は大きなたった1つの年の差だって、大人になれば気にならなくなる。だからちゃんと俺のことを見てよ。


■だけど、バイバイ。

・今までの人生で初めて真剣に恋をした。砕けたっても諦めない、痛みなんてどうってことない。あんたが欲しくて、その為ならなんでもした。だけど。俺じゃない奴の隣で幸せそうに笑う顔に、もうなにも言えなくて。バイバイ、お幸せに。涙を飲んで心の中で呟く。それくらいあんたのことが好きだったよ。



◆◆◆ 乾×柳 ◆◆◆


■「深夜のソファ」「貪る」「靴」

暗い部屋でソファに掛ける。足元に跪く男は俺の脚を取り、その爪先に恭しく口づけている。触れることを許した覚えは無いが、蹴っても卑屈な笑みを浮かべるだけで効果は無い。足裏に感じる貪るような舌の感触。意識を逸らそうと視線を流すと、脱ぎ捨てた靴がだらしなく転がっていた。今の俺のように。



◆◆◆ ◆◆◆


■「夜の図書館」「密会する」「本」

照明を落とした図書館は林立する本棚で視界が悪い。窓から細く入る月灯りを辿り、どうにか座って本が読めそうな場所を探し出した。物音ひとつ無い静寂の中で物語に没頭していく。幾度も読んだ本は細かな台詞まで全て記憶している。それでも本を手に取るのは、例え一時でも本の中の彼に会いたいからだ。



◆◆◆ 仁王×柳生 ◆◆◆


■「深夜の坂道」「出会う」「メール」

レイトショーで猟奇物を観たせいか、深夜の坂道がやけに不気味に映る。道の途中、殺人鬼が潜みそうな曲り角から人が出てきて肝を冷やした。だが、俺が出会ったのは殺人鬼ではなく、よく知った顔だ。メールを頂いたので迎えに、そう爽やかに紳士な男は笑う。…そういえば殺人鬼の正体も紳士だったな。


■「深夜の映画館」「貪る」「月」

寂れた深夜の映画館は貸切状態だ。かかっているのは古い映画、大きな満月の下でゾンビが人を貪り喰う。マニアック過ぎたかと隣の連れを窺えば「貴方の好きなものを知るのは嬉しいです」と笑う。大音響で悲鳴と骨肉を噛み砕く音がする中でそれか。呆れると同時に顔に血が上る。ここが暗くて助かった。


■「夕方の屋上」「噛み付く」「足音」 *ヴァンパイア仁王

屋上の日陰に身を横たえ、残る夕日の残滓を疎ましく眺める。だるい。もう限界だ。遠のく意識の底で足音を聞く。「お待たせしてすみません」薄らぐ視界に、駆け寄り自ら襟元を緩める影が映る。引き寄せられるように晒された白い首筋に噛み付く。流れ込む熱く甘い奔流に酔う。お前の血だけが俺を満たす。


■「夜のベッド」「お仕置きをする」「手錠」

冗談で拘束プレイでもするかと持ち出したおもちゃの手錠。てっきり眉を顰めて拒絶の言葉を吐くだろうと思ったのに。お仕置きされたいのですね、と笑うお前が俺に伸し掛かる。気付けば俺はベッドに手錠で繋がれていた。おかしい…なんでこうなった?


■「夜の廃墟」「笑い合う」「桜」

最近見つけた廃墟には、貧弱な桜が1本あった。花なんか咲くのかと思っていたが、春になり1つ、2つと蕾が綻び始める。桜を見に廃墟へ通う。ある晩その桜の下に男が立っていた。男は、やっと全部咲きましたと微笑む。痩せた男の、その姿が桜と重なる。よう頑張った、と笑うと男もまた微笑んだ。


■「朝の神社」「開く」「猫」

神頼みは好かんという彼を無理矢理付き合わせ、早朝の神社に寄る。お参りの最中、突然祠が開き、一匹の猫が飛び出した。猫は驚き固まる私の横をすり抜け、真っ直ぐ彼の足元へ行く。退屈そうに欠伸をしながら猫を抱き上げた彼の瞳は優しい。動物が人の本性を見抜くというのは本当だ。


■「夜の高架下」「告白する」

月の光が好きだ。少なくとも昼間の太陽より遠慮がちで柔らかい感じがいい。そんなことをぼんやり考えていると、前を歩いていた奴が足を止めた。背を向けたままの呟くような告白は、まるで独り言だ。言うだけ言って奴はまた歩きだす。俺は月灯りを浴びながら、その後ろを上機嫌で歩く。


■「夜のエレベーター」「嫉妬する」「噂」

チン、と微かな音がして閉まるドアの中、1人きりになるとよそ行きの仮面が外れる。ゆっくりと上昇するエレベーターの浮遊感、それとは逆に気持ちは重く苛々とざわつく。たかが噂と笑ってみせたが、もう心は嫉妬で焦げ付く寸前だ。限界を迎える前に、蝶のような君を籠に入れる方法がないだろうか。


■「昼のベッド」「頭を撫でる」

休みだからと度々目を覚ましながらも寝穢くベッドにへばりつく。うとうとと浅い眠りの中で頭を撫でる感触があったが、それすら気持ち良くてますます起きる気になれない。しばらくして諦めたのか撫でていた手が離れていく。咄嗟にその手を掴むと、狸寝入りですかと囁く声に微かな笑い声が続いた。


■お題無し  *猫2ndエピローグの仁王

暇だった。理由はそれだけ。どんなところで暮らしてるのか、見るだけなら罰も当たらないだろう。あいつの勤務先に行き、中庭に出る。ここまでにすれ違った人たちはみな穏やかな空気を纏っていた。それだけでいい所なんだとわかる。充分だ。顔を合わせる前に帰るか、と、そう思っていたのに。


■「夜のプラネタリウム」「逃げる」「跡」

夜のプラネタリウムに行こうなんて、なにか企んでるとは思ったけれど。微かに笑う声を残して逃げるように去った彼に溜息を吐く。疼くような首筋の痛みが何度もその瞬間を反芻させる。触れた唇の感触、そしてかかる熱い吐息。彼の悪戯の跡を隠せる服装のことでも考えなければ体の熱を冷ませそうもない。



◆◆◆ 仁王→柳 ◆◆◆


■「夜の廊下」「さめる」「雨」

夜中に目が覚めた気がした。次の瞬間には廊下を歩いていたから夢かもしれない。窓の外は雨、その中に背を向けて立つ姿がある。一心に彼方を見つめる寂しげな後姿に傘を差し掛けた。震える肩を抱きしめたかったが、この人の待ち人は俺ではない。だからただ傘を持ち、俺はずっとその場に立っている。


■「昼の遊園地」「愛される」「雪」

平日、真昼の遊園地は閑散としていた。授業をさぼるなんて初体験だろう相手は、何かを想い、俺の隣をただぼんやりと歩いている。やがて灰色の空から一片の雪が落ちた。手の平で受け止め、溶けていくのを見つめていたお前がぽつりと呟く。「どれほど儚くてもいい、一瞬でも愛されるならそれだけで」


■「深夜のベランダ」「ひっぱたく」「本」

ベランダの柵越しに、氷の月が浮かぶ空を見上げる。吐く息は白いが、じんじんと熱い頬のせいか寒さは感じない。普段はあの月みたいに冷たいくせに時折こうして激昂する。それにしてもまさか本でひっぱたかれるとは。ふいに笑いが込み上げる。お前は素の方がいいよ。


■「夜のグラウンド」「すれ違う」「風」

部活終わりのグラウンド周回。たらたらしてると横を走り抜けて行く人影があった。すれ違い様、吹いた風にふわりと花の香が混じる。後ろ姿を眺めながら、そういえば匂い袋を身につけてたと思い出す。あいつの白い顔が脳裏に浮かび、それと重なるように浮かんだ白い花。梔子か。似合いすぎだ。



◆◆◆ 仁王+丸井 ◆◆◆


■「早朝の並木道」「ひっぱたく」「指輪」

登校途中の並木道、見慣れた後ろ姿に体当たりをかます。ダルそうに振り返る奴の頬には赤い手形と引っ掻き傷。これは指輪した手で引っ叩かれたな。付き合う相手を頻繁に変えるこいつは女癖が悪いと称されるが、本当は断るのが面倒なだけだ。いい加減にしとかないと本命も逃すぜ?



◆◆◆ 仁王 ◆◆◆


■「深夜の路地裏」「約束を破る」「雪」

待ち合わせの約束をわざと破る。偽りの関係を打ち切るには効果的だろう。卑怯、嘘吐き、冷たい。別れるなら残す印象は悪い方がいい。かじかむ両手をポケットに突っ込み、はらりと落ちた白い欠片に空を見上げた。雪か。深夜の路地裏を歩きながら小声で歌を口ずさむ。あいつの好きだった歌だ。


■「夜のコンビニ」「キスをする」「糸」

夜食の買い出しを済ませコンビニを出る。先を歩くさらさらと揺れる絹糸の髪に目を奪われていたら、当の本人が振り向いた。どきりと跳ねた鼓動を押し隠し、なんだ?と聞こうとした唇が塞がれる。夜とはいえ、こんな道端でキスか。まったく、お前にはかなわんぜよ。


■「昼の遊園地」「寄り添う」「傷」

売りになるアトラクションも無い遊園地は、土曜の昼なのにまばらな客しかいない。人混みが嫌いな俺たちには絶好の場所だ。つまらない仕掛けのトリックルームを見物し、ちゃちなゲームコーナーで遊ぶ。面白い物なんか何一つないが、こうして寄り添うのは心地いい。これも同じ傷を持つ者同士ならではか。


■「昼のソファ」「好きにする」「足音」

ソファで転寝していると静かな足音が聞こえた。用があるなら声をかけるだろうと、そのまま寝続ける。足音はソファへ近づき、止まる。ふいに持ち上げられた俺の踵。やがて爪先にひやりとする感触、鼻をつくシンナーの匂い。何をしてるか想像はつくが、やはり起きるのは面倒だから好きにさせておく。


■「昼の床の上」「鍵」

バイトに出掛ける時間になり、未だ惰眠を貪ってる奴をどうしようかと考える。起こすのも面倒だから鍵を置いていくことにした。走り書きのメモと鍵を置き、玄関へ向かう。帰ってくるまで居て欲しいのが本音だが、それは言わないでおく。こいつも同じなら夕飯でも用意して待っててくれるだろう。


■「夕方のゲームセンター」「チョコレート」

寄り道したいとねだられてゲームセンターへ入る。すぐにゲームを始めた連れを置いて店内を回るが、俺の好きなゲームは無い。連れの隣に座り画面を覗き込む。なかなか上手いがただ見てるのは飽きる。ポケットに入ってたチョコを熱中してるそいつの口に押し込んだ。ちょっとした嫌がらせだ。



◆◆◆ 柳生→仁王→柳→真田 ◆◆◆


■いつまでも交わらない、ねじれの関係のように(仁王→柳)/雨の中にただ佇んで(柳→真田)/そんなに 焦らさないで(柳生→仁王)

・笑えるような、憂えるような。俺たちの間にあるのはどれもこれも一方通行で、決して成就しない想いばかりだ。誰かが妥協して、誰かが諦めて。それで丸く収まる。解決策はあるというのに。そんなことが簡単にできるくらいなら誰も色恋に苦労はしないんだろうと、呆れるほど青い空に向かって溜息を吐く。

・密やかに、決して知られることのないように。そうしていつしか後ろ姿ばかり見ていることに気付いた。彼の正面に立つ時は親友の顔で。嘘に嘘を塗り重ね、日ごと心を殺していく。苦しくても辛くても失くせないものがある。だから薄暗い空が零す涙に自分の涙も紛らせて。

・可能性が全く無いなら諦めもつこうというもの。それなのに彼はひらりひらりと舞う蝶の如く、気まぐれにすぐ傍らまで近づいてくる。手を伸ばしても決して捕まってはくれないくせに、惑わせるように焦らすように、その姿を魅せつけて。その度に私はどうしたら彼を閉じ込められるかと考えてしまう。



◆◆◆ ジャッカル×丸井 ◆◆◆


■丸井ブン太誕生日

腹が減った。テーブルに乗る大きな四角い箱がさっきから俺を誘惑してる。ああ、開けたい。中には色白で甘〜いアイツが隠れてるんだ。「駄目だぞ!」キッチンから大声が響く。ちっ、勘のいい奴だ。仕方ないからもう少しだけ待ってやる。俺って優しい。あ、でも10分以内な?



◆◆◆ 丸井 ◆◆◆


■「夕方の図書室」「さよならを言う「靴」

これから部活っていう慌ただしさの中、すぐ済むからと図書室に呼び出された。本特有の匂いがするそこで、思い詰め俯く姿にデジャブを感じる。この展開は。意を決したように開く口から別れ話。ビンゴだ。一方的にさよならを言い、軽い靴音を立てて去っていく。またかよ。俺だっていい加減傷つくぜ。



◆◆◆ 切原 ◆◆◆


■「夜の教室」「裏切る」「プレゼント」

目が覚めたら教室で、しかも夜とかありえない。たぶん授業中に居眠りしてそのまんま現在に至るんだ。きっと誰か起こしてくれるという甘ったれな予想は裏切られた。仕方ない、帰ろう。身動きすると肩にかかってた誰かのジャージが落ちる。こんな思いやりのプレゼントはいらないから。まず、起こせ。







→end