Tree
& Doom
灯りを落とした部屋に赤や青のランプがチカチカと点滅している。
机の上の、わずか10センチ足らずの小さなツリーが今日はクリスマスなんだと精一杯主張している。
それを応援するかのように隣に並ぶのは、赤いマフラーと赤い帽子の雪だるまが鎮座する小さなスノード−ム。
ツリーの灯りを浴びてキラキラと光っている。
それを眺めている俺と英二はベッドの中。
淡い緑で浮かび上がるデジタル時計の時刻は午前2時18分。
「なんかさぁ、すっごくクリスマスって感じしない?」
「そうだな」
「あれさ、ずっと飾っとけば、一年中クリスマス気分でいられんじゃん」
「毎日クリスマスじゃサンタが痩せ細っちゃうだろ」
「そしたら大石が代わりにプレゼント配って歩けばいいんだよ。赤い服着てさ」
「赤は英二の好きな色だろ。英二の方が似合うよ、サンタの衣装」
「オレはプレゼント貰う方だからダメ」
眠る気配を見せない英二を背中から抱いて、小声で他愛のない会話を続ける。
時折、抱いている腕に力を込めれば、腕の中の体が楽しそうに笑った。
誰といるよりも、やっぱり英二がいい。
よかった、誘えて。
**
青学恒例の部室でのクリスマスパーティは大盛況と言うべきか、大騒ぎだったと言うべきか。
お祭り好きな英二や桃が中心となって盛り上がり、パーティの途中で寿司を持ってきてくれたタカさんのお父さんは大歓声で迎えられ、こっそり缶チューハイを持ち込んだ2年部員は手塚に見つかってグランドを走らされ、いつの間にか机の上に置かれていた乾汁を飲んだ奴が泡を吹いて倒れ・・・と、ざっと思い出してもあまりの滅茶苦茶さに笑うしかない状況だった。
だけど、そんな凄まじいクリスマス・パーティも終わってみると途端に淋しくなる。
みなが帰った後のシンと静まり帰った部室に鍵をかけて、さぁ帰ろうかと片付けを手伝ってくれてた英二の顔を見たら、もうどうしようもなくなってしまった。
部活を終えてからのクリスマス・パーティ、ただでさえ盛り上がりすぎて予定の終了時間をかなり過ぎた。
それなのに、こんな遅い時間に、今からうちへ来ないか、なんて。
誘いたい、でも。
学校からの帰り道を英二と並んで歩きながら、俺はずっと思い迷っていた。
もうすぐ英二の家と俺の家の道が分かれる地点に差し掛かる。
「あ、大石!」
英二に呼ばれて顔を上げると、空から舞うように落ちてくる一片の雪。
「雪か。ホワイト・クリスマスだな」
「大石ってそういうロマンチックなの好きそうだよね。・・・あのさ、ホワイト・クリスマスを恋人と一緒に、ってどう?」
下から俺の顔を覗きこむようにしている英二がニヤリと笑う。
まいったな。もしかして誘いたいと思ってたのがバレてるのか?
でも、そうだな、せっかく英二が話を振ってくれてるんだから、このチャンスを逃す手はないよな。
「・・・英二が大丈夫なら、今日はうちに泊まっていかないか」
「へへっ。やっと言ったな。行くー、行きますー」
やっぱりバレてたらしい。前にも英二に言いたいことが顔に出るって言われたしな・・・。
見透かされたあげく話まで振ってもらわないと誘えないなんて、と小さな自己嫌悪で落ち込んでいると、隣を歩いていた英二の腕がするりと俺の腕にからんだ。
「大石が誘ってくんなくたって行くつもりだったけどねー!オレだって大石と一緒にいたいもん」
少し拗ねたような顔の英二に苦笑する。
そうだよな、俺が誘わないからいつも英二がねだるはめになるんだもんな。
「そんじゃ、大石んち目指してスキップ開始〜!」
「ええっ!?スキップ?」
「行っくぞ〜!」
俺と腕を組んだまま英二がスキップを始めるから変なふうに引っ張られてまともに歩けず、仕方無しにスキップしようとすれば今度は飛ぶタイミングが合わなくて2人とも前に進めず、そんなデコボコ・スキップに英二は笑い転げて立っていられず座り込み、だんだん俺もおかしくなってきて笑いが止まらず、雪が降ってるというのに1時間近くもかかって家に帰りついた・・・。
**
チカチカと点滅する赤や青のランプを眺める。
腕の中でおとなしくしていた英二が急にくるりと体を反転してきた。
真正面から向き合うようにして、「あのさ」
と切り出すから、言葉の続きを待ってみる。
「雪、まだ降ってるかな」
「帰りの様子では止みそうになかったよな」
「じゃ、今頃積もってるよね」
いうなりピョンとベッドから飛び出した。
窓際に駆け寄って細くカーテンを開けて外を眺めている、スラリとした英二の裸体が赤や青のランプに照らされて浮かび上がる。
うーん、目には楽しいんだけど。
「英二。風邪引くぞ」
空調を切っているから布団の外は寒い。
それなのに英二は裸の尻をフリフリと左右に振ったかと思えば、肩越しに振り返ってとニッと笑う。
・・・ったく。
さすがに布団全部を抱えるわけにもいかず、中から厚手のグレーの毛布を一枚だけ引っ張り出して羽織ると、窓辺にいる英二に歩み寄った。
そのまま背中から英二を抱きこむ。
腕に感じる英二の体は、わずかな時間ですっかり冷えてしまっている。
「見て。やっぱ積もってるよ」
楽しそうな英二は寒さなんか感じてないみたいに笑いながら窓の外を指差す。
「本当だ、凄いな。でも、この時間に外に行きたいなんて言い出すなよ?」
「う。やっぱダメ?」
顔だけ振り向いた英二の、髪からのぞく耳にキスをするとくすぐったそうに首をすくめて笑う。
「明日少し早く家を出れば、雪で遊ぶ時間が作れるよ」
「早くなんて起きれるかなぁ」
「俺が起こすから」
だからそろそろ布団に戻ろう、と英二を促す。
頷いてベッドに向かいかけた英二が、机の前で足を止めた。
ツリーの灯りを受けてキラキラ輝くスノードームを手に取ると、逆さまにしてからまた元に戻す。
ドームの中の雪だるまに、キラキラと白い雪が舞い降りる。
それを見た英二は満足そうに笑ってベッドへ入った。
英二に気に入ってもらえた、小さなスノードームは俺から英二へのクリスマス・プレゼント。
仲良く並ぶ小さなツリーは英二から貰ったクリスマス・プレゼント。
スノードームとツリー、共通点なんて無いのに、こうして並べるとそれが当然あるべき姿のように納まって。
まるで。
「ね、あのドームとツリーって、オレと大石みたい」
「うん。俺もそう思ったよ」
「やっぱり?」
嬉しそうに抱きついてくる英二と、今日何回目になるかわからないキスを交わして。
いつまでも眠れない、クリスマスならそんな夜もいいかもしれないと思った。
・・・Merry
Christmas・・・
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