銀紙の星




よく晴れた濃紺の夜空は星がとても綺麗で、もっといい場所で眺めようとオレと大石はコンテナに遠征してきた。
麓の町の灯りと空の星。
キラキラチカチカ瞬いて、まるで。

「クリスマスツリーにすっぽり包まれてる感じ」
「それじゃ真上にある大きな星がツリーの1番上の飾りだな」
「星といえばさ、オレ子供のとき、空でピカピカ光ってる星がどうしても欲しくって、サンタさんに星をくださいって手紙書いたんだよね」
「ああ、あるよな、子供の頃はそういうのって」
「でさ、クリスマスの朝、枕元にね、星があったんだけど、銀紙で作った星だったんだー」

子供の手のひらに乗るくらいの小さな銀紙の星は、お世辞にも空にある星とは言えないような出来栄えで。
ガキだったオレが、こんなの星じゃない、光ってない!って文句を言ったら、家族の誰かに夜になれば光るんだと言われた。

「オレ、もしかしたらホンモノかもしれないって思って、けっこう長い間捨てるに捨てられなくってさ」
「夜になって光った?」
「光んないって、紙だもん」

何年かして、ある日机の奥から出てきた銀紙の星はそのままゴミ箱行きとなった。
その頃にはもう星が手に入るなんて思っていなかったから。

「英二、今でも星が欲しいか?」
「おっきな岩のカタマリみたいな星じゃなくて、ちいさくてピカピカ光るやつならね」
「それじゃ俺が英二に星をプレゼントするよ。どれがいい?」
「あの1番おっきいの!」

オレは真上を指差した。
もちろん星なんか取ってこれるはずもないけど、冗談でも大石がプレゼントしてくれるっていうのがなんか嬉しくて。
大石はおもむろに立ち上がると真上の星に向かって手を伸ばす。
オレは座ったまま笑って、ガンバレーもうちょいだー、なんて囃し立てていたら。

ぐぐん、と大石の背が少し伸びたように見えた。
・・・はは、まさか、そんなことあるわけないじゃん。気のせい気のせい。
ぐぐん、ぐぐぐん。
・・・え?
ぐぐぐん。
・・・マジで?
大石が伸びてる。もう目の錯覚とか言って誤魔化せないくらい伸びてる。

「・・・ちょ、ちょっと、大石」
「なかなか届かないもんだなぁ。あともう少しってところなんだけどな」
「や、そーじゃなくて、えーっと」

大石がにょきにょき伸びるなんてありえないことをしてる。
なんなんだこれは。夢?オレ、寝てんの?いつの間に?
あっけにとられてる間にも大石は伸び続けてる。
どこまで伸びるんだ、ってか、なんで伸びてるんだよ、大石!!

「おーいしーっ!」
「もうちょっとだから、待ってて」

待っててって言われても。
あれよあれよという間に大石の頭はずいぶんと上のほうに行ってしまった。
おかげで大声を出さないと話もできない。
・・・あ、やばい。なんかオレ、大石が伸びることに順応してきたっぽいぞ。

不思議なことに大石は、巨大化しているわけじゃなくて、ただするすると上にまっすぐ伸びていく。
ほら、あれだ、竹の子が竹になっていくところを早回しで見てるみたいな。
すごいなー、大石。おっきくなったなー、ってそーじゃなくて!

「おーいしーっ!!」

大声で叫ぶけど返事は無い。
首が痛くなるほど真上を見上げても、もう大石の顔は見えなかった。
半時ほど待ってみたけど大石が縮んで帰ってくる様子は無い。
大石、どこまで行っちゃったのかなぁ。
って、足だけならすぐ隣にあるんだけどさ。

「おーいしー、つまんないよー、帰ってこいよー」

にょきっと立ってる大石の足に話しかけたけど返事があるわけない。
・・・あったら怖い。
あーっ、もう、どうしたらいいんだよー。

「そだ、いいこと思いついたぞ」

オレは大石の足をポンポンと叩いて頑丈さを確かめる。
ん、大丈夫そうだ。

「そんじゃ、行きますか」

よっ、とかけ声をかけて大石の足に飛びついた。
どこまで伸びたんだか知らないけど、こうなったら大石に登ってやる。




大石の足からお尻、背中。
背中もずいぶん長くって、ちょっと疲れたオレは小休止。
さっき下を見たら目が回りそうになったから、両腕と両足を大石にがっちり固定してそのまま休む。
登れば登るほど気温が低くなって寒いけど、しがみついてる大石の体温があるから大丈夫。
上を見上げてもまだ大石の頭は見えてこない。
でも、背中の上には首があって頭があるんだ。
だからもーちょっとで大石にご対面できるはず。

「休憩終了!おっしゃ、もういっちょがんばるぞー」

長ーい大石の背中を登りながら、こんなに伸びちゃって平気なのかなーって心配になる。
ちゃんと元通りの大きさに縮むのかな。
だって、こんなに長いと色々大変そうじゃん?
学校行っても教室に入れないしさ、バスだって乗れないよ。
オレとテニスもできないし、それどころか話をするのも一苦労だ。
んー・・・あ、頭が見えた!

「おーいしー!おーいしってばー!」
「ああ、英二!よかった、探してたんだよ」
「なに呑気なこと言ってんだよ!オレはずっとおなじトコにいたぞ!」

背中側から胸側に回る。
ラストスパートをかけて大石の目の前まで登った。
疲れてゼーゼー言ってるオレを大石は大丈夫か?なんて心配してるけど、大丈夫かって言いたいのはこっちだ。

「もー、大石、」
「英二、ほら、プレゼント」
「え?」

大石がはい、って手渡してくれたのは、オレの手の中でピカピカ光るちいさな星。

「うわ、これ、ホンモノ?ホントに星?すっごい、ホントに光ってるよ、大石!」
「それ1個でいいのか?他にもたくさんあるから、欲しいだけ取ってあげるよ」
「え、たくさんって」

大石の視線を追って辺りを見回すと、真っ暗な夜空に満天の星。
赤かったり青かったり金だったりする小さな星がチカチカキラキラ瞬いてる。
そのあまりの綺麗さにオレは言葉も出なくって、ただただ目を瞠る。
空にこんな星があるなんて知らなかった。
だって地上からはこの10分の1も見えない。

「これだけ星があると、なんか圧倒されるよな」
「・・・でも、すっごいキレイだよ」
「そうだな」

クリスマスに大石と2人でこんな綺麗な星空を眺められるなんて、なんだかすっごいロマンチックだ。
キラキラ瞬く星に包まれて、大石とぎゅーって抱き合って・・・ん?
・・・抱き合って?しがみついて?
ああっ!こんなことしてる場合じゃなかった!!

「おーいしっ!」
「どうした?英二」
「どうした、じゃなくって!大石、どーすんだよ!」
「どうするって、何が?」
「大石、こんなに伸びちゃってどーすんの、って聞いてるんだよ!」
「伸びた?オレが?」

なに言ってるんだ英二、なんて笑ってる大石に、オレは言葉のありったけを使って説明する。
それなのに大石はちっとも信じてくれない。

「英二、いくらなんでもゴムじゃないんだから、そんなに伸び縮みするわけないだろ?」
「うー、そんなのオレだって知んないよ!でも実際伸びてるんだって!」
「ははは」
「笑い事じゃなーいっ!足元見てみろよ!大石、自分の足、見えるか!?」
「なに言ってるんだ、見えるに決まって・・・」

本来足のある辺りに視線を落とした大石の顔が、あれ?と疑問を浮かべる。
そのままきょろきょろと見回して、オレの顔を見て、また自分の足元に目を落とした。
サーッと音が聞こえてきそうな勢いで大石が青ざめる。

「え、英二・・・」
「やっと信じたな」
「どうしよう・・・」
「どうしようって言われても、オレも困っちゃうよ・・・」

いつもなら頭のいい大石がなにか考えついてくれるんだけど、さすがにこの状況じゃ無理みたいだ。
それならオレが頑張らなくっちゃって必死に頭を絞り上げて、1つだけ、それもかなり強引な方法を思いついた。
オレは大石をさらによじ登り、ちょうど肩車をするみたいにして大石の頭を抱えた。
そのまま、上から体重をかけて大石を縮めようとふんばる。

「えいっ!えいっ!ふんっ!ど?縮んだ?」
「え、英二、首が痛いよ」
「我慢しろー!えいっ!」
「い、いてっ!背が縮む前に、首が縮んで無くなりそうだ」
「むー。わかった、そんじゃ背中の方に移動する」

上から押した方が効果がありそうかなって思ったんだけど、大石の首が埋もれちゃうのは困る。
仕方がないから背中におぶさって体重をかけることにした。
オレは大石の肩に手をかけて、体をずり下げる。
ちゃんと掴まってたつもりだったけど、寒さでかじかんでた手が一瞬滑った。

「わっ!」
「英二?」

慌てて大石に掴まろうと手を伸ばしたけど、あとちょっとが届かない。
ダメだ、落ちる。

「おーいしっ!」
「英二!!」

オレの必死な叫びに大石が振り返って、落ちるオレを捕まえようと手を伸ばす。
オレも目一杯手を大石へ伸ばすけど届かない。
大石に手が届かないまま、オレは真っ逆さまに落ちていく。
ものすごい速さで逆さまに流れていく景色が恐くて、オレはぎゅっと目を閉じた。
登る時はあんなに時間がかかったのに、落ちるのはあっという間だ。
あー、あんな高いとこから落ちたら、やっぱ助かんないよね。
まさか、こんなとこでオレの人生終わっちゃうなんて思ってなかったなぁ・・・くすん。

「英二!なにやってるんだ!手を出せ!」

あれ?大石の声?
だって、もうずいぶん下の方へ落っこちたよ?

「英二!早く!」

恐る恐る目を開けると、すぐ近くに大石の必死な形相が見えた。
逆さまになりながら、大石の手にオレの手を伸ばす。
届かない。
まだ届かない。
・・・・・・届いた!!

大石がぐいっとオレを引き寄せるのと同時に、オレの足がゴトンと何かにぶつかった。
・・・あれ?
大石にしがみついたまま、辺りを見回す。
麓に町の灯り。街灯に照らされた緑のコンテナ。

「た、助かったぁ〜」
「大丈夫か、英二。どこも怪我してないか?」
「ん、だいじょぶ。あーっ、大石も元の大きさに戻ってる!!」
「え?あ、本当だ」

オレは嬉しくなってコンテナの上、大石を振り回して飛び跳ねた。
オレちゃんと生きてる!大石もちゃんと縮んだ!
やった、やったー!



さんざん飛び跳ねて、はしゃぎすぎて疲れたら興奮も収まった。
はー、なんだか大変なクリスマスになっちゃったな。
なんでこんなことになったんだっけ?
・・・あ、星。
ポケットに入れてた大石からのプレゼントの星を取り出して、オレは目を丸くした。

「あーっ、星がぁ・・・」
「ん?どうした?あ、これは・・・」

貰った時はピカピカ光ってたちいさな星が、今はオレの手のひらの上で小さな銀紙の星になってた。
ポケットの中をもう一回探したけど、他にはなにも入ってない。

「うぇぇ・・・なんでぇ?」
「うーん。星は取ってこれないものなのかな」
「そんなぁ・・・せっかく大石が伸びてまで取ってきてくれたのにぃ・・・」
「それにしても、どこで紙と星が入れ替わったんだろうな・・・あ、英二!」

大石の声につられてオレは空を見上げる。
思わず、あっ!と声をあげた。
オレが大石にねだった1番大きな星が無い。

「えっ、それじゃこれって・・・」
「本物・・・なんだな」

オレの手のひらで街灯の明かりに反射してようやく光る銀紙の星。
これが本物なら、オレが子供の頃持ってた紙の星も本物だったのかな。

「そっか、星は空から取ってくると紙になっちゃうんだ」
「やっぱり、星は空にあるから星だってことなのかもな」
「そだね。今度は捨てないで大事に取っとく」

銀紙の星を失くさないように大事にポケットにしまった。
大石がにょきにょき伸びてオレの為に取ってきてくれた星だから、一生大事にすんね。

「おーいし、プレゼント、ありがと。メリークリスマス!」

抱きついてほっぺにチュ!とキスしたら、大石が嬉しそうに笑った。



・・・ホント、よかったぁ、大石が元の背丈に戻って。



Merry Christmas!                                                                                                         (06・12・24)