北条家に仕える風間一族の四代目・風魔小太郎、齢二十三。でかい。
湯女でくつろぐ一人の男。その近くで七、八人の牢人がはめを外して騒いでいた。見かねた男はそれをシメる。その男は風魔小太郎 その人である。突然彼方より、轟音が響きわたった。小太郎は黒い礫のように飛んで闇に消えた。
その音は唐船『白竜号』からのものだった。江原右馬允と石巻左金吾が明国商人と大炮、火薬の取引交渉していたが、邪魔が入り 交渉決裂。その際の騒動の爆発音であった。小太郎は小田原城に呼ばれた。邪魔をしたのはどうやら伊賀者らしい。 「彼奴らを一匹残さず退治せい」小太郎に伊賀者の始末が言い渡される。
北条家は土壇場に立たされていた。九州平定を終えた豊臣秀吉が矛先を向けてきたのである。よって可能な限り、玉薬や炮門を集める 必要があったのだ。
夜更けて火薬庫を警戒していた小太郎。火のないところに燃え上がる火の手。火遁応変――衆目をそらす手だ。伊賀者のしわざである。 小田原城内の火薬庫爆破の使命を帯びて潜入した伊賀者は風魔忍三人を殺ったあとアジトへ逃走する。が、そこへ後をつけてきた小太郎が 乗り込む。一斉にとびかかる伊賀者たち。轟然たる炸裂音!首領名張ノ蜘蛛七との一騎討ち。 しかし多勢に無勢、小太郎はその場から姿を消す。
水之尾甚左衛門信綱の元へその息子、三人の甚内が集まっていた。庄司甚内、向坂甚内、鳶沢甚内の三人である。そこに甚左衛門へ 戦の出馬を願いに小太郎がやってきた。甚左衛門は出馬を承諾、小太郎が去ろうとしたとき、甚左衛門は突如現れた蜘蛛七に討たれて しまう。
御金蔵の警戒をしていた小太郎は怪しい人影を発見、追うが逃げられる。が、くせ者は菱手形を落としていった。そこからくせ者は 黄金虫ということがわかった。黄金虫とは金堀りである。武田信玄が相模を攻めたとき、城壁の下を掘り抜いて攻めようとしたことがある。 そのときの穴が残っているのではないか。小太郎は調査に乗り出した。
向坂甚内は城内を歩いていた。踊る阿古女を見た、白竜号でのゴタゴタで偶然助けた女である。一緒にいた甲六は黄金虫で阿古女は 仲間だった。木賀ノ湯宿にいた阿古女は蜘蛛七に襲われ背中の刺青に描かれていた坑道の秘密の入り口と御金蔵の位置の絵図を写し とられる。阿古女は霞ノ段蔵の娘だった。霞ノ段蔵は黄金虫の棟梁である。
小太郎は地下道の埋め立てを急ぐよう氏直に進言した。埋め立ては土民を使って行っていたが、土民の中に不審な奴を見た、 石を運びながら、鉢巻を右手でねじり直したことだ。十四、五貫はあろうと思われる石を左手で抱えたままである。 そのときはそれで忘れた。しかし、そのあと馬を飛ばして浜へつくとその男の顔を群集の中に見たのである。 伊賀者か!?が、すでに、その姿はなかった。
九鬼の水軍が攻めてきた。風魔忍者達により抑えられた。 小太郎は前藩主氏政にその働きが認められ脇差志津三郎を賜わる。そこへ稚小姓が血相を変えて走ってきた。 皆川源太左衛門と和田美作守宗治の二人が首を胴から切り離され、ご丁寧に首だけ後ろを向かされて座っていたのである。
伊賀者が!小太郎は思い出した。戸口にうずくまっていた足軽を。群集の中のあの男だ。 蜘蛛七より数段まさったやつ、とすれば伊賀四十九流の一、上忍服部半蔵! ひい!誰かが悲鳴をあげた。今ごろになって二人の首が転がり落ちた。
皆川山城守広照が投降したのは、その二日後である。伊賀忍法に畏怖したことが決意を早めたのは言うまでもない。 守将の裏切りは篭城軍に動揺を与えた。そこで会津の伊達政宗を引き入れるために、氏直の娘、鶴姫を輿入れさせようということになった。 鶴姫はただちに黒川城に送りとどけられることになる。護衛はもちろん小太郎である。
小田原城内に奇怪な噂がたった。風魔小太郎めは鶴姫さまを、正宗に渡すのが惜しくなったそうな・・・。 伊賀者の仕業である。氏直は激怒し小太郎を呼び戻す。しかし小太郎の従容たる態度に、氏直は疑いを晴らした。 鶴姫の一行は数日後に無事会津黒川城に到着した。
が、鶴姫は伊賀者の手に掛かり自害に見せかけられ殺されてしまう。 酒を喰らうて眠ったばっかりに・・・、小太郎の部下、炎の陣十郎は慙愧にかられた。
その後、政宗は秀吉の下へ向かう。こうなっては北畠信雄と家康に謀反の疑惑を持たせるしかないとなり、策を練ろうという時に、 氏直から武蔵の忍城に向かえとの指令がでた。いまさら忍城を・・・。不審に思ったが氏直の前である。小太郎はなにものべず、 忍城へとんだ。
小太郎が不在となってから、時を見計らったように松田尾張守憲秀の娘、雪姫がさらわれてしまう。さらったのはかつて湯女で小太郎に シメられた牢人たちであった。
忍城から戻った小太郎は、さっそく雪姫の居場所を突き止め救い出した。小太郎は雪姫の兄であり友人である左馬助に荒牧弁九郎以下、 牢人たちを突き出した。弁九郎は雪姫がさらわれた時に警護に就いていた者である。
雪姫誘拐は、雪姫の父である尾張守憲秀と嫡男笠原新六郎が、頑迷な左馬助を翻意させんがための苦肉の策であった。二人は謀叛人 として捕らえられ、徳川家康との内通を自白した。
ここに来て家康から氏直に、開城すれば伊豆、相模を安堵とするという和議を申し入れてきた。家康の娘を夫人に迎えている氏直が、 その勧告状に心動かされるは当然。反対の声も多かったが、ついに和議の意あることを申し送ったのである。
総廓の包囲が解かれ、東西の門が開かれると、人々はどっと流れ出した。左馬助、雪姫、小太郎の三人は松田尾張守の屋敷にて時を 待っていた。本丸では氏直の太刀が閃く。尾張守憲秀の首がとび、拭いもあえず新六郎の頸すじへニノ太刀が走った。
氏政の元へ曲者がきた。曲者は斬りつけられたがなんでもない書類を鷲づかみにし、逃げた。こやつ、何を盗りにきたのか?異変と聞き、
駆けつけた小太郎、板部岡江雪斎は首をかしげたが、すぐに見当はついた。秀吉と和議を結んだ誓書、本領安堵状である。
敵が囲みをといたので、北条の軍勢は諸方へ散っている。今、小田原城を守っているのはただの紙切れ、本領安堵状だけだ。再び 盗みに来るにちがいない。小太郎は隣室に控えた炎の陣十郎に見張りを命じ、安堵状を千鳥の立ち姿をかたどった千鳥棚の中に隠した。
その後、夜明けまで警戒に当たっていた炎の陣十郎は、昼に湯女風呂へ向かい、そこで雪姫をさらった牢人達にからまれた。いかに 四天王の一人とはいえ、多勢ではかなわない。白昼では忍術の一つもつかいようがなかったのだ。だがそのとき陣十郎の体は何者かに 助けられた。助けたのは服部半蔵。陣十郎は半蔵に仲間になるよう迫られる。
翌日、遠雷のような轟音が鳴り響く。講和は破れた。氏政は江雪斎に安堵状を持ってくるように命じたが、なくなっていた。 あの席にいたのは氏政、江雪斎、小太郎と風魔四天王だけなのだが・・・。小田原城総廓は再び喊声に包まれる。多勢と寡兵、 味方の応戦はにぶい。一方的な殺戮の前に、氏直は降伏の意を固め徳川の陣へ投じてしまう。
戦は終わった。氏政、氏照は切腹。氏直は紀州高野山へ配流となり、家康は希望通り関東八ヶ国の主となったのである。
小太郎は死ぬつもりだった。本領安堵状の紛失が重大な意味を持つとすれば、千鳥棚を隠し場所とした小太郎に責任がある。生きては おれぬ。風魔の武辺は、主家に殉ぜよと教えられている。小太郎は脇差を抜いたが、そこへ雪姫があらわれ止められる。小太郎は脇差を 投げ捨て、ひしと雪姫を抱いた。
氏直が紀州へ向かう途中、小太郎は左馬助に家康を斬ると断言。北条家あっての風魔一門、北条家の血をひくものとして、なさねばなら ぬことがあるというのだ。そんな一行をよそに、群集の中に姿を消した一人の姿があった。炎の陣十郎である。
陣十郎はあせっていた。安堵状のありかを知っていたのはわずかに七人、網をしぼれば陣十郎はまぬがれない。服部半蔵に会いに行くが 姿をくらまして行方知れず。家康への直訴を決行したが、乱心者として処置された。裏切られた。陣十郎は絶望にまみれ、身を起こす気力 もなかった。
やがて陣十郎を憐れむように見下ろす三人の姿があった。風魔三天王である。陣十郎は裏切り者として捕らえられ、火焙りの刑が決定 する。ここで小太郎は提案として石垣山城と共に焼こうと言った。石垣山城の警備は手薄だった。小太郎は陣十郎を抱きかかえ城へ潜入。 火柱が上がるその地獄火のしたで、小太郎は陣十郎を逃がしてやるのだった。二度とわれらの前に現れるなよと・・・。
雪姫の元へ向坂甚内と鳶沢甚内が来た。雪姫の侍女おつると鳶沢陣内を一緒にしてくれないかという話だった。その最中、後ろで気配が
した。またあの牢人達だ。一人は向坂がとびかかり、もう一人は逃げ鳶沢が追ったが逆に牢人達に囲まれてしまう。そこに現れたのは唐人
の十官だった。十官は鳶沢に白竜号爆破の疑いをかけるが、人違いだとわかり、疑いは向坂へと向けられる。十官と闘わざるを得なく
なった向坂だったが阿古女に助けられた。
徳川家康は小田原を捨て江戸に腰を据えた。服部半蔵以下伊賀者たちは旗本にとりたてられる内意をうけた。半蔵はささやかな酒宴を 催したのである。そこで油断した蜘蛛七を小太郎はさらってきて十官の前へ突き出した。ようやく真意を判然とさせた十官は蜘蛛七を拉し 去った。
小太郎は雪姫のいないのに気がついた。牢人たちの姿も無い。みなが十官と阿古女に気をとられている隙に雪姫をさらったのである。 牢人たちは紅竜号を乗っ取り、堺へ行こうというのだ。次々と乗組員を斬り捨て紅竜号を乗っ取った牢人たちはすぐに出航させようと 残った水夫に碇を巻き上げさせたが、水夫たちが倒れた。背中にはするどい手裏剣が、風魔だ。
その黒装束の姿に水夫、牢人たちが襲い掛かる。折り重なって倒れる男たち。だが多勢に無勢。ついに忍者は弁九郎の前に倒れる。そこ へ小太郎たちが現れ、ふたたび船上に血しぶきが上がった。弁九郎以下牢人たちを斬り捨てた。倒れた忍者のもとへ駆け寄る小太郎。 陣十郎ではないか!せめてもの罪ほろぼしと、陣十郎は息を引き取った。雪姫は無事助けられた。
皆川弥三郎尚高の死体が竹藪に遺棄されていた。額には天誅とあった。「天誅とは大きく出たのう」周りを囲んでいたのは伊賀者たち、
元北条家臣の皆川を監視していたのだが、風魔四天王の一人、蠍ノ剛蔵に殺られたのである。半蔵は部下の不甲斐なさに叱咤しながらも、
連れ去られた蜘蛛七を救うことにした。
蜘蛛七は縛られ、紅竜号の船尾に繋がれて海面を引っ張られていた。鮫に食わせようというのである。ひそかに海中を進む影があった。 伊賀忍法《水軍竜変》に用いる潜水船だ。伊賀者たちは交戦の末、蜘蛛七を救うことに成功した。
一方、くノ一変化により女となった半蔵は小田原城へ潜入、北条左衛門大夫氏勝の愛妾久乃に近づき、氏勝が金の為にいまだここに居る ことを突きとめた。北条の隠し黄金。半蔵が糺明しようとしていたのは氏勝の謀叛の疑いだったのだが、予期しなかったことである。
半蔵は脱出の際、もう一人の侵入者を見つけた。忍びではない。こいつを身代わりにしようと、その侵入者の頭上を 飛び越えながら、黒い粉のような無数の虫をばら撒いた。蛭である。その侵入者は必死に耐えたが、血を吸い終わった蛭は追手の足軽 たちの頭上へと落ちてゆく。侵入者は見つかり捕まった。侵入者は向坂甚内であった。
氏勝に尋問を受ける甚内。こやつ黄金を狙うてきたのか…。甚内は首から上だけ出した状態で土に埋められた。甚内が捕らえられた と聞き、阿古女は小太郎に助けを求めつつ、甚内救出へ向かう。
氏勝は戦乱のどさくさにまぎれて、北条家の二十余万両を濠の底へ沈めていた。氏勝は本丸との堺の濠に面したニノ丸一睡亭の床下を 掘り進め、濠の内壁にまで及んでいたのである。だが、いざ引き上げるとなるとその深さが困難となった。そこで甚内を 使おうというのである。――黄金を取り出したら助けてやる。威された甚内は引き受けることとなった。
闇の中を進む甚内、松明に照らされ岩にささるクサビを見つけた。これを抜くと、水圧で岩が崩れ激流に溺れてしまう。もはや逃げ道は ない。一か八かだ。甚内はクサビを抜くと、岩が動いた。水が唸り、凄まじい奔流がなだれこんだ。甚内は岩壁へ叩きつけられた。
阿古女が甚内を探して濠の水に身を沈めたそのとき、奔流の渦が水中に起こった。激しい水勢に巻き込まれる阿古女。その奔流が動きを やめ、攪拌された汚濁が澄んでゆくあとに甚内の姿を見た。(甚内さま!)(おお…阿古女か!)甚内の手をつかむ。が、甚内は拒んだ (見ろ、あれだ)大きな箱が見えた。鎧櫃だ。二人の胸にふるえが走った…
果たして二人は二十万両を手にすることができるのか、それとも…!?
一番の読みどころは、火薬庫を爆破しようとした伊賀者を追って蜘蛛七たちの隠れ家へ乗り込むところだろうか。話もまだ序盤で、伊賀 者がこれから小田原を攻めようってときに、逆に風魔の首領である小太郎にいきなり攻め込まれてしまうのだ。伊賀者の間抜けぶりも 見ものだが、小太郎の大胆ぶりも見ものである。
そもそも小太郎は首領であり上忍であるわけだから、自ら手を下す必要もないので あるが、そこをあえて自らが出て行ってしまうというところにインパクトがある。まあ小太郎が主人公だから小太郎が出てこないと話に ならないのだが、このあとを読んでいってもらうとわかるとおり、小太郎がこのような活躍をするシーンが、これ以後あまり出てこない。 他の登場人物が活躍して、最後にオイシイとこだけもって行く感じ。話としてはちょいと寂しい気もするが、これが本来の姿なのだろう。
ということで、よく働く小太郎の部下、風魔四天王である炎ノ陣十郎、蠍ノ剛蔵、疾風の銀平、狂ノ左次馬の四人について。上巻で 目立つのは炎の陣十郎のみ。他の3名についてはあまり出てこない、と言っても風魔忍びとしてセリフ有りで登場してくるの小太郎と この4人だけだからね。
炎の陣十郎が風魔を裏切り、家康に取り立ててもらい武士になろうという心境について。なぜか忍者小説に出てくる忍者は、忍者である ことに引け目を感じて侍になりたがる奴が多い。なぜだ?俺なんか、なれるもんなら今すぐにでも忍者になりたいぐらいなのに。
忍者はたしかに不安定(常に仕事があるとは限らない、無いときは農作業をしている者がほとんど)、低収入(忍びの利益は全て上忍の 懐へ入る。そこから振り分けられるが、下忍は最低限の生活ができる程度の所得)、危険(任務中にいつ殺されてもおかしくないのは 想像に難くない)、きつい(日々の鍛練もさることながら、耐え忍ぶことこそ忍びの本分。さほどに甘くない) など、現代ならばやりたくない職業ワーストに余裕で入りそうな条件がそろっている。
それに対して侍は、安定(年貢を食らっているので食うに困らない)、高収入(だいたい良い家に住んでいる)、由々しき事態が 起きなければ楽(時代劇でよく聞く、であえ、であえ!の掛け声と共に飛び出すまで何してるのか?)など、好条件がそろっている。 危険度としては、戦なら先陣を切って出陣、命を懸けて主人を守る ということが大前提なので、忍者とあまり変わらないと見るが、社会的地位も高く忍びと対極にあると言っていい。
しかし、忍びは己の技を極限にまで磨き上げ、己の能力を高めることのみに喜びと生きがいを感じる愛すべき奴らではないか。 なに理性を持って侍とかになろうとしてんだ。忍びが聞いてあきれるぜ。
だが、人には人それぞれの生き方ってのがある。俺も今の仕事、給料安いから辞めたいんだけど、再就職とか車のローンの事とか 考えるとなかなか辞められないのが現状だよね。 人は何かを抱えて生きているもんなんだよ。それらを抱えながら生きて行くのか、全てを捨てて新たに道を切り開いて行くのか。 過去を捨てようとした陣十郎の決断は、生半なものではないと、俺はそう考える。
今、人生に一番必要なものは何だろう。と、そう考えさせられてしまった今日この頃。一つの忍者小説でここまで考えさせられるとは 俺が天才なのか、ただの考え過ぎか。人は歩むのを止めた時、挑戦することを止めた時に衰えてゆくのだという(猪木の口調で)。 俺はこれからも人生の定義を求める為に、忍者小説を読み続けるだろう。そして行動するだろう。
| なんか手裏剣とか売ってたよ!伊賀流忍者店! |
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