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異形の者 甲賀忍・佐助異聞



【主人公紹介】

≪こぶ≫右こめかみから上が膨らみ、左手が赤子のまま育たない異形。細川家子飼いの乱波である丹波の気まぐれにより拾われ、 命を繋ぐ。だがその身に忍びの天稟を見出され、幸か不幸か、丹波によって木偶人形となるべく忍びの技を仕込まれるのだが・・・・・・


【ショートカットストーリー】

⇒ コメントの術

細川家に飼われる乱波の丹波は山中で、母親の死体の傍で泣き叫ぶ赤子を見つけた。丹波は赤子を拾った。仏心からではない。興味本位で ある。しばらくして赤子は異形となった。思わぬ姿に虚を突かれた丹波は新たに興味を抱き、飼うことにしたのである。

赤子はこぶと呼ばれるようになった。死ねば川にでも投げ捨てればよい。丹波はこぶにろくに手も掛けなかったが、こぶは自らの生命力 によって赤子の時期を生き延びたのである。丹波はこぶが喋ることを許さなかった。自分の都合の良いように躾けるため、殴り続けた。 こぶは言葉を失った。

ある日、丹波はこぶに徳利を持って来させたとき、こぶの忍びの天稟を見た。一流の術者である丹波になんの気配も感じさせなかった のである。一朝一夕で出来ることではない。丹波はこぶに忍びの技を仕込むことにした。

織田信長、本能寺にて自害。明智の謀叛である。細川藤孝と明智光秀の付き合いは古い。藤孝としては明智に荷担せぬ旨の誓書を送る 必要がある。細川子飼いの乱波として丹波はその辺りに自分の役割の当たりを付けた。

今のうちに仕込まねば使えぬ。丹波は息吹山奥に住む白雲にこぶを預ける。白雲は丹波も一目置く忍びであった。

白雲はこぶを憐れに思った。逃がすことは容易い、かくまうことも易い。だが、白雲の寿命が丹波の執念を上回るとは思われない。 死んだあとに残されたこぶに丹波の鬱積が向けられるのは必然である。白雲は己の持てる技の全てを伝えるしかないと考えた。

己の全てを叩き込む。死ぬほどのものになろうが、耐えきればその力で、いつの日か丹波の呪縛を振り切ることが出来るかもしれぬ。 そんな思いを胸に白雲とこぶの新たな生活が始まったのであった。


五年後、天下は秀吉へと傾いていた。細川藤孝は剃髪して隠居し、忠興が細川家の当主となった。忠興に呼ばれた丹波は女娘の忍びは おらぬかと問われる。忠興は九州征伐に際して、妻の玉子が心配でならなかったのである。

「関白様は女好き故」玉子は美しい、髭鼠の閨にはべらせるなどもっての外、不測の折には殺さねばならぬと。仲間を持たない丹波には 当てがなかったが、ふと、こぶのことを思い出した。

こぶは十三となり、白雲に仕込まれ、異形はそのままに逞しく成長していた。丹波が現れた。白雲はこぶに小太刀、來國次を差してやった。 持って行けと。(心を育てよ、死ぬな、生きよ)白雲は涙を拭うのも忘れ、こぶを見送った。

忠興に気に入られたこぶはさっそく役目についた。天井裏から見る玉子は、こぶの目には輝いて映った。 月を越えると、忠興は九州へおもむいていった。こぶは玉子を観続けた。

玉子はキリシタンである。玉子の信仰は強かった、こっそり屋敷を抜け、修道院に行き、教えを請いた。こぶは、これは不測の事態なのか と考えたが、見守ることに決めた。

やがて発動されるキリシタン禁止令及びバテレン追放令。関白が禁令を出した以上、そのままでよいわけがない。だが玉子は修道院に使い を送り、受洗の願いを出した。圧迫されれば、逆に燃え上がるのが人情というもの。玉子は洗礼を受け、まことのキリシタンとなったので ある。

忠興が九州から帰ってきた。当然問題となったのは玉子の信仰である。忠興はやめさせようとするが、反発する玉子。そこへ運悪く、屋根 へ上がっていた下男が足を滑らせ庭に落ちてきた。忠興は怒りに任せて、下男の首を刎ねた。忠興はこぶを呼び出し、その首を玉子の膳に 載せるよう命じた。玉子は眉ひとつ動かさなかった。

忠興は丹波に責任を問うた。丹波は上手くあしらい、こぶを存分にさせるということで責任を逃れた。忠興はこぶを動かなくなるまで蹴り、 踏みつけた。

忠興はこぶを担いで去ろうとする丹波に、大阪城へ潜るよう命じ、そして間をはかったように、意外な言葉を付け加えた。「こぶは 置いて行け」虚を突かれた。忠興はこぶを本当に欲しがったわけではない。丹波をやり込めたかっただけなのである。丹波はすさまじい までの怨念を残してその場を去るしかなかった。


キリシタン禁令も解き、秀吉はいよいよ北条討伐を宣言した。細川家も秀吉に従軍し、こぶは忠興と幽斎(藤孝)を繋ぐ伝令として忠興の 近くにあった。

先に小田原へ入っていた丹波は、伝令に走るこぶの姿を見つける。久方ぶりの再開。(遊んでやるか・・・・・・)湧き上がる 嗜虐心。丹波はこぶに近道を教えてやった。迅速にことを済ますことも肝要。もっともな言葉を並べる。

こぶは承知して丹波の指した道を行く。途中、現れた男に斬りつけられる。丹波の予想通り、こぶは風魔忍びの縄張りに入り込んで しまったのだ。

放たれる手裏剣をかわし、小石を投げつけ、男の左目を潰すこぶ。白雲に習った印字打ちである。男は頭上二間の枝へと飛び移るが、こぶ の姿を見失った。こぶは男のさらに上、三間半を飛んでいたのである。馬鹿な!驚愕の丹波をよそに、男を始末したこぶは去っていった。

油断した丹波は、駆けつけた風魔たちに囲まれるが、自らの力を誇示するがことく斬り捨て、危機を脱した。その後、北条はさしたる抵抗 もないまま、氏政、氏照の切腹をもって幕を閉じた。


こぶが十八歳となったこの年、秀吉は朝鮮半島への出兵を決定した。忠興も当然のごとく出兵となったのだが、やはり気になるのは玉子の ことである。忠興はこぶに以前と同様に玉子を見張るよう命じ、

久方ぶりに、こぶの天井裏生活が始まる。しばらくの平穏な日々も、ある日届けられた紙切れ一枚によって破られた。秀吉からの 花見の誘いである。

主命を果たすときが来た。こぶは迷った。純粋なこぶの心は割れんばかりの痛みを伴う。それでも、秀吉がどのような 所業に及ぶかを知りながらの玉子の微笑みに、こぶは待ってみることにした。

玉子が細川家を出ると、こぶも行動を開始する。玉子よりも先に大阪城へ入ったこぶは、城詰めの忍びの目をかわしながら玉子を見守る。 秀吉は玉子を一目で気に入り、広間から山里丸へ場を移そうとした。女娘にとっては危険な場所だ。

玉子は天井を仰ぎ十字を切った。こぶは動けなかった。玉子が仰いだその先にこぶは潜んでいたからである。こぶは何かに突き動かされる ように小室へ下りると、障子を細く開け、来國次を鞘ごと玉子の足下へと滑らせた。そのかすかな物音に、秀吉と玉子は立ち止まった。

(神の、救い手)玉子は見覚えのある小太刀を拾い上げ、自分の守り刀であると告げると、秀吉は細川家の覚悟のほどを読み取った。 己が元へ登るとわかっている妻に小太刀を与えるということは、何事かあればただでは済まさぬとの意思表示と考えたのだ。

秀吉を退散せしめるこぶの放った妙手。玉子は辺り構わず十字を切った。玉子の尊厳は守られたのである。

玉子が無事に戻ったとの知らせに、細川家では喜びで溢れかえる。玉子はこの刀を忘れていなかった。かつて忠興に斬り飛ばされた下男 の首を玉子の膳部に載せた乱波の腰にあった一振りであるということを。何気なく声を掛け、こぶを呼び出した玉子は来國次を返した のであった。

ほどなく忠興は朝鮮半島から帰還し、たびたびこぶは玉子に呼び出されるようになった。その頃、丹波は朝鮮半島で加藤清正の守る 西生浦城にいた。丹波は忠興に日本への帰還交渉に失敗し、逆に忠興の怒りを買って清正の元へ送られたのである。

(おのれ忠興め)丹波は戦い続けるしかなかったが、しばらくして秀吉は死に、清正の元に撤退の指示書が届く。待ちに待った帰国 であるが、丹波を乗せた船は明水軍に遭遇し、沈められた。


全ての兵が半島を脱し、やがて天下は家康へと傾いた。家康は上杉景勝討伐を決定。石田三成の誘い出しである。

だが三成にまず狙われるのは、三成に恨みを買っている細川家の田辺城であり、加藤、黒田、細川等の妻子は質に盗られるであろう。 あわれではあるが、玉子には死んでもらうしかあるまい。忠興は父幽斎に田辺を任せると常の進軍を決めるのであった。

こぶは玉子の前にいた。「そなたは、いつでも、見ていてくれるのですね」声が少し湿っている。こぶは笑って見せたが、玉子の頬に一筋 の涙がこぼれる。

楽しければ笑えばよい。苦しければ己を呼べばよい。こぶは常に玉子を見ている。守っているのだ。涙など、いらない。 なにかしなければ!こぶは飛び上がった。宙で身体を返す。こぶは動き続けた。

やがて下人や奥仕えの者達まで集まって、喝采を送り賑やかになった。こぶは玉子の微笑みを見て、松の枝へと飛び上がりながら止まれず 池に落ちた。

笑いが渦を巻く。皆笑った。こぶも笑った。大事の前のやけに楽しげなひととき。皆の笑顔が出そろった、最後のひとときであった。

家康に遅れること九日、忠興は会津へ向けて出発した。物見のため、先に出発していたこぶは忠興軍と合流した。忠興軍は古河に到着。 こぶが光千代との繋ぎをとって、忠興の元へ返書を届けたとき、玉子からの書状が届いた。

その内容は三成の動向と玉子の覚悟のほどが書かれていた。玉子は自分の行く末を解っていたのである。忠興にも悲しむ心はあるらしい。 こぶの脳裏に微笑む玉子の姿が浮かんだ。

これでこの夜のこぶの役目は終わるはずであったが、もう一つ紛れていた書状を忠興が目にしたとき、忠興は絶句した。そこには かつてよく見た筆跡の文字が!丹波の字だ、丹波が生きていたのだ。

丹波如き下郎に玉子がなぶられようなど、あってよいことではない!忠興は嫉妬により胸を叩いて苦しんだ。忠興は気づいた。なにが当主。 なにが越中守。今際に望んで妬心を覗かせ、初めて妻の尊さを知るとは、一体なんの業であろう!

「救うてくれ。こぶよ、お玉を、安らけき浄土へ・・・・・・」こぶは大きく頷き、幕内から消えると走った。 (女神の今際を、穏やかに)ひた走るこぶにはその思いしかなかった。

果たして!こぶは玉子を救うことができるのか!丹波とのしがらみを断ち斬ることが出来るのか・・・・・・!?



【コメント】

⇒ ショートカットストーリーの術

主人公ってやつは、大概カッコイイ奴とか、最初から強かったり何でも出来たりする奴が多いが、こぶは違う。

こぶは外見的にはここで言うカッコイイの概念には当てはまらないし、登場では死際に丹波に見つけられ、母親の血を与えられることに よって、まず生を繋ぐ。ぎりぎりのスタートである。

そして成長してみれば、その身体は不具。今で言えば身体障害者である。だが障害者といっても政府からの保障があったりする時代でも ない。同じ生を繋ぐ者として健常者も障害者もない。

そんな中で、意外に才能を持っていたこぶはどんどん強くなって、最終的に敵となった命の恩人である丹波を打ち破るという展開である。

序盤でのこぶと丹波の不思議な関係。これが他の忍者小説にはない部分で意外と引き込まれる。こぶに粥をやる丹波。別に食わせてやる わけでもなく作るだけで、腹が減ったら勝手に喰らえというもの。

丹波が鍋一杯の粥を作って、十日ほど家を空けて帰ってくると、糞まみれのこぶと腐った五分の一ほどの粥があった。丹波の予想では粥は 三分の一、こぶは死んでいると見たのだが、あったのは生きる為に腐った粥を喰らい続け、腹痛に苦しむこぶの姿である。 その姿をみて笑う丹波。ドSの極致である。

ドSの話はいいとして、こぶはその姿が異形という理由で玉子の監視役に選ばれ、役をまっとうして行く。玉子がこぶの成長しない左腕を 手に取り、こう言うシーンがある。

人は生まれたその日より、罪を重ね汚れて行く。だがこの手は生まれたままの姿で汚れを知らず、もっとも神に近いものだと。異形で ある頭、目、口はその手を授かるために背負う十字架であると。

なるほど、そういう考え方もあるものかと感心した。神、十字架などの単語がでてくるので非常に宗教的な考えに寄っているが、 自身がもし障害を持っていたとして、納得できる考えがあるとしたら、この考え方はかなり有効的だと思える。

なにも宗教に入りましょうと推奨しているわけではない。物事は考え方一つだ。自身の不具を聖なる物とそのリスクに置き換え、精神的に 美化することによって、心に安定とゆとりを与え、肉体的負担によるストレスを軽減できる。

そう考えれば宗教というものも良く出来たもので、実際都合の良いように考えているだけなのだが、人を善の方向へ導くには十分である。 まあ結局こぶは、身分が上の玉子に対しての体面を気にしていただけで、不具のリスクは気にもしていなかったわけだが。

この話で強く印象づけられるものはこれ「弱きものは死ぬだけ」である。こぶはたまたま異形であっただけで、普通の人と変わりはない。 自らの生命力によって幼少期を生き延び、生きる力である忍びの技を手に入れた。

これが異形でない普通のこぶだったなら、どうであっただろう。まず赤子の時期で丹波に興味を持たれずのたれ死んだかもしれない。 生命力の強さは異形とは関係ないし、異形でなければ玉子の監視の仕事は来なかっただろう。だが異形でなければ肉体的リスクがないので もっとすごい技を身に付け、別の道を歩んでいたかもしれない。

どちらにしても本人の努力と運?次第ということになる。運で人生の大半が決まってしまうのは不本意ではあるが、現実は否応なしに 不公平を突きつけてくる。

単純に金持ちの家に生まれればそれなりの幸せはあるし、貧乏な家に生まれても、幸せといえば幸せな家もあるし、 悲惨な家もある。生まれる時に顔は選べないし、性別も体格も選べない。これは運以外のなにものでもないではないか。

だがそれは自然の摂理というもの。この世に生を受けたものは、その時に与えられた条件を持って生き抜いていかねばならない。 弱き者は淘汰され、強き者だけが生き残る。

今の世の中では、弱き者を守る為に法律などが整備されているが、結局のところ本人に 強い意志がなければその法律は意味を成さない。この世には強さが求められているのだ。

肉体の強さが無ければ心の強さを求めよ。心の強さが無ければ肉体の強さを求めよ。両方あればそれに越したことは無い。 だが両方無いのは駄目だ!生きる為にどちらかは手に入れる努力が必要だ。

こぶは最終的には、周りからの信頼も手に入れ、逆に業に溺れ全てを失って行こうとする丹波と決闘することになる。

しびれるね。カッコ良すぎるぜ。丹波自身と白雲に教えられた技によって丹波を仕留めるこぶの姿。

最後に一閃交えるシーンは時代劇ではかなりベタな感じではあるが、期待を裏切らない痛快さがそこにはある。

強き者は生き残り新たな人生を歩むのである。最後の互いの一言には万感に去来するものがあった。


なんか手裏剣とか売ってたよ!伊賀流忍者店!

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