公儀隠密の鶉平太郎が薩摩から戻り、目にしたのは自分と結婚を約束したはずのお千の祝言であった。怒り狂った平太郎はお千を刺し、 何人も斬り捨て逃げた。
平太郎は絶望した。自分を裏切った恋人に、自分の忍者としての存在価値に対する幻滅にだ。
想像を絶する苦労をして、酬いられるものは何だ?十五俵一人扶持。彼の待遇は低い。生まれてくるのが二百年遅かった。
そこへ突然、この世に存在するはずのない服部半蔵が現れる。半蔵は平太郎を戦国時代に連れ戻してやろうというのだ。 にわかに信じられぬ平太郎であったが、今の状況を考えれば、もはや半蔵に頼るしかなかった。
半蔵と平太郎は壁の穴に入り階段を下る。だが途中で階段を踏み外し、半蔵の予想外の所へ出てしまう。
何処ともわからない場所を さまよううちに半蔵は白骨化してしまい、そして平太郎が見たものは、石田三成に攻められ炎上する江戸城。猿飛佐助と霧隠才蔵に救い 出された、お千にそっくりな千姫とちゃちゃ姫であった。
平太郎は深手を負った才蔵の運び役として連れて行かれ、ともに石田の陣へと入るが、三成の叛意により襲われ、千姫を連れて脱出。 才蔵は死に、合流した佐助に真田の陣へと連れて行かれる。
真田忍びの一員となった平太郎は佐助らとともに、家康処刑のごたごたに紛れ、ちゃちゃ姫を救い出し、 佐助らは蟄居を命じられ紀州の九度山にいた幸村のもとへ、平太郎はちゃちゃ姫と大阪城へ向かう。
大阪城で平太郎は豊臣秀吉を見た。噂どおりの猿面である。 さらに平太郎はお市の方の草履取り吉法師と出会う。吉法師によれば、お市の方は織田家の出身だというのだ。 織田といえば織田信長。だが、まだこの時代に現れていないが・・・・・・
そして吉法師が語る、西軍と東軍がぶつかるのにふさわしい場所は・・・・・・平太郎は思い出すように閃いたのは、関ヶ原! 関ヶ原で戦えば石田が負けるのか、西軍が負けるのか。
平太郎はお市の方から真田幸村への書状を頼まれ、幸村へ関ヶ原の相談がてらに九度山へむかう。
幸村に会った平太郎は伊賀鍔隠れにひそむ忍者一党を仲間に引き込むための使いを頼まれ伊賀へ向かった。 鍔隠れ一党と会った平太郎は、一党に取り入るため服部平太郎と名乗るがそれが功を奏した。
一党は掟に縛られていたのだ。東国から服部という男が訪ねてくる、そのとき一党が世に出るときだと。
鍔隠れ一党を仲間に引き入れた平太郎らは真田の書状をみた。 関ヶ原で西軍が東軍に勝つには、西軍が東軍に変わること、即ち東軍をやり過ごして、西軍が東に廻ることだとあった。
真田は鍔隠れ一党に東軍を誘い出すための陽動を依頼しているのである。 だが気がかりなことがあった。松尾山である。平太郎は思い出した。小早川中納言秀秋。だが頭領百地丹波守はこう言った。
「明智日向守光秀」
丹波は明智の忍者が松尾山を調べているという情報を得ていた。両軍決戦の場が関ヶ原ときいて思い当たったのだ。
しかもその忍者は鍔隠れの掟を破り、谷を出て行った裏切り者、石川五右衛門だという。
明智光秀に石川五右衛門、東軍西軍のかけひきもさることながら、関ヶ原の戦での大事はこの二人の動き。 松尾山をとられてはならない。平太郎と鍔隠れ一党らは勇んで伊賀を発つのだが・・・・・・!!
もしも自分が戦国時代に生まれていたら・・・・・・。そう、時代小説をたしなむ者なら誰しも一度は考えるであろう妄想である。 そして、何気に活躍してしまう自分を想い浮かべるのだ。これが楽しいったらありゃしない。現実逃避の醍醐味である。
嫌な事があっても、妄想に逃避することでストレスを解消するという、他人から見れば悪い癖でもあるが、本人がストレスを解消している というのだから、悪いことではない。
だが本当に戦国時代に生まれていたとしたら、 俺なんか雑兵として、すぐにたたっ斬られてこの世とお別れすることになっていたに違いない。ま、妄想の話だからね。 自分に都合の良いほうに考えていたほうがいいに決まっている。
そこで、現実的なことは考えたくないが、実際今の自分という人間が 戦国時代に放り込まれたら、どこまで通用するものなのか。そっちの妄想も有りだな、と考えさせられる今日この頃である。
この魔天忍法帖も、そんな妄想から書かれたものだろうと解釈した。
主人公の鶉平太郎は普通の隠密。隠密の仕事自体は普通とは言えないが、とにかく忍びの流れを継ぐ普通の隠密である。 そして給与が安い。ここは俺と同じだ。そんなことはいいとして、平太郎は恋人のお千を旗本に取られてしまう。
そりゃあ、お千としても、お千の親としても貧乏人よりは金持ちのほうがいいわな。時代も時代だし。それで平太郎はキレてお千 もその親も殺してしまい、部屋に引きこもって嘆く。
生まれてくるのが二百年遅かった―――。わかる、わかるぞ!その嘆き!! 俺は悪くないんだと、世の中が悪いんだと、もっと早く生まれてりゃこんなことにはならなかったんだと!どうにもならんので、 現実逃避したという究極型である。
だがここで普通と違うのは、なぜか服部半蔵が現れて過去へ連れて行ってくれるというところだ。過去へ逃げ込んで見た世界は、 史実とは微妙に食い違う世界。そこで活躍するのかと思えばまた微妙な感じで、ばっさばっさと敵を斬り倒すなど一切なし。
大まかに覚えていた歴史の流れを上手く利用して生き残るというセコイ活躍。なんだかんだで服部姓を名乗るよう祭り上げられ、 自分はあまり何もせず、仲間は犠牲になっていくが、なぜだか平太郎にとって良い方向へ話は進んでゆく。
なぜそんなに都合よく話が展開していくのか。それは、これが小説だからと言ってしまえばおしまいだが、俺もマサカとは 思っていたが、この話はそう、○オチなのです。
ええ〜っ、まじかよ○オチかよ!そうです○にはとある漢字一文字が入ります。 もくじの題を見れば、大体の人は分かります。漫画でも使われてました。有名なところでいうと「ハイスクール奇面組」とかです。
今でこそ○オチといえば、ちょっとガックリくるが、この作品が出されたのが1965年だと書いてあるから大分先を行っている。 当時は新鮮だったのかもしれない。
そう考えると、史実と微妙に違う世界とか、有名人が片っ端から出てくるところとか、 身近に知っている人物が出てきたりとか、○と考えると納得がいく。○って見ると結構そういうもんだよね。 自分の生活してる町とちょっと違ってたりとか、芸能人出てきたりとか。
結構良く出来てた話だと思える。でも○オチのことは考えずに読んでいただきたい。そうじゃないと面白くなくなるからね。
それにちゃんと、忍者小説として忍者たちの悲哀が描かれている。決して表に出ず、名ある者のために死んでいった哀れなる忍者たちよ!
平太郎が最後に発した最初の後悔の嘆きとは違う、無念の嘆きが印象に残る。
「ひとたび生を得て、滅せぬもののあるべきか・・・・・・」
忍者とは―――改めて考えさせられる作品である。 しかし、まあそんなに長く寝てらんねえよな、とか、ほとんどネタバラしして終る今日この頃であった。
| なんか手裏剣とか売ってたよ!伊賀流忍者店! |
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