九天羽一郎・・・・・・「頓宮党はトコトンやるぜ!」はじめはイマイチだと思ったが、噛めば噛むほど味が出るこの決めゼリフとともに 甲賀頓宮衆を束ねる忍び。忍びのくせに、こそこそと隠れた行動が嫌いな二十九歳。目つきが悪い。
長篠の合戦で織田・徳川勢に惨敗した武田家。武田勝頼は巻き返しを謀るべく真田昌幸を参謀職に抜擢した。 だが、徳川と密通していた穴山梅雪の謀略により、奉行をも解任された昌幸は、自領に帰国するを余儀なくされたのである。
甲斐武田に雇われ、昌幸の依頼で動いていた九天羽一郎率いる甲賀頓宮衆は、昌幸の帰国を知ると、武田家を捨て、慕っていた昌幸の後を 追うのであった。
真田家に雇われることとなった頓宮衆。だが真田家では代々真田スッパと呼ばれる根津飛雲丸率いる忍び衆がいた。忍び同士の摩擦を懸念 した昌幸であったが、羽一郎は顔見知りであった飛雲丸と共闘することを誓うことで決まった。やがて解れゆく紐を結ぶかのように・・・・・・
昌幸には壮大なもくろみがあった。上杉・北条に呼びかけ、さらには武田勝頼を真田領へ動座させ、織田勢を複雑な地形の真田領へ 引き入れ、一気に叩くというものである。
その拠点として注目したのが岩櫃城。岩櫃城は海野長門守の謀叛により制圧されていたが、即座に攻略を開始。ものの一日足らずで 奪還に成功するのである。すべて順調に事は運んだが、ただ一つ不審なことがあった。真田スッパの一人、割田猿王が謎の死をとげ たのである。まさか、甲賀者が・・・・・・。
昌幸と羽一郎は上州の季節風、風炎(フェーン)を利用し、大国火(規模の大きい山火事)を起こして、引き込んだ織田勢を国ごと一斉に 焼き払うという奇策をぶち上げた。その名も上州火焔陣。
だが、昌幸の叔父でもある矢沢頼綱はこれに反発。われらの守るべきものは土地であり領民であると。それを自ら焼いて しまうのは言語道断というのだ。
羽一郎はもとより昌幸派だが、飛雲丸は頼綱派に完全に傾いた。ことは昌幸が真田領へ戻ってきたときから始まった。それまで守るべき ものは限られていたが、昌幸とともに天下の戦略、謀略までもが入り込んできた。
さらに甲賀衆の介入により、真田の陰の部分を一手に引き受けてきた真田スッパにも不透明な部分が増えすぎたのである。一国に二忍なし、 仲間や領民の謎の死を目の前にして、飛雲丸は決心した。
山の民、山家を守る為に厳しい修行に耐え戦ってきた。山は宝、山によって人は生かされている。スッパを修験道の堕落だの、 外道だの誹謗する者もいるが、山や人々を守れずして、なんのための菩薩行、阿修羅修行だろうか。これからは山家のために生きよう。 守るべきは上信十五山だと。
こうした対立は、形となって現れてきた。上州火焔陣の準備で働いていた堀り子衆をはじめ、山の者たちが次々と去って行き、遂には 頓宮衆の仲間、乙音が殺られたのである。
羽一郎はついに類長ヶ峰に忍び小屋を築き、結界を張った。真田スッパに対抗するためだ。ただ一つ疑問としては、スッパらは羽一郎らを 誤解しているような、そう仕向けている者がいるのではないかと・・・・・・。
事態は急変した。武田勝頼が岩櫃城動座の計を拒絶してきたのだ。昌幸は愕然とした。勝頼は昌幸に関する不穏な噂により、重臣たちの 反対に押し切られたのだ。信長を挑発するために、故意に流した噂によって自らの首を絞めてしまうとは・・・・・・。策士、策に溺れる。 まさにこのことである。
昌幸は即座に方針を転換した。織田家への連衡策である。そのため、昌幸に賛同していた者たちを役職から外し、頼綱ら国元派に権力を 移すしかなかった。そこで浮かんだのが羽一郎である。「やむを得ぬ、泣いてもらうしかあるまい」昌幸は羽一郎ら傭忍たちと交わした 約款を引き裂いた。
羽一郎は昌幸の右腕だった男、三十郎から火焔陣中止の件を聞かされた。怒りにみちた羽一郎は、昌幸に直に話を聞くため三十郎の制止 を振り切り飛び出すも、飛雲丸に行く手を阻まれ、引くこととなった。
羽一郎は仲間を集め真相を全てを語った。昌幸は火焔陣を阻止せんとする勢力の謀略に負けた。それはわれらの恥であるという。約款には 敵の伐謀より昌幸を守る義務が明記されているからである。
ここに至っては、もうどうにもならない。だが、忍法とは不可能を可能ならしめる奇道の力を持つもの。おれは それに賭けるぜ、と云い、最後まで仕事を成し遂げることを伝えた。しかし、頓宮衆は日傭の群れ、これは仕事の域を超えているといって、 頓宮衆を解散するとした。
仲間の彼らもまた甲賀郡中惣の一員として、平等な立場であり、真実を知り、自ら進退を決める 権利がある。羽一郎は今までの報酬の金子を全て配った。それを持って郷に帰るもよし、新たな仕事を探すもよし。また、 おれとともに残りたい物好きはそれも仕方がない。傭忍たちは沈黙したままだった。
羽一郎はとりあえず、眠ることにした。ただし、本当に寝てしまったわけではない。 みな寝静まったころ、獣でも移動するような気配が一つ。羽一郎は追跡した。そいつは鳥頭神社に入り、そこにいた男に上州火焔陣の ことを報告しているではないか。あぶり出しに成功したのである。
「やはりおぬしが中入人だったか」 裏切り者を斬り捨てた羽一郎は、もう一人の男に迫るが、幻術にかかり足が鈍くなった。だが、突如飛び出してきた頓宮衆らによって、 男はあっけなく討ち取られた。みな羽一郎が何のために全てを打ち明けたのか、わかっていたのだ。
モヤモヤが一つ解決したところで、羽一郎はみなに甲賀へ帰るよう促してみたが、断られた。 「頓宮衆はトコトンやるぜ!」みな胸を叩いて見せた。
年が明け、頼綱は上州火焔陣の証拠隠滅のために、五百の軍勢をもってして頓宮衆の拠点、類長ヶ峰を囲んだ。だが甲賀の破陣術により 五百の軍勢はあっという間に勢いを失った。
「いよいよあの者らが出てくるぞ。あやつらには破陣は通用しまい」 羽一郎らは緊張の面持ちで麓を見下ろした。
麓では続々と報じられる敗報に頼綱は激怒していた。頼綱は残兵をまとめ、陣を立て直すことにした。夜になれば忍びに有利となるからで ある。そこへ織田家より使者が来たとの報告があった。まさにこんなときに、真田家がボロを出すのを狙ってきたのだ。
不敵な笑みと共に現れた飛雲丸に頼綱は問う。「今夜中に片づけられるか?」「できます。甲賀の破陣の法を破ることが出来るのは、 われらのみにござる」
果たして、羽一郎が最後の戦いで得たものとは?真田家の命運は? 甲賀頓宮衆対真田スッパの全面対決はいかに・・・・・・!?
どの道を選べば正しいのか。人はしばしば人生の岐路に立たされることがある。だが、どちらが正しいということは無い。自分の信じた 道を、ただひたすらに進むしかないのだ。
この話は、真田家内部において、改革派の昌幸派と保守派の頼綱派に分かれての内部抗争という形となる。忍びの頓宮衆も真田スッパと 袂を分かち、対決するのである。
昌幸側の言い分
頼綱側の言い分
何か新しいことに挑戦しようとするとき、ここぞというときには、何かを犠牲にしなければならないのだろうか。少なくとも無傷で 走り出すことはできないだろう。だが今まで積み上げてきたものを守ることも大事だ。それは今までに積み上げてきた人生そのもので あるのだから、易々と捨てるわけにもいかない。
では、いったいどうすればよいのか。自分の思うままに、感じるままに進むしかない。今一番なにをしなければならないのか、なにを したいのか。そう考えて道を決め、突き進むしかない。時には他人とぶつかることもある。そこで生き残った方が、その時点での正しい 道だ。勝ったものが正しい道を決める。厳しいが現実はそういうものだ。
結局、勝ったのは頼綱ということになるが、ここで見過ごしてはいけないのが、昌幸のその後の対応の速さである。それまでの方針を 即座に転換し、邪魔なものは非情をもって斬り捨てたのである。
自分が今何をしなければならないのか。真田という国が存在していく為にはどうすればよいのか。自分の策略が失敗したことへの怒りを 抑えて、織田家の傘下に取り入ろうという、新たに進むべき道を見事に捉えたのである。
これを現代の株取引などに例えると、ここで売っとけば大儲けできたのに、いきなり暴落しやがってこの クソヤロー!みたいな状況下で、即座に損切りして態勢の立て直しを図るという、神技をやってのけているのだ。
ここで普通の人なら、塩漬けにしたりとか、急落したから反発して上がるだろうとかいって買い戻したら、さらに落ち続けて、ふざけんな コノヤロー!と、どツボにはまっていったりするのだが、まあ株の話はどうでもよいとして、昌幸は違った。全て切り捨てた。 見習いたい・・・・・・。
ここでやっと忍びの羽一郎の話になるが、羽一郎も切り捨てられた一人となる。納得のいかない羽一郎は自分の道を信じて、直訴に行く のである。だがここで昌幸も一度変えた道を戻すわけにもいかない。ついに昌幸は飛雲丸に羽一郎を斬るよう命じ、対決の場へとつながる。 そして羽一郎と飛雲丸の道もぶつかる。
飛雲丸の言い分
羽一郎の言い分
羽一郎の主張したことは自分たちの強さは人としての強さであって、自然の獣になることによって強くなる真田スッパらとは違うと。 だが、羽一郎が最後に飛雲丸にかけた言葉は「考えてみてくれ」と、否定しなかったのだ。
互いに譲らなかった道である。道を決めるのは自分自身なのだ。他人が決めることではない。ただ自分の道だけに固執せずに、互いの道を 見て考えてみることも必要なのではないか、そうすればより良い新たな道が見つかったのかもしれない。
そんな含みを持たせながらも、羽一郎たちは去っていくのである。今回、忍者的な話は少なくなってしまったが、本文ではしっかりと 描かれている。岩櫃城攻めや、類長ヶ峰における破陣の術は見ものである。
「頓宮衆はトコトンやるぜ!」忍びとして、人としての強さを見せ、最後はクールに去った羽一郎の真田家における ヒューマンドラマであった。
| なんか手裏剣とか売ってたよ!伊賀流忍者店! |
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