天山・・・・・・天の才を持つ天忍と呼ばれた男だが、服部党から追われる身となり、その姿を消した。全身兵具とも呼ばれ、その手は相手の 身体を貫き、その足は相手の身体をへし折る。 体技のみならず忍具や罠を駆使して、一人で多勢を翻弄する姿はまさに鬼。かなりのマッチョでケンシロウみたいに服が破れる シーン有り。あそこまでビリビリにはならないけどね。
街医師、慈風は病でも怪我でもよく治し、多くの人から慕われていた。妻一人、子二人、与えようとすればするほど与えられる、無限の 幸せ。「ありがたいことだ」だが慈風はこの幸福が長くは続かないことを知っていた。
その夜、慈風は夢を見た。敵を切り裂き、黒い血をほとばしらせる。そしておぞましくも懐かしい硝煙の匂い。目を覚ました慈風は 硝煙の匂いが夢でないことに気が付く。
鉄砲か!戦いを前にして肉体が甲冑のように変化を遂げる。妻と子を連れて逃げるのは不可能と見た慈風は敵を倒すべく外へと飛び出した。 だが轟音がとどろくとともに彼の家は爆破され、妻も子も絶命した。鉄砲ではなく火雷だったのだ。
「おのれ!」慈風は敵を探しひた走った。いつかは服部党によって始末されることは覚悟していたが、自分は生き残り、妻子が殺され ようとは。慈風の身体は怒りに燃え、躍動し、昔の勘を取り戻した。
殺してやる。慈風は死に、かつての服部党荒事師、忍者天山へと姿を変え、闇にむかって走り出していた。
天山は上方支配の服部党の尻尾をつかむため大阪城下へ来た。天山は甚内と名乗る男に出会い、家康暗殺に協力するよう求められる。
天山の目的は服部党地獄の犬どもを殺しまくることである。天山が西で犬どもを殺し、甚内が東で家康を討つ。さらに報償金まで 手に入れられるとあって、天山は甚内に手を貸すこととなった。
甚内が大阪城内に忍び込み、鴉羽刀を突き立ててきたことによって大野治長が動いた。忍びによる家康暗殺計画。治長は密かに傭忍を 募ったのである。
治長から報酬の前金をふんだくった天山は一部を甚内へ渡し、他に雇われた忍びたちと共に隠れ家へと潜伏。 上方支配の忍び飛耳張目に襲撃されるも、隠れ家に火を放った天山は仲間を数人救い出し、脱出に成功する。
その情報は江戸の隠密組同心の屋敷へもたらされ騒然となった。家康暗殺計画によって集められた忍びを鎮圧しに 向かった四十八名の忍びたちが壊滅的打撃を受けたという。だが、最も驚くべき事は忍者天山が加わっていたということだった。
伊賀の三かしら、幽禅、左内、豹三郎らは、張目の網を突破されたときのことを考え、甲賀の鎌子十内に使者を発する。 そこへ二代目服部半三正就が現れた。
天山を討ち取れという上意を拝命したというのだ。忍びの連絡網ですら、先ほど届いたばかりというのに、それを幕閣が同時に知っていた とは何を意味しているのか。正就らは駿府へと向かう。
その頃、甚内は駿府へ戻り、巨大弓「破城弓」を完成させ、 城番匠の真鄙権之丞に取り入る。駿府城に侵入する為に徒弟衆に入ろうというのだ。そのために権之丞の孫、小梅を誘拐していた のである。権之丞と息子の仁左衛門は要求を呑まざるを得なかった。
真鄙の徒弟となり駿府城内へ入った甚内は、天守閣を仰ぎ見た。当初、甚内はそのまま夜を待つ作戦を考えていたが、城の検問は予想以上 に厳しかった。
入った人数と出た人数が照合できなければ城内は厳戒態勢となるのだ。甚内は悩み空を仰いだ。鳶がのどかに舞っていた。 あの山の上からなら一飛びなのだが・・・・・・。
張目の襲撃から逃れた天山らは散り散りとなり五条の大橋を目指した。京へたどり着いた傭忍らはボロボロだった。 そんな中、平然と立ちすくむ天山は、妓楼に身を隠すことを提案し、「むらさき屋」に宿をとった。 そこで遊女蛍火を連れてゆくと決めたとき、祭りは始まった。
飛耳張目の二度目の襲撃である。なだれ込む忍びたちは鴉羽刀を引き抜き、あたりで寝ていた男女に突き立てていく。一人も逃さないため 店は完全に封印されている。むらさき屋はたちまち混乱の渦に巻き込まれた。
逃げられぬと悟った傭忍たちは反撃に出るものの、ついにすべて斬り伏せられた。だが天山の死骸は見つからなかった。焦る張目。 煙の匂いがしてきた。火が放たれたのである。
ついで刺激臭が鼻をつく。煙玉だ。いつのまにか折り重なる忍びたちの死骸。やがて張目の前に現れた天山は、獣の腸で作ったと思しき管 を繋いだ仮面をつけていた。
天山に突きをかける張目であったが、かわされると天山の一閃。顔面を斬り下ろされた張目 は火の中に飛び込み、仕込んでいた火薬によって大爆発を起こして四散した。
駿府の正就らのもとへ飛耳張目返り討ちとの知らせが入った。焦る正就はかしらの一人豹三郎に八十人ほどの手勢をつけ天山討ちを命じる。
家康が毎朝看経ノ間にいることをつきとめた甚内は、仲間の杢助を浅間山の山頂に連れて行き、空を舞い城内へ潜入する案を提案した。 浅間山は駿府城と目と鼻の先にある。杢助は高いところから低いところへ滑空する「鳥人」のからくりを思いつくのであった。
蛍火を連れた天山は東へと向かう。監視の目を感じ取った天山は蛍火を囮にし、待ち構える鎌子十内たち甲賀者らの裏手へ回った。 囮の蛍火に一斉射撃されると同時に天山は十内らに襲いかかった。
先手を取られた甲賀者らは一瞬まどい、一掃される。残った者たちも 天山の仕掛けた罠によって次々と消されてゆく。対峙した十内の喉を貫いた天山は街道へ下りた。そこには変わり果てた蛍火の姿があった。 「すまぬ、蛍火」天山は狂ったように走り出した。
駿府城三ノ丸の内陣に集まっていた正就たちに、老忍ねず八は探索方にまわして欲しいと願い出る。正就が許可したとき、 豹三郎からの忍び飛脚により、鎌子十内以下六十一名全滅との知らせを受ける。
正就は苛立った。なぜなら柳生宗矩が江戸を立ったとの報せを受けていたからである。 正就は周囲の反対を押し切り、駿府支配の黒丸惣十郎の出陣を命じる。
その三日前、豹三郎は天山より逃げてきた十内配下の犬丸に出会い、十内らの全滅を知った。 豹三郎は犬丸が天山の尾行につけたという孫六を見つけた。孫六によると、天山は丘の上で火を焚いて休んでいるという。
罠に違いないが、この機会を逃す手はない。豹三郎らは山を囲み、輪を狭めて扼喉する。手攻めをかけて摧陥郭清せしむ。包囲、拘束、 殲滅を意味する。
だがやはり罠であった。次々と落とし穴に掛かる忍びたち。焚き火の傍にあったのは死骸であった。これは孫六の死骸 では・・・・・・。先に会った孫六が天山だったのだ。
追撃に入った豹三郎らだが、天山の猛攻に壊滅状態となる。こんな中、豹三郎は一騎打ちを申し出る。作戦を有利に進めていた天山に 応じる義理などなかったのだが、天山はそれに応え、サスガ(短刀)を抜いて豹三郎に打ちつけた。
両者の武器は凄まじい速さでぶつかり合い、火花を散らす。頭部の出血により一瞬視界を奪われた豹三郎の胸を、天山のサスガが貫いた。 鳥之助ら生き残りのものたちは愕然と見上げていた。そこには豹三郎のむくろが首吊りに吊り下げられていた。
甚内は老人とすれ違った。ねず八である。ねず八は、天山の影に隠れ駿府で蠢いていた甚内たちの存在を突き止めたのだ。だが、かつて は手練れの忍びといえど、年には勝てず、臨済寺に自ら名乗り助けを求めながら、甚内に斬られた。
正就は激怒した。忍びはおのれの正体を隠して死んでいくもの。しかし、ねず八は名乗った。おかげで服部党まで連絡が届いたわけだが。 だがどうも引っかかった。
ねず八は常に先代の近くにあり、怯えて取り乱すとは考えにくい。ねず八は襲ってきた者の正体を知ったのでは ないか。左内はねず八の死体を調べると裏文字を見つけた。「ふうま」ねず八は口封じを避ける為に、自らの身体を使ってみごとその 事実を伝えたのである。
西に天山、駿府に風魔。両者は果たして無関係なのか。天山は風魔に依頼されたか、買収されたか。あるいは、 だまされているとしたら・・・・・・。正就は黒丸惣十郎を呼び戻すよう命じる。一度出した下知を引っ込めるという最悪の選択だった。
尾張ノ宮の船着場で海原を見つめる男、黒丸惣十郎だ。天山が豹三郎を葬った後、船に乗ったという情報を得たのである。そこへ火事を 起こしている船があるとの知らせが入った。
惣十郎は走った。辺りに潜ませていた部下も、われもわれもと走り出す。船が見える場所まで 来た時、鳥之助がいた。鳥之助は天山が裏の丘の中へ逃げ込んだ事を伝えると力尽きた。
惣十郎らは丘を囲んだ。総勢百五十名。包囲を徐々に狭めていき天山を追い詰めて行く。人影が現れた。かすかな海水の匂いがする。 天山だ。
突然飛び出した分胴によって先頭の者は額をたたき割られた。銃兵が一斉に火を噴くが、味方を撃ってしまう。 早くも天山の術数に陥ったのである。
だが、さすがの天山も百五十名もの敵に囲まれるとは予想していなかった。包囲網の一番薄いところを突破した天山であったが、 次第に戦意を喪失させていく自分に気づいた。
疲れ、心の疲れだ。敵を倒しても何の満足も湧いてこない。妻と子たちの死についても悲しみが湧くばかりである。 あまりにも人を斬り過ぎてしまったのだ。
悪酔いした天山に目潰しが叩きつけられた。天山は目を抑え、刀を振りまわし、木にぶつかり、石につまずきながら斜面を転がり、 やがて冷たい海に逃げ込んだのであった。
四日後、惣十郎のもとへようやく天山の居場所を見つけたとの知らせが入る。同時に駿府からの帰還命令も届き、天山の背後にいるのが 風魔と知れたのである。
惣十郎は命令を無視し天山討伐に向かう。服部党は昔のよさを失った。天山こそ昔ながらの服部忍びだと・・・・・・。
天山は小和田の漁村にある、お甲の家に潜んでいた。早くもお甲と枕を交わす間柄となっていたが、惣十郎らの襲撃により轟音とともに お甲は爆発に巻き込まれた。怒り狂い、走る天山に平行して走ってくる影があった。惣十郎である。
走りながら惣十郎は天山に問うた。何ゆえそこまでわれらに敵対するのかと。天山は妻と子らを殺された怒りをぶちまけるが、惣十郎が 風魔の策略であることを告げると、天山は気づいた。利用されていたのだ!みるみる驚きが広がる。だました本人は駿府にいる甚内である。
風魔ごときにはめられるとは恐れるに足らずと、惣十郎は天山の脇にまわりこみ襲い掛かる。天山は妻子はともかく、今ふたたび掛け替えの ないお甲を失ってしまった。これはまぎれもなく服部党のせいだと、再び怒りを爆発させる天山。
両者の刃は激しい金属音とともに火花を散らす。鉄の焼ける臭いが鼻をつく。天山の怪力によろけた惣十郎に天山の連打。 「これでどうだ!」太刀を吹き飛ばされた惣十郎の頭部を天山の斬撃が貫き、惣十郎の顔半分はどこかへ飛んでいった。
天山は血まみれの拳を震わし吼えた。背後から忍びどもが追いついてきた。天山は駆け出した。許しがたき男、甚内のいる駿府へ・・・・・・。
果たして、天山は甚内に恨みを晴らすことができるのか!天山に照準を合わされた甚内の家康暗殺計画の結末は!?そして明かされる 服部党に追われた天山の秘密とはいったい・・・・・・!!?
戦国時代が終わって、服部党の長が二代目へと代わり、忍びたちは落ちぶれていった。というのは、よく知られている話で、その辺の 頃の話である。
この話の中では、忍びたちは決して落ちぶれてはいないのだが、最強の天山を討とうとするがために、ほとんどが返り討ちにあい、 壊滅状態となって結果的に落ちぶれてしまうことになる。
天山はとにかく強いという設定だから、斬るは斬るはもうザックザク、人を人とも思わぬ所業である。でもただ単に力があるとか、剣技に 優れているとかじゃないんだよな。
常に一人対数十人と戦っておきながら勝利を得るのは、天山がトラップや不意打ちを確実にフル活用 しているところにある。
もっとも忍びらしい強さを天山は発揮している。張目の襲撃では、内通者が仲間にいるのを知っておきながら泳がせ、張目らをおびき寄 せてから煙玉で相手の動きを封じて斬りまくる。天山は今で言うガスマスクのようなものつけていたから大丈夫という奇抜さ。
鎌子十内の襲撃では、途中でナンパしてきた蛍火を囮に使って十内らを引きつけ、背後から襲撃し混乱を誘い、落とし穴を活用して 斬りまくり。
豹三郎戦では顔が知られていないことを良いことに、豹三郎らの前に仲間として堂々と登場。言葉巧みにトラップへ誘い込み またも斬りまくり。
惣十郎の襲撃でも落とし穴を活用、襲撃人員が多いことを利用して同士討ちを誘いまたまた斬りまくり。 結局四人とも最後は一対一という形には持っていくのだが、天山の強さの前にあっさりと斬られるというほど体技も只者ではない。
惣十郎との打ち合いでの天山の圧倒的な連打は見ものである。さらに豹三郎が天山に殺られたとき なんか鳥之助は泣いちゃう始末。それぐらいの極悪ぶりを天山は発揮してくれる。
近年に見る忍者作品は善な奴が多いからな。その辺天山は違う。忍びの仕事柄による悪属性をまっとうしている。 そしてこれを最強と呼ばずに何と呼ぶのか。
天山はその強さ故に甚内に利用された。天山も忍びとは縁を切って、医者として平穏に過ごしていきたかったのに 引き戻された。天山が弱かったらどうであったろう。捨て置かれたに違いない。あまりにも有名になってしまった代償である。
例えば、芸能人がプライベートでサインなどを求められる。芸能人は名前と顔が知られることも仕事の一つであるから、それに応えるのも 仕事の一つであり、義務でもある。なのに今はプライベートですから・・・・・・と断るのは間違っている。
そんなことはどうでもいいが、これもある意味代償と言える。対処次第では仕事が有利になる。だが忍びの場合は有名になると 仕事に差し支える。
天山が忍びであったという過去を消すことは出来ない。 天山は忍びとして医者に変装し続けなければ平穏な生活は送れなかったのだ。有名であるが故に甚内に見破られてしまい、 代償として戦いに舞い戻ることになる。
天山が心の底から戦い好きならそれでも良かったのかもしれない。 だがこの話の結末の部分で天山は正就に言う、
「幼き頃より服部党に あり、地獄の犬として生きた人生こそ虚妄にございます。(中略)なれど、それがしにもまことの人生があるにはありましたな。奈良三条 にあって慈風として生きた数年間・・・・・・」
そう、忍びとして生きた頃よりも、医者として幸せに暮らしていた頃のほうが、本当の自分の人生であったのだと。 現実逃避とも取れるセリフであるが、自分のやりたいことをやりながら送った人生、それが天山自身の全て だったのだろう。
我々は人生でどんなことが起ころうとも生きていかねばならない。楽しいことばかりじゃない。何もない人生かもしれない。でもそれが 現実だ。
その現実の中で、何が今一番必要なのか、何をすることが一番しあわせなのか、そう考えながら生きていくことも重要なんじゃあ ないかって思う今日この頃である。
最後に、巻末に載っているかっこいい文句をどうぞ。
一切は虚妄なれど、その中を生くる人の心は実。
| なんか手裏剣とか売ってたよ!伊賀流忍者店! |
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