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或冒険者ノ誕生
 その集落では、十数年に一度、耳の長い子供が生まれる。
 そうしたらそれは、村の祭事を司るおばばに養育させるのが、常であった。
 特に女児の場合は、巫女と呼ばれ、幼い少女に降りるという神のよりしろにされることもあったりした。
 
 だがまあ、そういう形式ばかりの儀式はこの際あんまり関係ない。
 シェリルの主な仕事は、おばばのところにやってきた悩み相談の人にお茶を出して、囲炉裏のそばで偉そうにしているおばばの代わりにうんうんといって話を聞いてやることである。
 あとは奉納の剣舞を覚え、神事に使う特殊な植物を集めたり、加工したりということもやった。
 
 二十歳になると、そういった子供たちは、そのまま祭事の道に進むのか、それ以外の道を選ぶのか迫られる。
 それ以外の道を選ぶのであれば、村の他の少女が十代の半ばには済ませてしまうように、婚姻をする必要があった。
「いい男、いないじゃろ」
 おばばは見透かしたように笑う。
 かといっておばばのように、壇上で威厳のあるような様をしているのも、あんまりなあ、とシェリルは思った。
 いや、その時はまだ、アキラというのが彼女の名前であった。
 
 そんな少女のために、道はもう一つ用意されていた。集落を出、修行の旅をするのである。
 そのようにして他の村から来た人間が、この村にも根を下ろしていた。基本的に閉鎖的な集落同士でも、たまにそうやって新しい血を取り入れあったりしているものであった。
「やっぱそれかなぁ……」
「……いちおう、わしの跡継ぎになる予定がないか、聞いておくぞよ」
「うーん……向いてないと思うんだよなぁ。だっておばばだって、アキラが男だったらよかったのに、ってよく言ってるし」
 女子にしてはちょっとつきすぎた筋力のこと、だとアキラは思っている。
「ふぉっふぉ」
 おばばは何も言わず笑った。
 
 そんなわけで数えはたちを過ぎた年の初春。アキラの姿は
 海を渡る船の上にあった。
「……イキオイって、大事だよね」
 
 船には始まったばかりの貿易を担う商人の他に、1人、アキラと同じように刀を提げている男がいた。聞けば、交易の始まる前から何度か大陸と島を行き来したことがあるらしい。
 サクライ村の、アキラ。それを翻して、シェリル=クォーツ。
 その名前は、同乗した皆に付けてもらった。
 皆はシェリルの生い立ちや旅に出た理由を聞いて、体術の心得があるなら、冒険者になればよいという。
「それなら、『月光華亭』という宿がよいでござるよ。ここから一番近いのは、オランでござろうかな?」
 刀を提げた彼は言う。
「オラン、ふむふむ」
 だが。
「されど気をつけるでござるっ、オランの複雑な町並みには人を惑わす魔力が   
 念のため、地図を書いてもらい、アノス沿岸からオランに入ったところまで商人に同行してもらって、そこから先は一人で目指すことにした。
 
 
 端的に言うと地図は役に立たなかった。
 
 
……その恩人の名前をセツナというのだが、その名が月光華亭でどういう意味を持っているか、その時のシェリルはまだ知らない。
 
 六ヶ月後、月光華亭に、やっとたどり着いたシェリルの姿があった。山を長い間彷徨ったため、元からあった野草の知識以上の生存技術をいつの間にか獲得していたのはここだけの話。
 たどり着いた店の看板にはウォール支店、と書いてあった。   ウォールはオランから街道を北に数日進んだところにある地方都市の名である。
 常に微笑をたたえている女将は、シェリルに水を一杯出して話を聞くと、しばらくの間、掃除係の下働きとして雇ってくれると告げた。
 
 さて、数日働いて、シェリルはふと疑問を抱えた。
「……掃除って、刀関係ないよね?」(東方語)
……暇な時間帯にそう呟いたら、近くにいた少女がこちらを見た。
「刀?」
 自分と似た年格好で、やはり耳が少し長くて、こちらに来てから見かけるようになった白っぽい髪に白っぽい肌をしている。
 豪快に食事を平らげ、空き皿を山と積み重ねていくところに親近感が沸いた。……じゃなくて。
「ん。親切な人が、心得があるなら、ここに来いって言ったの」
 まあ正確にはココではないわけなんだが。
「そなの?」
 カウンターの上を綺麗にしながら打ち明ければ、少女(シーシェルと言った)は皿の上を綺麗にしながら、冒険者の宿と冒険者というものについて教えてくれた。
「んー……刀、もってるけど、儀式と、ちょっとしたものぐらいにしか、使ったことないんだよね」
「他何できる?」
「風を読んだり、水を綺麗にしたり、とかかなあ……でも」
「ん?」
「こっちにきてから、うまく、できなくなってる」
「それって、精霊のこと?」
「精霊? ……わかんない」
 ふーん、と彼女は頷いて、フロアの向こうにいた2人を紹介してくれた。
 
「そういうことでしたら、私でお力になれることがあれば」
……女の人はともかく、なんで男の人は植木鉢の中に立って変なポーズで固まってるんだろう。
「わかった、私知ってる、これ修行って言うんだよね」
「せいかーい」
「ウェインさんっ」
 あわてた女の子のほうはアルティと言うらしい。この2人もちょっと耳が長い。こっちではハーフエルフと言うんだ、とシェリルは勉強していた。
 話を聞いて、2人はうーん、と考え込んだ。
「えーと……、まったく見えない、というわけではないんですよね? その、普通の方と同じ、というわけではなく……」
「うん。でも、今ふたりの話聞いて、ふたりの見てるのとも、違う気がする」
「ほうほう」
 植木鉢から出て、ウェインが庭への扉に向かった。
「習うより慣れろって言うじゃない。修行修行ー」
 
 ここの庭は芝生が広がっていて、片隅を小川が横切っている。何本か、一抱え程度の木も生えていた。
「うん、じゃ、そこの岸辺に立ってみて。うん、もうちょっと横、あ、そのへん」
「足元滑りますから、気をつけてくださいね」
 ウェインが音頭を取り、アルティが気遣う。
「わかったー」
 それでどうすればいいのかな、とシェリルは次の指示を待つ。
「気をつけてねー。えいっ」
 
 と言ったウェインの頼みに応じて、ノームは思いっきりシェリルの足をすっころばした。
 
「ああっ、シェリルさーんっ?!」
 というアルティの悲鳴と水音はどっちが先に耳に届いたのだろうか。
 シェリルは後頭部から思いっきり、小川に突っ込んでいた。
 視界に太陽が見える。
 あ、時節柄ちょっと涼しくて気持ちいいかも……
 なんてのんきなことを思ったシェリルの横に
 
 もう一つ水柱が立ったり、した。
 
「えー、アルティまで修行すること、ないのにー」
 ウェインが真顔でのんびりと呟く。
「うわあー?!」
「大丈夫ですか?!」
 シェリルがびっくりして起き上がれば、目が合ったアルティは自分のことより先に人の心配をする。
「そっちこそだいじょうぶ?!」
 水滴が身を起こしたアルティの金髪にはね散らかされて、太陽の光を受けて光っていた。
 そういえば、ウェインの髪も、シーシェルと同じ、銀髪なのだった。
 こっちの人の色彩にはなかなか慣れなかったけど、太陽の下で見ると、きれいですごくいいものに見えた。
「……くしゅん」
 
……あ、風。
 
 濡れた体に風が体温を奪って、くしゃみが出て、それで、太陽と水と風   
「ありがと、ふたりとも」
「もしかして、わかったんですか?」
 目を見交わして、3人のハーフエルフはふふっと笑う。
「ん。おれいに、おいしいもの、どう?」
「はいっ。お役に立てて、何よりです♪」
「なんだ、次は木登りして落ちてみる修行とかどうかなって思ったのにー」
「ウェインさんったら、もう」
……そんなわけで、数年越しの宿題でした。
 星神のしもべを書いた直後にリクエストいただいた『シェリル話』。登場しているシャーマン2人は、その時にエキストラ? として募集したお二人です。特にアルティとは同期で、何かとご縁があるお嬢さんですね。
 セツナの話や、その後の女将さん、ウィラさんとのやりとりはもっと前、キャラ作成時にPLさんたちと話していてできた設定です。
 シーシェルと知り合ったのは実際にはもうちょっと後で、元々ここに登場する冒険者は完全NPCのつもりだったのですが、今回、せっかくだからということで『美味しいものは正義』仲間にご出演願いました。そこだけちょっとパラレル、だと思って読んでくれると幸いです(あ、公式設定これでもOKです・笑)。
 IRCでは特に触れませんでしたが、実はハーフエルフ祭だったのでした……
紫嶋桜花@シェリル SWRPG