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クロエ19歳
 故郷の湖を出てから3年くらい経ってたっけ。
 鍵開けとか、忍び足とかの訓練はしてたから、妖精どもに手伝わせて、スリやったり空き巣やったりして稼いでた。
 ま、その日暮らしだけどね。酒代が稼げりゃ充分。
 大きなヤマなんて、踏むつもりもなかったんだけど。うまくいってたから、気が大きくなってたのかなー。
 盗んだのは、マジックアイテム。高く売れそうだったから目をつけただけで、効果とかは知らない。
 でも、それで冒険者が呼ばれたって聞いて。
 やばいかなーと思ってさ。とりあえず隣国に高飛びして、しばらく身を潜めてようかなと思ったわけ。
 ところが、そう上手くはいかなくってさ…………
 
「偉大なる始祖神ライフォスよ、かの蛮族を打ち砕き給え……フォース!」
 バカ遠いところから衝撃波が来て、私の前にいた蛮族を吹き飛ばした。
 その余波で、私の帽子もどっかに飛んでいく。
「大丈夫か!? 後は我々に任せてくれ!」
 冒険者らしき一団が走ってきて、蛮族たちに追い討ちをかける。
 なんだかわからないけど、チャンスには違いない。
 バックレようと思ったら、後ろから走ってくる奴がいた。
 真っ白な鎧にマント。手には戦棍。そして……頭には、大きな角。
「同族……?」
 彼は私の横に立って、仲間たちに回復の祈りを飛ばす。
 ……こいつがここにいる限り、逃げるのも無理っぽい。
    チェックメイト。
「あいつを倒したら、君は街の衛視に引き渡す。覚悟を決めておけよ」
 祈りを捧げる合間に、にやりと私に笑いかける。イカレてんじゃないの、こいつ。
 
 
「刑期は3年になったって?」
「だから何だっていうのよ」
 誰が面会に来たのかと思ったら、この前の神官戦士だった。わざわざ何考えてんだか。
「名乗ってなかったな。俺の名前はロウ。君は?」
「……クロエ」
「クロエ、か。誰が付けてくれたんだ?」
「……母親」
 両親は、ちょっと前に面会に来た。母親に泣かれたのは、さすがにちょっと応えた。
 このタイミングで世間話みたいにこういう質問されるのは、正直ムカつく。
「いい名前だな。真剣に考えてつけてくれたんだろう。いいお母さんじゃないか。だめだろ、心配かけちゃ」
「……なんであんたにそんな事言われなきゃなんないわけ?」
「あー、ごめん。その……」
 彼は、頭に巻いていたターバンを取った。
「俺も、これだから。ちょっと気になるっていうか」
「捨てられたクチ?」
「はは、ストレートに聞くなあ。ちゃんと実の親に育てられたよ。でもさ……」
 
 ライフォス神官の息子として生まれたロウにとって、家は香り付けてごまかしまくった安酒みたいなものだった。
 穢れを負っているからといって、差別はされない。始祖神神官の跡取りとして、大事に育てられる。
 でも、周りの温かい視線は、ひどく居心地の悪いものでもあった。
 いっそ、はっきり言ってくれれば。忌み嫌ってくれれば、反発もできるのに。
 
「家族に大事にされても、周りに差別されなくても、やっぱり、何か抱えてきたものって、あるだろ?」
「俺は、神様について、考えて、考えて、今も考えてるけど、そうやって考えるからちょっと救われてる」
「きみに救いが必要なのか、何が救いになるのかなんてわかんないけどさ……ちょっと話をしてみたかったんだよ」
「出てきたら、また会ってくれないか? ……こんな稼業だから、それまで俺が生きていられるか怪しいけどな」
 
 
 後から聞いたけど、あの神官戦士……ロウは、私を衛視に引き渡した後、各所に話を入れてたらしい。
 出来心だから刑は軽くしてやれとか(出来心なわけないじゃん)
 まだ若いし、田舎出で世間知らずなだけだから、更生の余地はあるとか(大きなお世話もいいとこよね)
(同情されるのが一番ムカツクって、あんただってわかるでしょーに。新手のイヤがらせ?)
 
 ま、それだけの話なんだけどさ。
 思い出すたびにムカツくわ。
 どっかで野垂れ死んでると思うけど、万一生きててまた会うことがあるなら、思いきり文句言ってやる。
「面白おかしく生きてればいいだけよ。この世のどこに救われてる奴がいるってゆーの?」って。
 
 
 で……まあ。
 酒でも奢ってくれれば、許してやろうかな。
 んで、冒険の話でも、してさ……
 
 
end

アザレア@クロエ SW2.0