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Flash memories...
ずっと昔、お父さまに聞いたことがある。
あたしたちルーンフォークの見る夢は……かつて経験したことのあるメモリーを再生しているだけなんだって。
だから、今あたしが見ている光景はきっと……あたしの中にあるメモリーが、再生されているんだろう。

「シンコクナダメージヨリ、カイフクイタシマシタ。タダイマヨリトウキハ、せっとあっぷヲカイシシマス   

あたしの体から、もう一つのあたしの声が、目覚めのときを告げた。
他の集落で生まれた同朋たちがどうなのかは分からないけど、あたしが生まれたクランベル村で製造された『仲間』たち……
CL型ルーンフォークは、深刻なダメージを受けるとスリープモードに入り、自己修復を行うことができる。
その時のあたしは確か、蛮族の強烈な一撃を受けて倒れ……スリープモードに入ったんだっけ。

「セットアップ、完了……当機は深刻なダメージより回復。バックアップメモリ・OS共に異常は見受けられません……」
「そっか、それは良かった」

誰も答えるはずのないあたしの言葉に、誰かが相槌を打った。
驚いて振り返ると、こちらを心配そうに覗き込む青年の姿が見える。

「……どちら様、でしょうか?」
「それはこっちの台詞だよ」

苦笑しながら、彼はあたしに笑いかける。
人なつっこそうな笑みを浮かべる彼は、あたしたちが本能で仕えるべき主人として求める、人族の青年。
あたしははっとして、丁寧にお辞儀をしながら笑顔で答えた。

「これはご挨拶が遅れて、失礼いたしましたっ。あたしはCLジェネレータ製ルーンフォーク・タイプA・個体識別コードRISSAと申しますっ☆
 親しみを込めて、『クラリッサ』とお呼びくださいませ♪」

あたしの挨拶に、面食らってあっけに取られる彼。
次の瞬間、「ぶっ」と噴出し……その場で爆笑し始める。

「あ、あの、あたし、何か変なこと言いましたかっ?」
「い、いや、ちがっ……ちょっと、本名、長すぎっ……」

おろおろするあたし。
爆笑しながらお腹を揺らす彼。
ひとしきり笑った後、彼は笑顔のままあたしにこう言った。

「とりあえず、もうお昼だし……ご飯でも食べようか?」

そこまで台詞を聞いたとき……あたしの胸に電撃のような痛みが走り抜けた。
この人が、あたしのご主人様になる人だということを、あたしは記憶している。
彼がこの後、名前を伝えてくれるのも、記憶している。
あたしのメモリーの中にあるはずの、とっても大切な、ご主人様の、名前……

「あらーと、あらーと。ばっくあっぷめもりニ、ジュウダイナケッソンガミウケラレマス。めもりノサイセイヲ、カイシデキマセン」

彼の口が開いたけど、伝えられるはずの音が、警告音にかき消される。
と同時に、彼の映像もゆがみ、砂のようにバラバラになっていく。

『待って、行かないで
 あたしを、置いてかないで』

あたしは大声で叫ぶけど、闇があたしの心を覆う。
もう一つのあたしの声が、やかましいほど鳴り響き、眠りを促す。
でも、あたしは眠りたくなんか、なかった。
眠ってしまったら、そのまま大事なものを失うって、分かっていたから   



「……い。おい、大丈夫か!?」
「シンコクナダメージヨリ、カイフクイタシマシタ。タダイマヨリトウキハ、せっとあっぷヲカイシシマス   

あたしの体から、もう一つのあたしの声が、目覚めのときを告げる。
ずっと昔、お父さまに聞いたことがある。
あたしたちルーンフォークの見る夢は……かつて経験したことのあるメモリーを再生しているだけなんだって。
だから、今あたしが見ている光景もきっと、メモリーを再生しているだけの、はず……

「しっかりしろ、大丈夫かっ!?」

真っ直ぐな瞳。活発そうな瞳。意志の強そうな瞳。
あたしの目に飛び込んできたのは、一人の、活発そうな少年。
でも、頭の中の全てのメモリーを探っても、誰だったのか思い出せない。

「セットアップ、完了……当機は深刻なダメージより回復。バックアップメモリに多少の欠損が見受けられますが、他の機能に異常はありません」
「そっか、良かったぁ……」

彼は心底ほっとしたような表情を見せて、あたしを覗き込んだ。
高潮した頬、純粋そうな瞳、きりっとした目鼻立ち。
やっぱり、どう記憶を探ってもメモリにない……じゃあ、この光景は、現実?

「……どちら様、でしょうか?」
「それはこっちの台詞だって」

苦笑しながら、彼はあたしに笑いかける。
人なつっこそうな笑みを浮かべる彼は、あたしたちが本能で仕えるべき主人として求める、人族の少年。
あたしははっとして、丁寧にお辞儀をしながら笑顔で答えた。

「これはご挨拶が遅れて、失礼いたしましたっ。あたしはCLジェネレータ製ルーンフォーク・タイプA・個体識別コードRISSAと申しますっ☆
 親しみを込めて、『クラリッサ』とお呼びくださいませ♪」

あたしの挨拶に、面食らってあっけに取られる彼。
次の瞬間、「ぼっ」と赤面し……その場で硬直する。

「あ、あの、あたし、何か変なこと言いましたかっ?」
「い、いや、ちがっ……その、君が、あの……」

おろおろするあたし。
真っ赤になる彼。
ひとしきりもじもじした後……彼は、こう言った。

「と、とりあえず、俺んちで、飯食ってけよクラリッサ!!」

顔がメモリーと違う。
態度がメモリーと違う。
台詞もメモリーと違う。
この人は、あたしのご主人様じゃないと、すぐに分かったけど。
どこか危なっかしい彼の姿に、あたしの心はなんだか暖かくなった。

「わかりました……では、夕飯のメニューは何がよろしいでしょうかっ?」
「え、作ってくれんの?」
「はいっ、あたしはメイドですから。お給仕は、お任せくださいませっ☆」

たとえご主人様じゃなくても、受けた恩は必ず返す。
それがクランベル村に生まれた者なら、誰もがメモリに刻み込んだ、人族との約束。

「それで、貴方はどちら様でしたでしょうかっ?」
「あ、忘れてた。
 俺の名前は……」

ついさっき、あたしの脳裏にやかましく響いたノイズや警告アラートは、今回は入らなかった。
だから、あたしはしっかりと彼の名を記憶回路(ココロ)へと刻み込む。
今となっては、忘れることの出来ない……ううん。
忘れようにも忘れられそうにない、大事な名前を。
ルーンフォークって、浪漫な種族ですよね(力説しさむずあっぷ)!!
小日向瑞穂@クラリッサ SW2.0