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箱入り娘
「… …」
 
最初は、疑問も何も感じていませんでした。
ただ、身体が自分のものになった…と言う感覚がありました。
けれど、何をする、と言う発想が沸く訳でもありません。
強いて言えば、喉が渇きで痛かったので、それをどうにかしたい…と言う気持ちは働きました。
 
瞼を開くと、まっくらでした。
何かが響いてくる…それらの音が何であるか、その時の私に知る術はありませんでした。
暖炉の火の弾ける音と…人の話し声、と言うのは後になって思い返したことです。
 
「…!」
 
何か大きな音…声なのですが。それが響いて、わたしの目の前の視界が開けました。
視界に入ってきたもの…それは、ヒトでした。
 
「おはよう?」
「…?」
 
何か、音をぶつけられている…私はとりあえず首だけそちらに向くと、その…音を発する物体に手を触れました。
 
「おはよう!」
「オハヨー…?」
 
鸚鵡返しのように口を開いて声を出す…当時の自分は、意味などさっぱりでした。
これが、私の最初の一日。お嬢様に『お友達』としてプレゼントされた日の私…。
 
「ねえ!何かぎこちないんだけどっ!」
「あはは、そりゃ当然ですよ、基礎的な教育も受けてないものを無理言ってもらってきたんですから。いわばそのディアネは赤子同然なのですよ、お嬢様」
「えー?!」
 
周囲が何を言っているか判らないまま、私は身を起すと何か飲みたいという衝動に駆られるままに、ただ渇きを潤したくて…
周囲の人がしているようにテーブル脇まで歩くと、グラスに注がれた液体を口にして倒れました。
後々に聞いた話では、『起きて直ぐにワインを口にしてぶっ倒れた』そうです。
 
それから…お嬢様の遊び相手兼話し相手としての教育を最優先に兄分に当たるいーかげんなルーンフォークに躾けられながら育ちました。
 
事の発端はお嬢様の誕生日プレゼント選びの際に、『姉、妹、お友達』と言う三択を迫られ、なぜかお友達が採用されたんだとか。
と言うより、推薦したのが私の兄分で、無理を通したのも兄分で、教育の責任を取ると誓ったのも兄分だったそうです。
 
にしては、随分いーかげんな教育を受けていたと知ったので、恥を忍んで教育を受けなおそうかと本気で考えている現在の私が居るのですが。
服の正装としてふりふりなドレスを着せられた経験とか…兄分の事を呼ぶ時にとても恥ずかしい呼び方をしていたりとか…
 
こほん。
 
「アナタは私のお友達よっ!」
「えっ」
 
教育者がいーかげんだったので、まともに物事を学ぶのは殆ど実践の場でした。
不思議な事に、お嬢様の喜ぶ事がしたいという気持ちが私の中にあったので、そちらは頑張ると言う意識もなく学んでいたように思います。
 
…えぇ、兄分の教育は殆ど役に立たなかったのです。
今思い返すと、何も知らない相手に妹学とかすりこもうとしていたあたり、いーかげんと言うよりとんでもない人だったんですね。
 
「お友達と言うと…何をしたらよろしいのでしょうか」
「まずその言葉遣いからよ!下々のものが使うよーな言葉遣いは沢山なのよ、わかる?」
「解りません」
「タメ口ではなすのよっ!」
「申し訳ありません」
「だーかーらー!」
 
お嬢様は、こんな私によく付き合っていただけたと思います。
…私が話せる過去といったら…このくらいでしょうか?
並熊猫@ディアネ SW2.0