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Ref-rain

with arl (バートランド)
 居づらい。
 他の仲間たちが律儀にも村長の家に挨拶に行くというのをあくびひとつで見送って、先に宿を取っておこうとしたら、一人、宿屋兼酒場に行くというのが自分以外にもいた。
 そして自然な成り行きでひとつのテーブルで呑んでいる。
 この青年はついこの間、他の顔見知りたちと一緒にこちらをあの宿に放り込んだ一員だ。あの策士のやつら。
 とは言えあいつらも、目の前のこいつも何をどこまで聞いているのかは判らない。確かめるのはなんか癪だ。何を知っているのか、……どこまでお節介を焼くつもりだったのか。
 つまみは減る。
 エールは苦い。
 村長のところに行った奴らが戻ってくるのを待たずに食事を頼んでしまうのは少し気まずい。
 カウンターを眺めれば、否応なしに妹のことを思い出す。
「……この前の、さ」
──うっかりこちらから口に出してしまって、負けたと思った。
「宿。どうだった?」
 芋の揚げたのの最後の一切れを口に放り込んだ。相手はこちらを見る。
「料理の味とか、接客とか」
 ああ、と納得したような声が返ってきて、言葉が続いた。
「なかなか美人なウェイトレスと、うらやましいその旦那の気の利いたサービスが行き届いてて」
 少しの間。
 芋は口の中で溶ける。
「あったけぇ飯が食える宿だったぜ」
 それで、にやりと笑われた。
「……むー」
 聞いた手前、何か言わなくてはならないことがある気がしたが、とりあえずそれはどこかに放り投げる。
 気の利いたサービスに、温かい飯か。……遠いな、と思った。
 忘れていられる間は、決して近くはない。でも遠さを噛みしめることもない。
 それでも、それでもだ。
 今は二度とあの宿の近くに行くつもりがなくても、俺がこうやって誰かの仕事を受けるように、あの二人が誰かの困りごとを信頼の置ける冒険者に手渡す、そういう仕事を選んでいるなら。
 その言葉もきっと、繰り返されるのだろう。
「……ありがとう」
 質問への返事に、妹たちへの評価に、おそらく妹の頼みを聞いて俺を捜してくれたことに、
 そして、何も聞かないことに。
 それは何度も胸に落ち、降り込めるように染み渡る。
 ありがとう。
「お兄さん、いい人だね」
 言ってやったら、たちまち顔をしかめられたので、それが面白くて笑った。
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 『半分の花のための踊り』 エンディングA
紫嶋桜花@ディルウェン SWRPG