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ひとしずくのこえ
「さて、こんなものかな」

騎士神ザイアの神殿、ここはその一室。
小さく簡素な祠に祀られているのは、ザイアより神格を与えられし女神ルーフェリア。
その祠を清めることは、特に誰かに指示されたわけではない。
たまたま部屋の前を通りがかっただけ、たまたま扉が開いていただけ、たまたまその隙間から祠が目に入っただけ。
何故かその祠が気になった。何故かその部屋に通うようになった。
日課のザイアへの祈り。日課となった小さな祠の掃除。
どちらを疎かにすることもなく、いつの間にか祠の掃除は彼の勤めとなっていた。

「まいにち、せいがでますね」

声に振り向くと、そこには一人の少女。
ルーフェリア信者の娘だろうか、歳に似合わぬ難しい言葉、歳相応のたどたどしい言葉。
少女は、毎日決まった時間に訪れる。

「いえ、お嬢さんこそ、いつもご苦労様です」

おなじみとなった挨拶を交わしながら、用の済んだ道具を片付ける。
あるべき場所へと道具を収めて振り向くと、少女は静かに瞑想へと入っている。
胸の前で組まれた両手には、きゅっと力が込められている。
窓から差し込む日差しに、さらさらとした長い髪が輝く。
わざわざ声をかけて邪魔をしてもいけないので、何も言わずに立ち去ることにした。
ここまで合わせて、彼の日課である。


その日も彼は、祠を清めていた。
汚れを丁寧に拭い取り、床を掃く。
いつも通りに、日課をこなしていく。

「まいにち、ありがとうございます」

いつもの声、しかしいつもとは少し違った言葉。
些細な違和感には特に気を止めず、いつも通りに振り向く。
いつもはそこにある姿が、、、今日は見えなかった。

「あれ、、、?」

室内を見渡す。
小さな祠といくつかの椅子が設えられているだけで、人が隠れられそうな物陰などない。
扉だって、たしかに閉まっている。

「気のせいかな、、、」

室内に人のいないことを確認すると、ふと祠に目をやる。
きれいに清められた祠の中央には、ルーフェリアの像が据えられている。
さらさらとした髪を輝かせながら、胸の前できゅっと両手を組むルーフェリア像。

「、、、うん、まさかね」

祠に背を向け、いつも通りに道具を片付ける。
その背に、一言だけ。

「あ、まだそっちの角に埃が残っていますよ」
しぇる@ディーノ SW2.0