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ダストの告白
エイレンの街、収穫祭の前日。キャロル=メールの経営する宿「月読亭」にて
「母さんにさ、一つ言わなくちゃいけないことがあるの」
母さんが経営する冒険者の宿は、今日はお客様がいないので、私は人気の無いカウンター席に座り、
母さんが洗った食器を拭く光景を眺めながら、呼びかけた。
「うん、なになに?家に戻ってくる気になった?」
母さんは視線を合わせずに返事をする、ちょっと怒っているのかもしれない。
そりゃそうだ、今日まで勝手に家出していて、今日勝手に帰ってきたのだから。
「そうじゃないんだけど、その、とっても大事なことなの。私にとっては」
「アニスの大事な事なら、聞いてあげるよ」
今度は目線をこっちに向けた母さんは、一年前と全然変わらない好奇心に満ちた子供のような目で
私を見つめる。
母さんより背が高くなったのは、たしか6年前だったっけ。
今でも私は無駄に大きくなって、座っている私と、立っている母さんの目線が同じ高さにある。
そんな母さんが、たまらなく愛しくて。
そんなわたしが、たまらなく嫌いだった。
 
「私、母さんのこと、好きだったの。違うな、今でも好きなの」
「アリガト、私もアニスの事大好きだよ?」
全く変わらない母さんの表情を見て、私は安堵したような、落胆したような心境になる。
「違うんだ、母さん。私の好きは、そういうことじゃなくて、その…」
 
首を少し傾けて、不思議そうな目をして私を見る母さん。
ああ、駄目だ。そんな顔されたら、言葉が止まっちゃう。
またこのまま、曖昧なままで済ませてしまいそうになる。
そうじゃないだろう。ダスト=アニス=メール。
お師匠様にも言われたじゃないか。今日私は「止めを刺されに行くんだ」って。
「アニス、緊張したらどうしたらいいって、言ったっけ?」
「深呼吸して、落ち着いたフリをする!」
すー、はー。意識して、大きく呼吸をして、頭を整理するフリをする。
「落ち着いた?」
「タブン…」
「ならよし」
「うん、有難う母さん。それと、御免なさい」
「え?」
「私、母さんと愛し合いたかったの。家族とか、親子じゃなくて、恋人同士みたいに」
 
言った、言ってしまった。
ずっと心にしまい込んでおこうと思った、禁忌の言葉。
母さんは目を真ん丸くして、ずっと私の顔を見つめている。
きっと真っ赤になっている私の顔を。
「でも、もういいんだ。ずっと隠しておく事もできなかったけど。母さんと私が愛し合うなんて、変だし、
駄目だって解るから」
「アニス!」
母さんは叫ぶなり、カウンターを飛び越えて私に飛びつくように抱きしめる。
私の顔が、母さんの胸に埋まって、すごく、熱い。
突然のことで、頭の中がパニックになる。心が、沸騰する。
「アニス、あんたが何処に居たって、どんな風に考えていたって」
母さんの声は、少し、上擦っているようにも聞こえて、
「あんたは私の娘なんだからね!私の自慢の娘で!だから…」
「そっか、私いま、振られたんだよね」
「ゴメンね…私は母さんで、あんたは娘で、家族で…ずっと気づいてあげられなくて、ゴメンね」
「いいんだ、何か、スッキリした」
 
可笑しいな、きっと私泣いちゃうだろうって思ってたけど、何故か母さんが泣いていて、私は涼しい顔を
している。
でもきっと、何時か思い出して、泣いたりするんだろうな。
勝手に始まって、終わるべくして終わった私の初恋は。
〜おわり〜
amasiz@ダスト(アニー) SW2.0