握り込んだ拳にマナの炎を宿し、相対するものに全力で叩き込む。
烈火の如く苛烈。
業火の如く痛烈。
交錯した双拳がありったけの炎を炸裂させ、それから少し遅れて止めの合図が間に響いた。
 
炎の余韻を手に纏った少女は、しかし。
己が打ち倒した相手を、さも詰まらなさそうに見下ろしていた。


×
烈火



試合後、息一つ切らさない少女の横で、青年が肝を冷やしている。
「エッタは手加減を知らないから……」
「あら、にいさま。試合に手抜きする必要がどこにあるの?」
エッタと呼ばれた少女が、そう呼んだ青年に反論する。青年は彼女の双子の兄にあたり、名をオンディーヌと言った。
双子と判る程度に似通った、かつ武闘派の神官・見習いたちの中にあっては目を引くかわいらしい顔立ちの二人は、しかし今は明らかに、問題児を見るであろう視線が周囲から刺さっていた。
 
一言で言えばエッタは荒れていた。二言にすればどうしようもなく荒れていた。更に加えれば荒れ狂っていた。
生来より奔放な気質のあるこの少女、一年前まではザイアの修道院で慎み深い修道女の真似事などしていたのである。
積もりに積もった鬱憤が炎武帝である所のグレンダールの声を呼ぶ種火になったのなら、それはもう皮肉としか言いようが無かった。
本人にも、周囲にも。
 
さて、相対していた先輩拳士が担架で運ばれてしまってからは、目線を遣る先が減ったか、突き刺さる視線の量が増えた。
元より人目を引く二人である。さらに神官としては前述の変り種で、なおかつ二人揃って簡単な奇跡程度なら起こせる『本物』でもあった。
兄は兄で、似たような出でありながら、仕えるは騎士神ザイアではなく、水の女神ルーフェリア。
これで目立たないはずがない。
 
「行きましょ、にいさま。用は済んだわ」
「……ああ、うん」
 
エッタが兄ディーノの手を引いて神殿を後にする。
『いいのかなあ』というような顔が、この青年の人の良さを端的に示していただろうか。
arch@エッタ SW2.0