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thread and needle
   裁縫屋で、細い針と糸を買う。
長年やってきた習慣だ。
「……ったく、あんたの所為で、あたしの人生無茶苦茶だよ」
誰に言うでもなく、そう呟く。
 
   ソイツと会ったのは、ドジ踏んだ仲間を担ぎこんだ先でだった。
「どうしまし……っと、これは酷い」
緩やかな雰囲気のまま、眉を顰める。
「酷いのは判ってんだ、さっさと手当てしてやってよ!」
「ええ、まずは一番奥のベッドへ、力のありそうな方はそのまま付いててください。
 それと……貴方、湯を大量に沸かして、扉の前に出しておいて下さい。」
ハイもイイエも言う前に、台所へ押し出される。
   見くびってくれたもんだ
傷口を焼いた時、大暴れする奴なんて見慣れてる。
大体、もっと酷いもんだって見てきたんだ。
そう思ってるうちに、仲間の悲鳴が聞こえてきた。
 
数刻後、手当ては終わったとソイツが声をかけてきた。
早速、様子を見に行った。
「……どうしたのさ、その顔」
全員の顔が、真っ青になっている。
……一人が、ぽつりと口を開く。
「お嬢……」
「お嬢は止めてよ。……んで?」
「……ここの医者、狂ってやがる……!」
「はぁ? だって、手当ては無事済んだって……」
無言で、毛布をめくる。
   そこには、あちこちを糸で縫われた身体があった。
「なんっ……なんだよ、こりゃ」
「ヤツがやった……『手当て』だよ」
「ちょっ、え、待って……」
おかしいだろ?
糸ってのは、布を縫ったり繕ったりするもんだ
縫い包みなんてのも縫ったりする。
でも、これは違うだろ?
人を、人を   
 
   良く判んないうちに、そいつの胸倉を掴んでるあたしが居た。
「何考えてんの!?」
「何って、何をですか!」
こいつでも、声を荒げる事があるのか
頭の片隅で、そんなどうでもいい事を考える。
「あんな、人を継ぎ接ぎ細工みたいにして……!」
「言ったでしょう、手当てだって!」
「ふざけんな! あんな風にしてくれって言った覚えはない!」
「じゃあ! 腕が満足に使えなくなっても良かったと!?」
「なに……?」
思わず、腕の力が緩む。
その隙に、アイツが手を振りほどいた。
「……いいですか? 彼の腕の傷、酷い物でした。
 焼いただけで放っておけば、引き攣れた格好で固まってしまう可能性もあったんです。」
「……」
「糸で縫ったと言っても、それは一時的なものです。
 暫く様子を見て、傷が上手く癒着すればそっと外します。」
……嘘を付いている様には見えない。
「……いつ治るの?」
「……ここまで大がかりな物は初めてなので、週一回くらいずつ様子を見る事にします。」
「……判った、あいつらにはそう言っとく」
……信用したつもりはない。
だけど、アイツの目には、意地と誇りがあったんだ。
 
「思えば……あれがケチのつき始めだったね」
テーブルの向こうには、酒の注がれたグラスだけが置かれている。
「あんたに会わなきゃ、ここでこんな事もやってないんだろうけど」
……頬を何かが伝う。
「……もう私は、貴方のパートナーじゃない」
「あんたが、あたしのパートナーなんだ」
「……先逝っちまったんだから、文句は言わせないよ?」
「だから、さ」
「……あたしの人生、最後まで見守っててよ」
頷く様に、氷が音を立てた。
NO@フローライト SWRPG